
【総合部門特別賞】
株式会社ワークスタジオ
大量に廃棄される衣類を再資源化した、サステナブルなリサイクル素材「PANECO®(パネコ)」。この革新的な開発に挑んだのは、店舗什器の製造・開発を手がけている株式会社ワークスタジオです。代表取締役・原和広氏がこの取り組みに踏み切った背景には、2つの大きな“気づき”がありました。ひとつは、ファッションロス(使用済みの衣服が廃棄される問題)の深刻な実態を目の当たりにしたこと。もうひとつは、自社が属する什器業界が、サステナビリティとはかけ離れた世界であるという違和感でした。素材開発の経験がまったくないところから始まり、数々の試行錯誤と挑戦を重ね、やがて世界にも認められるプロダクトへと成長を遂げています。「第21回勇気ある経営大賞・総合部門特別賞」の受賞にもつながった企業変革の軌跡をひもといていきます。

ワークスタジオは、長年にわたり家電量販店などの店舗什器の設計・製作を手がけてきましたが、業界の停滞や下請け構造の限界を痛感。「このままではいけない」という危機感から、事業転換の必要性に迫られていました。
転機が訪れたのは2019年。ある依頼をきっかけに、原氏はファッションロスの実情を知ります。大量の衣類が廃棄されていく光景を目の当たりにし、「この服たちを、新たな素材に生まれ変わらせることはできないか」と着想。衣類をリサイクルして板材化するという、かつてない挑戦が幕を開けました。

素材開発の経験が全くなかった原氏は、多額の私財を投げ打って開発に着手し、板材化の実現可能性を探るべく、制作工場など約100社にコンタクトをとりますが、すべて断られる結果に。しかし、従来から店舗用什器で使ってきた木質繊維板(木材を粉砕・繊維化し、接着剤を加えて板状に圧縮成型したボード)の構造に着目し、「衣類の繊維も同じ方法で製造すれば板状にできるのではないか」と仮説を立てます。この仮説をもとに、木質繊維板の製造を手がける国内大手工場に試作を依頼。こうして、ついに初の「PANECO®」試作品が誕生したのです。
ところが、試作の成功直後、新たな壁が立ちはだかります。 「試作を依頼した工場は木材の加工を専門としており、同じラインで衣類繊維を扱うと、異物混入のリスクが生じてしまう。つまり、試作はうまくいったものの、その工場での量産は不可能であることがわかったのです」
この課題に直面した原氏は、製造プロセスを工程ごとに切り分け、それぞれ適した協力工場を組み合わせるという方法を思いつきます。つまり、廃棄された衣類の回収、ボタンやジッパーなどの付属品の除去、繊維の粉砕、接着剤との混合、圧縮といった一連の工程の分業化ですが、そのためには工程管理や出来上がった製品の改良を、すべて自社で行う必要があります。ここでも原氏は多額の私財を投入し、新たなサプライチェーンを構築。こうして独自の流通と加工体制が整い、2021年春にPANECO®の販売が本格的にスタートしました。

「PANECO®は、木質ボードと同様の加工性をもちながら、布のような温もりとソフトな手触りを兼ね備えています。また、原料となる衣類の色や質感をそのまま活かせるため、インテリア素材やアート、家具や什器など幅広い用途で活用できます。さらには大理石のように、1枚として同じものができないという唯一無二の魅力もあります」と、原氏は語ります。
同年、PANECO®はヨーロッパの有名ファッションブランドに初めて採用されました。さらに、大手ゼネコンの案件では、建築現場スタッフが着用していた古くなった作業服を再資源化し、約3,000枚のPANECO®を製作。新築した同社ビルの床材として使用されました。こうした企業ユニフォームの再資源化は現在も多くの業界から関心を集めており、建材用途だけではなく、時計のような装飾品など、活用の幅は着実に広がっています。

PANECO®の最大の特徴は、「原料となる衣類の色や素材を一切仕分けせずに再資源化できること」です。この特性により、従来のリサイクルに伴う選別や加工工程の手間を大幅に省くことができ、再資源化のハードルが極めて低くなっています。そのため、より現実的で持続可能な循環型社会の実現に直結する素材として注目されています。さらに、PANECO®は一度使用されたあとでも、粉砕と圧縮の工程を経ることで、再び新たな板材として再生することが可能です。まさに“繰り返し生まれ変わる素材”として、未来のモノづくりにおける選択肢を広げています。

「現在は、これまでリサイクルが難しいとされてきた油汚れや汚物の付着した繊維についても、別の方法による再資源化に取り組み、研究を進めています。さらに、衣類にとどまらず、フードロス問題への応用に向けた研究も進行中です。繊維と食品という2大廃棄課題にアプローチすることで、より包括的な循環型エコシステムの構築を目指しています」
什器業界では長年、価格や納期の決定権が元請け企業に集中し、下請け企業側は受け身の立場を強いられてきました。当社も例外ではなく、発注側の要望に応えることが当たり前という業界構造のなかで、裁量の少なさに課題を感じていました。しかし、PANECO®の開発・展開を通じて、同社はビジネスのあり方そのものを大きく転換します。
自社で独自に素材開発から製造までを手がけ、メーカーとして独立した価値を生み出せるようになったことで、元請けとの関係も“受ける側”から“共に創る側”へと進化。取引先と対等に交渉し、選択できる立場を築いたのです。
「過去には、ある大手企業から、スポーツチームのユニフォームの再資源化を、協賛という名目で、無償で依頼されたこともあります。PANECO®を作る前でしたら、間違いなく引き受けていたと思いますが、このときはきっぱりとお断りしました。今では、そういった一方的な取引条件には応じず、対等な関係を築くという方針を明確にできるようになりました」と原氏は語ります。
どんな相手であってもフラットな関係を築き、誇りを持って事業に向き合う――その姿勢は、社内にも波及し、社員一人ひとりの意識にも変化をもたらしました。PANECO®の開発は、当社の企業体質そのものを変革する大きな契機となったのです。
PANECO®は2026年には量産体制への移行が予定されており、現在、その実現に向けた準備が着々と進められています。量産化によって価格を抑えることで、さらに多くの現場での導入が期待されます。「普及が進めば進むほど、PANECO® は目立たなくなっていきます」と原氏。目立たないというのは、目に見える表舞台ではなく、壁や床の裏側、家具や什器の内部といった、見えない場所に静かに存在しながら、社会に大きな変化をもたらす素材になる、という意味です。

PANECO®の開発当初、原氏が描いた夢は「世界で使われる素材に育てたい」という壮大なビジョンでした。そして今、その夢は着実に形になりつつあります。海外からの引き合いも増加の一途をたどり、繊維にとどまらず、食品分野へのリサイクル応用といった新たな可能性も広がっています。
「勇気ある経営大賞」への応募は、社員一人ひとりが自社の価値や仕事の意義を再確認するきっかけになったといいます。

「私たちのような小さな会社が、このような賞をいただけたことは、まず何よりも、自分たちの取り組みが世の中に認められたという実感を得る機会になりました。応募の際は、社員と一緒にプレゼンシートを作成しましたが、その過程で、改めて自分たちの仕事を客観的に捉えることができ、チームの士気も高まったように感じます。さらに、社外に向けて自社の取り組みを発信するうえでも、ブランド力を高める貴重なチャンスになったと感じています」
今、ワークスタジオが見据えているのは、「繊維」と「食品」という2つのリサイクル資源を軸にした、新たな循環型エコシステムの構築です。企業という枠を超え、社会課題の解決に向けて挑むその姿勢は、地球規模の持続可能な未来への一歩として、力強く歩みを進めています。
※「PANECO®」は株式会社ワークスタジオの登録商標です。
株式会社ワークスタジオ
本社:東京都新宿区四谷4-11-2 フィル・パーク四谷四丁目 2F
https://workstudio.co.jp/
主な事業内容:環境配慮型素材の研究・開発・製造・販売、筐体の開発・デザイン・設計・製作、什器における環境配慮デザイン・環境配慮設計の研究・開発、環境に配慮した什器のデザイン・設計・製作と回収・再生