2025年1月16日更新
ブンゴヒルズ
所在地 | 東京都港区南麻布4-13-7 鈴掛ビル5F |
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代表者 | 宗 英司 |
従業員数 | 5名以下 |
設立年 | 1976年 |
企業HP | https://www.bungohills.com/ |
日比谷線広尾駅から徒歩数分、都内有数の高級住宅街である広尾の地に店舗を構えるのがトイプードル専門店「ブンゴヒルズ」だ。1976年の創業以来、トイプードル・ティーカッププードルの子犬販売やトイプードル限定トリミングサロンの運営を手がけ、愛情を込めた丁寧な育成・サービスで熱烈なファンを獲得している。
中でも特筆すべきなのは、同社のSNS戦略である。ブンゴヒルズのSNSには日々愛らしい子犬の動画やトリミングのサンプル写真が投稿され、Instagramで108万再生を達成したこともある。SNSをきっかけに海外からの問い合わせやTV出演の機会も増加した。仕入れ価格の高騰や業界全体の需要低下に苦しみながらも、同社は広報をはじめとした様々な工夫で成長を目指している。
手間暇かけたブリーディングとサポート体制により犬・顧客との信頼関係を構築、SNSで発信

多数の飼い主が集まる「お里会」の様子
ブンゴヒルズの大きな特徴の一つが、入念かつ配慮の行き届いたブリーディングだ。創業以来46年の歳月をかけ、自家繁殖によって、愛くるしい顔立ちと健康な体の両方を兼ね備えた選りすぐりの親犬を育ててきた。さらに、一般的なペットショップやブリーダーは法律上の規制が解禁される生後56日で子犬の販売を開始するのに対し、ブンゴヒルズでは生後2か月半~4か月頃まで親犬やブリーダーのもとで愛情深く育てている。そうすることで社会性が形成され、問題行動の少ない犬に成長する、というのがブンゴヒルズ代表・宗氏の見解だ。加えて、それぞれの犬の体質に合わせて餌を少しずつ変えるなど、細かい配慮も欠かさない。
また、宗氏は「アフターフォローにも気を配っており、購入後のお客様からの悩み事相談を受け付けています。また、10年ほど前から年に2回『お里会』というリアルイベントも開催しており、レストランを貸し切って飼い主様とワンちゃん、そして私たちブンゴヒルズのスタッフが交流する場を設けていますね」と、顧客一人一人へ真摯に向き合う姿勢を見せる。

トイプードルの可愛さを伝えることで認知度向上を狙う
そんな宗氏がSNSに注力するようになったのは、コロナ禍に入ってからだ。巣ごもり生活により一時ペット需要が高まったものの、以降、業界全体で売上が伸び悩んだ。ブンゴヒルズも、例に漏れず売上低迷の憂き目に遭ったという。その状況を打開すべく始めたのが、Instagram・TikTok・YouTubeへの動画投稿だった。 「シャッターボタンがどこにあるかさえ分からない状態から、独学で撮影・編集方法を学びました。動画の内容は、犬の可愛さや弊社独自のカット技術を伝えるもの。自家繁殖や通常よりも長期間にわたる愛情深い育成等の弊社ならではの取組によって、私と犬の間に信頼関係ができているからこそ、魅力を最大限に引き出す写真や動画が撮影できているのだと思います」と宗氏は振り返る。
Instagramの投稿ペースは1日1本、年間で350本以上アップしている。はじめは絞り出すしかなかった投稿用の文章も、慣れるにしたがってすらすらと書き出せるようになってきた。「SNSをきっかけにお問い合わせくださる方も多く、国内のみならず、ギリシャなど海外からご連絡いただくこともあります」と宗氏は語る。SNSでの発信を始めてから、特に20代~40代の顧客層が拡大し、売上は上昇。手数料の高い仲介サイトに頼らずとも、売り上げ全体の約95%を直販で売り上げられるようになった。また、上述したような丁寧なブリーディングや積極的なSNS活用の結果、ブンゴヒルズ出身の犬は、TV・雑誌などのメディアにモデルとして度々出演を果たしており、さらなる認知度向上に役立っている。
月替わりの特別キャンペーンで客単価アップに繋げる

高い技術力を誇るトリミングの様子
一方、トリミングサロンでも売上の向上に繋がる取り組みを行っている。その一つが「特別キャンペーン」の実施だ。トリミングサロンではカット+シャンプーの基本メニューに加え、トリートメントやコンディショナーといった様々なオプションメニューを取り揃えている。その中の一部を「月替わりのおすすめ」として半額から3分の2程度の価格で提供し、値段以上の満足感を得てもらうようにしている。 「現在、9割以上のお客様がオプションを追加してくださっています。キャンペーン中のオプションに関しては、月替わりですので翌月には通常料金になってしまうのですが、品質の良さを感じていただき、翌月以降もオプションを追加してくださるお客様が多いですね。客単価の向上に繋がっていると思います」と宗氏は話す。
トリミング用シャンプーやシャンプーに使用する機械装置、ドッグフードなど、仕入コストの上昇に合わせて価格を1割程度改定したこともある。「その際には事前に告知を行い、『値上げの代わりにオゾンシャワーをサービスします』と打ち出しました。単なる値上げを続けていると、きっと客離れが起きる。値上げするなら、付加価値をつけることが必要不可欠だと考えています」と宗氏は語る。
オプションの付加価値だけではない。ブンゴヒルズが顧客を惹きつけるのには、そのトリミングの技術力にも理由がある。トイプードルは人間と同じく1ヶ月に1cmほど毛が伸びるため、月1回程度のトリミングが必要だ。しかも、トイプードルのカットスタイルはテディベアカットやおパンツカットなどバラエティ豊富で、何百種類という犬種の中でも特にトリマーの技術の差が出やすいという。「弊社はトイプードル専門のトリミングサロンなので、トイプードルカットの経験頭数が他店より圧倒的に多いです。多彩な経験・実績を持つ分、他店よりも高い品質・技術でサービスを提供できており、お客様からの信頼に繋がっていると思います」と分析する。
トリマーへの利益還元を重視し、直近3年で1.2倍の賃上げを実現
そんなブンゴヒルズでは、トリマーの育成にも注力している。「ベテランが新人にカットを実演しながらマンツーマンで指導しており、早ければ半年程度で熟練します。そして、技術を活かした多彩なカットの様子を動画で配信すれば、またお客様が増える。価格転嫁や賃上げに役立てられます」というのが宗氏の見解だ。
ペット業界において、トリマーの賃上げは切実な問題だという。現在、業界は慢性的なトリマー不足に悩まされており、サロン同士で人材の取り合いが激化している。ブンゴヒルズでも、現在は2名で全てのトリミングを担当している状況だ。 「だからこそ、ブンゴヒルズでは社員への利益還元を重視しており、直近3年間で約1.2倍の賃上げを実現しました。仕入れ値の上昇分全てとはいかないまでも、価格転嫁を行ったこと、そしてSNSでの発信によりお客様が増加したことで、賃上げのための原資を捻出できています」と宗氏は言う。人材採用においても“バズり”の影響力は大きく、トリマー経験者からSNSを通じて「ブンゴヒルズで働きたい」と連絡が来るケースもあるという。広報活動が、売上アップと人員確保の双方に寄与しているのだ。
最後に宗氏は「今後も動画配信などを精力的に行い、他店と競合しないトイプードル専門店として認知度を上げていきたいです。また、このまま問い合わせが増え続ければ、将来的には多店舗展開も視野に入れていきたいですね」と展望を語った。