サステナビリティ(持続可能性)がますます重要視されるなか、企業や個人は積極的に行動することが求められています。気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」に続き、2022年12月には生物多様性保全の国際目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が策定されました。さらに、2024年には、プラスチック汚染を防止するための国際条約が制定される予定です。2023年度が始まったいま、知っておきたいサステナビリティ関連トピックをご紹介します。
<目次>
・プラスチック汚染防止条約が2024年に制定へ・2030年までに生物多様性を回復軌道に乗せる
・再エネが世界で拡大、欧州では天然ガスを抜く
・23年3月期決算から「人的資本開示」が義務化
プラスチック汚染防止条約が2024年に制定へ
この数年で、日本でも海洋プラスチックごみ問題が広く認知されるようになりました。プラスチックごみの海への流出がこのまま続くと、2050年には海のプラスチックごみは、魚の量を上回ると予測されています(出典:エレン・マッカーサー財団)。
こうした深刻な状況を受けて、国内外で使い捨てプラスチックの使用抑制や削減を促す規制が強化されています。
2024年には、プラスチック汚染を防止するための国際条約が制定される予定です。2022年3月に開かれた国連環境総会で、法的拘束力のある条約を採択することが決まり、現在、政府間交渉委員会(INC)が議論を進めています。
日本でも、レジ袋の有料化や、プラスチック資源循環促進法の施行など、「使い捨て」の習慣を見直し、社会全体でプラスチックを削減しようという取り組みが広がっています。
2023年4月15―16日に札幌市で開かれたG7気候・エネルギー・環境相会合では、「海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2040年までにゼロにする」ことで合意しました。
一方、使い捨てプラスチック問題に取り組んできた国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの大舘弘昌さんは、「日本も少しずつ前進していますが、プラスチック汚染の大きな原因となっている食品容器などのプラスチック製容器包装は、プラスチック資源循環法で規定されている『合理化』の対象外です。今後は、使い捨て容器包装そのものを大幅に減らし、代替システムとして『リユース』を導入することが重要です」と指摘します。
大舘さんは「問題解決に向けて何が求められているのか。どのような方向性を示すのか。まずは、自分の仕事や会社、業界という枠を越えて、グローバルな視野で問題を考えてみることが重要です。その意味でも、国連やNGOなど国際団体の報告書、国内外の記事などを通じて情報をキャッチすることもおすすめです」と話しました。
2030年までに生物多様性を回復軌道に乗せる
「生きている地球レポート2022」(世界保護基金)によると、生物の多様性を示す「生きている地球指数」は、1970年から2018年の間に約69%も低下しました。生態系のバランスが崩れると、人間を含めたすべての生き物に深刻な影響を及ぼします。
世界経済フォーラム(WEF)も、今後10年のグローバルリスクとして、気候変動緩和策や適応の失敗などに続き、「生物多様性の損失や生態系の崩壊」を4番目に挙げています。いまや生物多様性の損失は、気候変動問題に並ぶ重要なサステナビリティ課題になっています。
2022年12月に開かれたCOP15では、生物多様性保全の国際目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。2030年までに自然の損失を止めて回復に転じる「ネイチャーポジティブ」を目指し、23の目標が定められました。
代表的な目標の一つに「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」があります。2030年までに、陸と海の30%以上を健全な生態系として保全しようというものです。
これに伴い、環境省は2023年1月、「次期生物多様性国家戦略(案)」を公表。2030年ネイチャーポジティブに向けた5つの基本戦略として「生態系の健全性の回復」、「自然を活用した社会課題の解決(NbS)」、「ネイチャーポジティブ経済の実現」などを掲げました。
次回のCOP16は、2024年の下半期にトルコで開催され、各国が掲げる目標の達成状況について評価される予定です。
再エネが世界で拡大、欧州では天然ガスを抜く
再生可能エネルギーは、利用時にCO2を排出しないため、気候変動問題の解決策として期待されています。太陽光、風力、小水力、地熱、バイオマスといった再エネは、自国で生産できるため、エネルギーの安定供給にとっても重要です。
これまで普及に課題があった再エネですが、世界では着実に拡大しています。
例えば、欧州連合(EU)では、2022年、太陽光と風力の発電量が全体の22%を占め、初めて天然ガス(20%)を抜きました。石炭は16%でした(出典:「European Electricity Review 2023」Ember)。
さらに、EU理事会と欧州議会は、2030年の再エネ比率の義務的目標を従来の「32%」から「少なくても42.5%」に引き上げることで合意しました。背景には、気候変動対策とロシア産化石燃料からの脱却を図る狙いがあります。
米国では、米国エネルギー情報局(EIA)が2023年3月、2022年の電力部門で、再生可能エネルギーが初めて石炭火力発電を上回ったと発表しました。天然ガスが最大の発電源であることに変わりませんでしたが、再エネの発電量は年々増加しています。
国際エネルギー機関(IEA)は、報告書のなかで「世界は化石燃料の使用ピークに近づいており、そのなかでも石炭は最初に減少するだろう」との見解を発表しています。
日本でも、再エネは徐々に増えていますが、化石燃料の廃止を巡っては国際社会から批判も受けています。これからさらに再エネの導入を加速していくことが求められています。
23年3月期決算から「人的資本開示」が義務化
人材を「資本」ととらえ、個人が持つ能力やスキルなどを最大限引き出し、企業価値向上につなげる「人的資本経営」が注目されています。
日本では、2023年3月期決算から、上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化されました。対象は「有価証券報告書」を発行する約4000社の大手企業です。義務化に先立ち、日本政府は2022年8月、「人的資本可視化指針」を公表しました。具体的には「人材育成」「エンゲージメント」「流動性」「ダイバーシティ」「健康・安全」「労働慣行」「コンプライアンス」の7分野19項目で、情報を公開することを求めています。
現時点では情報開示義務はないものの、中小企業にとっても「人的資本経営」の重要性は増しています。取引先から人的資本情報の測定と開示を求められるケースがあるほか、優秀な人材を採用・維持するうえでも、従業員の教育や評価制度の整備、働き方の改善が必要になってきます。
日本政府も「人的資本への投資は『サステナビリティ経営』の重要要素だ」とし、持続可能な社会の実現に欠かせないものとなっています。
このように、サステナビリティ課題は多岐にわたり、それらを解決するには企業や個人の「行動」が重要です。企業は事業活動の環境負荷を減らすこと、個人は環境に配慮された製品やサービスを選択することで貢献できます。eco検定で学んだ知識を行動に移し、持続可能な社会の実現に向けて進んでいきましょう。
eco検定は、環境と経済を両立させた「持続可能な社会」の実現に向けて、環境に関する幅広い知識を身につけ、環境問題に積極的に取り組む「人づくり」を目的に2006年に創設されました。ビジネスパーソンから次代を担う学生をはじめとする、あらゆる世代の方が受験し、受験者数は延べ58万人、合格者(=エコピープル)も35万人を超えています(2022年12月現在)。
「合格して終わり」ではなく、検定試験の学習を通じて得た知識を「ビジネスや地域活動、家庭生活で役立てる=現実の行動に移す」ことを促しています。毎年、エコピープル等の活動を表彰する「eco検定アワード」等も開催。
eco検定の詳細はこちら
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