2025年4月11日更新
NEW 株式会社バルコス
所在地 | 東京都目黒区下目黒 1-6-20 明治安田生命ビル 4F(バルコス東京支店) |
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代表者 | 山本 敬(代表取締役) |
資本金 | 7,398万円 |
従業員数 | 76人 |
設立年 | 1991年 |
企業HP | https://barcos.jp/ |
各線・目黒駅から目黒川を渡った閑静な一角にショールームを構えるのが、ハンドバッグや財布といった皮革製品の企画・販売を手がける株式会社バルコスだ。1991年に鳥取県倉吉市で誕生した同社は「創る、造る、売る」を経営理念として掲げ、「バルコス」「ハナアフ」などの自社ブランドを展開。近年、通販やECなどの販促力を強化し、主な市場をBtoBからBtoCに移しながらも増収を続けるなど、年々厳しい状況に置かれるファッション業界で、同社が躍進を続ける理由を代表取締役の山本敬氏に伺った。
ミラノで行われる展示会での受賞をきっかけに、海外マーケット拡大&国内でのOEM開始

鳥取県倉吉市に本社を構える
バルコスの歴史は、蛇・ワニなどの革を使った爬虫類バッグの訪問販売から始まる。その後、小売店やホテルでのイベント販売を通じて売上及び販路を拡大。当時ドイツで最も売れていたブランド「ピカード」の総代理店になったことをきっかけに、百貨店への出店も果たした。
「ですが、残念ながら海外ブランドの『ピカード』は日本ではあまり売れませんでした。ドイツ人と日本人とでは体格や色彩感覚が異なるためです。そこで、その状況を『ピカード』の社長に相談し、日本人向けの商品を製作させてもらうことになりました。中国の工場で開発・製造を進め、提携百貨店で販売した結果、売上がどんどん伸びていきました」と山本氏は振り返る。
しかし、消費マインドの低迷やオンラインショッピングの台頭などにより、次第に百貨店業界は右肩下がりの状況に陥りつつあった。「このままではダメだ」と感じた山本氏は、2007年頃に自社ブランドを設立することを決意。海外で行われる展示会への足掛かりを作るために、フィレンツェのファッションデザイナーから最先端のデザインを学んだ日本のデザイナーがデザインを設計し、それに基づいて中国の工場で迅速にサンプルを製作するという流れを構築した。
この取り組みが功を奏し、2008年、ミラノで開催される「MIPEL」(イタリア・ミラノで年2回開催される世界最大級の皮革見本市)で日本ブランド初のデザイン賞を受賞。賞の獲得を契機に海外でのマーケット展開が拡大しただけでなく、国内の総合商社からOEM(Original Equipment Manufacturer:他社ブランドの製品を製造すること)の打診が続々と来るようになった。「百貨店に足を運ぶと、フロアの半分ほどに弊社の製作したバッグが並べられていることもありました。OEMはとにかく買い叩かれるので、コスト競争力がかなり鍛えられましたね」と山本氏は語る。
しかし、「OEMは結局のところ下請けなので、利幅は小さかったです」と山本氏。そうした状況下で自社ブランドの強化を図る中、TV通販用のOEMを手掛けた山本氏は、年間億単位の売上が出るのを目の当たりにし、「メディアの強さを見せつけられた」とTVの広告枠を購入。加えて、TV通販を複数展開するなど、手探りながらインフォマーシャル(テレビで商品やサービスに関する情報を紹介する通販CMの一種。インフォメーション(情報)とコマーシャル(広告)を組み合わせた言葉)を実施した結果、2015年頃にはほぼ100%「BtoB」だったビジネスモデルが、10年経った現在では90%以上が「BtoC」へと変化した。
小売業に大切なのは商品力・販促力・販売力

ショールームも重要な販促ツールの一つ
現在、バルコスはバッグや財布、服飾雑貨などを手がけるライフスタイル提案事業と、情報発信を行うメディアクリエイティブ事業、食・観光をテーマにしたディベロップメント事業の3つを展開。TVや新聞、DMカタログ、グループ会社が展開するWebメディアなどを通じてプロモーションを行い、ECやコールセンター、店舗で受注する流れが基本となっている。東京目黒本店にはDMを握りしめて訪れる顧客もいるが、最も多くを占めているのはTVや新聞の広告経由で購入する層で、BtoC全体の6~7割ほど。「最近ではそれに加え、Instagramなどのメタ広告経由の販売が伸びてきています」と山本氏は話す。
「小売業を支えるのは、『商品力』『販促力』『販売力』ではないでしょうか。弊社でいえば、商品力とは中国の工場と連携しながら多様で価格競争力の高い商品を開発できる開発力。販促力は、グループ全体で約180万人の顧客情報やノウハウを共有しつつ、TVや雑誌、Webなど様々な媒体を通じてアプローチできる力。販売力とは、販促費をいかに下げつつ、販売効率をいかに上げるかです」
そして、小売業が販売力を向上させるために強化すべきなのは、EC及び通販だと山本氏は主張する。JADMA(公益社団法人 日本通信販売協会)の調査によれば、通販の市場はここ10年で倍になっており、実際にバルコスでもZOZOTOWNで商品の見せ方を少し改善しただけで売上が6倍に爆増した実績がある。「ファッション業界のような右肩下がりの業界であっても、成長を続ける通販市場を取り込めば、増収は可能です。とはいえ、どんな企業でもECで成功できる訳ではないと思います」と山本氏は注意を促す。
「某大手ECサイトに出店している店舗の九十数%は赤字だという話もあります。ECで売上を伸ばそうとすると、とにかく広告費がかかるのです。だからといって、自社のECサイトを立ち上げるのも、太平洋のど真ん中へ出店するようなもの。こちらも顧客誘致のため、プロモーションに資金の2~3割は費やす必要があるでしょう。そういった意味では、業界にもよりますが、原価率の低い川上の企業の方がECには向いているのではないでしょうか」
ファッション業界での価格転嫁は難しい。成功の鍵は販売率の向上

財布や名刺入れなどの革製品も手掛ける
「衰退産業」と言われるファッション業界の中にあって、グループ全体で2期連続増収・増益を達成するなど存在感を遺憾なく発揮しているバルコス。そんな同社を悩ませる課題の一つが、昨今の原材料費の高騰によるコストの上昇だ。
「価格転嫁については、正直できていないですね。世界的な大手アパレルメーカーでさえ、価格転嫁は難しいと言われています。それだけ消費マインドの低迷は深刻なのです。物価高で生活費がかさむとなれば、服飾にかけられる予算は下がってしまいますから」と山本氏は述べる。そんな苦しい状況下で、鍵となるのは販促費比率の削減及び、販売効率の向上だという。人件費は下げられない。ならば従来、1万円の広告費を使って2万円分売れていたものを、2.5万円分売れるよう戦略を練らなくてはならない。
「今後は自分のやれることを信じて様々な事業を横展開しつつ、本社がある地元・倉吉で挑戦を続けられればと思っています。特に、食の通販には力を入れていきたいですね」と山本氏は展望する。バルコスは2025年2月末、レディースファッションブランド「マリン フランセーズ」を譲受したばかり。同社が得意とするメディアマーケティングやECを活用し、これからもブランドを拡大していく。