東商からの重要なお知らせ

勇気ある経営大賞

“下請けだけで終わりたくない”
──三代目が導いた町工場の逆転再生

【総合部門優秀賞】
株式会社極東精機製作所

金属切削加工を主力とする株式会社極東精機製作所。経営危機に直面した町工場で、三代目社長・鈴木亮介氏は「下請けだけで終わりたくなかった」という祖父の意思を胸に、設備の刷新、若手の登用、ODMへの転換、ベンチャーとの共創など、次々と挑戦を重ねてきました。社員との対話も大切にしながら再生を果たしたその歩みは、「第21回勇気ある経営大賞・総合部門優秀賞」の受賞へとつながりました。その変革の軌跡をたどります。

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「町工場の限界」を打ち破る。改革の原点と最初の転機

011年、鈴木亮介氏は三代目社長となることを前提に株式会社極東精機製作所に入社しました。金属切削加工を主力とする町工場で待っていたのは、くわえタバコや酒気帯び勤務が当たり前という、“昭和の残像”のような現場でした。加えて、設備の老朽化、債務超過という三重苦の経営状況に直面していたのです。

「このままでは会社が終わってしまう」と強い危機感を抱いた鈴木氏は、改革への一歩を踏み出します。まず着手したのは設備投資です。当時始まったばかりの「ものづくり補助金(当時はものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金)」に申請すべく、自ら事業計画書を作成。資金調達のために銀行との信頼関係を築き、複数の新しい機械を導入しました。

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続いて、現場の若返りにも踏み出します。地元工業高校と連携したインターンシップ制度をきっかけに、若手人材の採用をスタート。若い社員たちは最新機械の操作にも柔軟に対応し、生産性の向上に大きく貢献しました。とはいえ、改革の道のりは平坦ではありません。ベテラン社員の退職により現場が回らなくなることもあり、鈴木氏自身が日中は現場で作業、夜は見積もりや営業に奔走するなど、不眠不休の日々が続きました。

懸命な立て直しが続く中、最初の転機が訪れます。インターンシップの取り組みがテレビ番組で取り上げられたのです。リニューアルしたばかりのホームページとの相乗効果で、アクセス数は以前の千倍に。問い合わせ件数も激増し、新規顧客との出会いが財務改善の大きなきっかけになりました。

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「以前は“選ばれる側”でしたが、“選ぶ側”になりました」と鈴木氏は語ります。入社当時1.5億円だった年商は、2018年には2.5倍に。借入金は4億円から5,000万円にまで縮小し、まさに逆転劇が実現しました。

OEMからODMへ。ヒット商品が変えたものづくりのカタチ

経営が上向く中、専務に就任した鈴木氏の中に「このまま“ちょっといい下請け”で終わっていいのか」という葛藤が芽生えていました。これまで下請けとして製造に特化してきた町工場が、最終製品を作るメーカーへと転身するのは、決して容易なことではありません。そんなとき、思い出されたのが、かつて祖父が口にしていた「下請けの部品加工屋だけで終わりたくない」という言葉でした。

その思いを胸に、OEM(他社ブランド製品の製造)への転換を模索し、問い合わせを受けた案件を一つひとつ丁寧に精査する日々が続きます。そんな中、自社のホームページ経由で舞い込んだのが、美容機器開発の相談でした。依頼主は製造ノウハウを持たず、資料はスケッチ1枚のみ。しかも「クリスマス商戦までに完成させたい」というリクエスト。完成までたったの4カ月という厳しい条件でした。

それでも「できないけれど、やってみます」と応じた鈴木氏は、自らエステ施術を体験し、その力加減をグラム単位で図面に落とし込みました。50g単位での調整を重ねて完成したのが、20万台超のヒットを記録する「Face-Pointer」でした。

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このヒットは、極東精機製作所にとって大きな成果となりました。しかし、鈴木氏の中には新たな課題意識が芽生えていたのです。「商品が売れても、成長するのは発注企業ばかり。これでは本質的に下請けと変わらないのではないか」と。

そこで、設計力やデザイン力を軸に、企画から製造・量産まで一貫して対応できる体制を構築。OEMを目指して始まったこの挑戦は、結果的に自社が主導するODM(製品企画から製造まで担う)ビジネスモデルへの転換を促し、極東精機製作所を“下請け”から“ものづくりを提案できるメーカー”へと押し上げる2つめの大きな転機となりました。

ベンチャーとの共創で生まれる新たな価値

あわせて取り組みを始めたのが、“ベンチャー支援”の試みです。
「多くの企業と関わる中で、ものづくりへの想いはあっても、実現する手段がない方々が多いことに気づきました。そうした声に耳を傾け、デザインや設計に落とし込み、アイデアを形にしていくことこそ、当社が持つ真の強みだと感じたのです。そして、この気づきがベンチャー支援へとつながっていきます。彼らを支援することが、結果的に私たちの市場も広げていくと確信しました」と鈴木氏は語ります。

2021年、三代目社長に就任していた鈴木氏は、自社の一角をベンチャーに開放。資金調達の支援や取締役としての参画も行いました。第1号の支援先となった3Dプリンター事業の株式会社グーテンベルクは、今や年商3億円の企業へと成長しています。

現在では、公益社団法人大田区産業振興協会と大田区が共催する「ベンチャーフレンドリー塾」の副会長として、上場企業を含む140社以上のネットワーク形成に取り組んでおり、中小製造業とベンチャー企業をつなぐ橋渡し役としても注目を集めています。

社長と社員、それぞれのブランド開発へ

経営が安定する一方で、社内では「社長がひとりで突っ走っている」という雰囲気が広がっていました。外部調査による組織診断でその事実が明らかになったことをきっかけに、鈴木氏は社員との対話に力を入れるようになりました。最近では、新たな動きも生まれているそうです。

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「社会情勢の影響で一部業務が停止せざるを得ない事態に直面しましたが、これは逆にチャンスだと捉えました。“今こそ、みんなで開発をやろう”と提案したんです」
この言葉に社員たちも前向きに応じ、新たなブランド開発が始動。鈴木氏自身が手がける美容・健康系ブランドと、社員主導のブランドの両方で、2025年9月に開催される東京ギフトショーへの出展を検討するまでになったのです。

「売上=社会貢献の尺度」、次の目標は年商100億円

こうした一連の取り組みが評価され、「勇気ある経営大賞・総合部門優秀賞」を受賞。これをきっかけに、経済産業省の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」への推薦の話も受けるなど、今後の動向にも期待が集まります。

鈴木氏はこう語ります。
「やはり、ビジネスモデルを変えることが重要だと思います。“自分たちはどうなりたいのか”“社会にどう貢献できるのか”を原点に据えることが大切です。売上は、社会に与えた価値が数値化された結果だと考えています。次の目標は“年商100億円”です。これは単にお金を稼ぐためではなく、社会貢献の領域をさらに広げたいという想いからです」

改革は一人の覚悟から始まりました。今では、社員、地域、ベンチャーと共に未来を描く企業へと進化しています。中小企業でも、考え方と行動次第で未来は切り拓ける――極東精機製作所の歩みは、それを実証しています。

株式会社極東精機製作所
本社:東京都大田区南蒲田2-19-4
https://www.kyokutouseiki.co.jp/
主な事業内容:産業機械部品製造、美容機器のデザイン・設計・製造

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