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勇気ある経営大賞

日本初のハラール認証へ
──食の壁を越えた企業の挑戦

【総合部門特別賞】
株式会社二宮

株式会社二宮は、将来に不安を抱えていた既存事業から、日本ではまだ認知度の低かった「ハラール食品(イスラーム教の教えに基づいて食べることが許された食品)」に活路を見出しました。制度や文化の壁を越え、現地の認証機関で研修を受けるなど地道な努力を重ね、2004年には日本初となる加工食品でのハラール認証を取得。現在では自社製造を含め約120品目を展開し、多くの施設・企業・機内食でも採用がされています。こうした挑戦と実績が評価され、「第21回勇気ある経営大賞・総合部門特別賞」を受賞。未開拓市場への挑戦の原点と信念について、代表取締役社長の二宮伸介氏に話を伺いました。

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サラリーマンから起業家へ。転機は「インドネシアの台所」

もともと生命保険会社に勤務していた二宮氏は、バブル崩壊により突然の転職を余儀なくされました。そんな折、父の友人を通じて訪れたインドネシアに、思いがけない転機が待っていました。何度か足を運ぶうちに、現地の食文化に強く惹かれたといいます。

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当時、まだ日本には、インドネシアの食品はほとんど流通しておらず、「これは日本で必ずニーズがある」と、直感したといいます。ちょうどその頃、インドネシア食品の輸入事業をしていた知人からビジネスを引き継ぐ話が舞い込み、「自分なら売れる」という確信が背中を押しました。

また、二宮氏の親族が経営していた当社は、ビル賃貸業を営んでいましたが、バブル崩壊の影響で売上が半減しており、「このままビル賃貸一本でやっていくのは難しい」と二宮氏は感じていました。そこで、インドネシア食品の輸入を新たな柱として立ち上げようと決意し、当社に入社して事業をスタートさせました。「保険よりも面白くて、やりがいがある」。そう確信した二宮氏は、迷わず未知の市場に飛び込みました。

モスクや公園へも。サンプルを抱えてゼロからの営業

事業を始めた当初は、販路もブランドもないゼロからのスタートでした。二宮氏は、家族旅行にもチラシと商品を持参し、行く先々で営業活動を展開。「今日は、新規契約を1件取るまでは自宅に帰らない」と決めて、一日中営業したこともあったそうです。

こまた、モスクや上野公園に集まるイスラーム教徒のコミュニティにも足繁く通い、キッチンカーでの手売りや試食販売を実施。異文化の中に自ら飛び込み、信頼を少しずつ積み重ねていきました。その地道な努力が、やがて販路拡大の土台となっていきます。

「パンがない」のひと言が、自社製造の原点に

ハラール食品(イスラーム教徒が食べることが許された食品)を自社で製造するきっかけとなったのは、会社をたびたび訪れていた年配の男性のひと言でした。「自分たちイスラーム教徒が食べられるパンが、日本にはない」。その声に胸を打たれた二宮氏は、「日本にないのならば自分が作ろう」と心に決め、ハラールの概念を本格的に学び始めます。しかし当時の日本は、ハラール認証の体制が整っておらず、前例もほとんどない状況でした。

そこで二宮氏は単身インドネシアに渡り、現地のハラール認証機関が開催するセミナーに日本人として初めて参加。宗教的戒律に基づく厳格なルールや認証プロセスを一から学び、2004年、約2年の歳月をかけて、パン製造におけるハラール認証を取得しました。

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「イスラーム教徒にとって、豚肉やアルコールが宗教的に禁じられていることは日本でも広く知られていますが、ハラールの概念はもっと複雑です。添加物を含め、すべての原材料がハラールでなければなりません。それでも、あの男性にパンを届けたかった。その想いが、原動力になりました」と二宮氏は語ります。

原料から厨房まで。「完全自社対応」で本物を追求

ハラール認証を取得するには、原材料や調味料はもちろんのこと、調理器具や保管設備まで、細部にわたる厳しい管理が求められます。中でも添加物や製造工程には細心の注意が必要で、日本国内で手に入る素材だけではまかないきれないことも多く、代替原料の調達には大きな苦労がありました。

「ハラール加工食品を作るには、専用の設備も欠かせません。外部への委託は許されず、すべてを自社で完結する体制を整えました」と二宮氏。

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社内にハラール専用のキッチンを設け、レストラン勤務経験のあるインドネシア人シェフが常駐。本場の食文化に根ざしたメニューを日々開発しています。中でも人気を集めているのが「チキンカツ」。タイから輸入したハラールの鶏肉を使用するだけでなく、衣に使う小麦粉やパン粉に至るまで、すべてハラール認証を受けた素材のみを使用。揚げるだけでレストランのような味わいが楽しめると、幅広い層から高評価を得ています。

“まずい”が教えてくれる、改良のヒント

製品開発では、ムスリム社員を含むスタッフによる試食会を定期的に実施。味や食感に対する率直な意見が、品質を高める大切なヒントになっています。「うちの社員は、遠慮なく“まずい”とはっきり言ってくれます」と、二宮氏は笑います。その言葉を真摯に受け止めながら、何度も試作と改良を重ねて商品を磨いてきました。

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現在も、年に1回のハラール認証更新のタイミングに合わせて、必ず新商品の開発と提案を継続。チキンカツ、ピザ、餃子、たこ焼き、から揚げなど、商品はすでに120品目以上にのぼります。その多くが、「こんな商品があったらいいのに」という顧客の声をきっかけに生まれたものです。

「儲かるかどうかは後回し。必要とされているのなら、自分たちが作るべきだと考えています」。その真っすぐな姿勢が、多様化する食のニーズに応え続ける力となり、事業を前へと押し進めています。

広がる販路。学食・社食・機内食へと拡大

パンの製造から約10年が経った頃、東南アジアからの観光客が増えてきたこともあり、日本国内でもハラール対応の必要性が注目され始めました。二宮氏は、全国各地でハラールに関するセミナー講師を務めるようになり、需要の広がりを肌で実感していきます。

販路も順調に拡大し、今では全国のハラールショップをはじめ、大学の学生食堂や売店、IT企業の社員食堂、官公庁関連の施設、ホテルやレストラン、そして多くの航空会社の機内食で採用されています。

「世界人口の約3割はイスラーム教徒。これだけ大きな市場があるにもかかわらず、日本では十分な理解が進んでいないのが現状です」と二宮氏は指摘します。特に観光や飲食、宿泊といったサービス産業では、インバウンド対応として、宗教や文化への配慮がますます不可欠になりつつあります。文化的背景を尊重し、柔軟に対応することがグローバル社会での信頼につながる――まずは“知ること”が大切と、二宮氏は呼びかけます。

「好きだから続けられた」。想いが支えた20年

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これまでの挑戦を振り返り、なぜ続けてこられたのかを尋ねると、二宮氏はこう語ります。「自分が好きなことをしてきただけです。この食品をもっと多くの人に知ってほしい、食べてもらいたいという気持ちがあった。それだけです」。

「第21回勇気ある経営大賞・特別賞」の受賞を受けて、取引先や顧客から寄せられた多くの祝福の言葉は、これまでの取り組みへの確かな共感と、今後への期待を表すものでした。

「誰もやらないなら、自分がやる」。そんな信念でスタートした二宮の挑戦は、見えにくいニーズに応え続けることで、社会に必要とされる新しい市場を生み出してきました。多様性が問われるいま、“生活者の声”をビジネスチャンスに変える視点こそが、これからの企業に欠かせない力となるはずです。

株式会社二宮
本社:東京都渋谷区桜丘町18-4
https://www.ninomiyacorp.co.jp/
主な事業内容:ハラール食品の輸入卸売・製造販売、及び不動産賃貸業

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