価格適正化コラム(BtoC非製造業編)
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上手な値上げの進め方
〜値上げ後もお客様に愛され続ける「仕組み」と「しかけ」〜
はじめに
値上げとは
昨今、原材料を始めとする物価や人件費の上昇スピードは早くなり、下降は見込みにくい状況です。「値上げしたいけれどお客様離れが怖い。どうすれば・・」と悩む方も多いでしょう。
ここで質問です。お客様から「一番」言われたくない言葉は何でしょう?
「高くなったね」 これは辛いですが一番ではないはず。
一番言われたくないのは、「あっ私のお気に入りのお店、無くなったの? ずっと通いたかったのに・・・」では?
客商売は楽ではありません。土日も店を開け、立ち仕事には体力も必要です。それでもお店を続けるのは、お客様の「ありがとう!また来るね!」が嬉しいから。
なのに、値上げを我慢してお店を維持できなくなったら、ファンであるお客様を悲しませてしまうのです。
値上げとは、明日も来月も来年もずっと、お客様に喜んでもらえる「場所(お店)」を磨き続けるための取り組みです。その方法を一緒に考えましょう。
① 価格転嫁におけるBtoBとBtoCの違い
値上げの方法は、BtoB(対企業)とBtoC(対消費者)で異なります。BtoBでは、原価変動データや契約に基づく論理的な話し合い(交渉)が中心です。一方、BtoCでは、論理よりもお客様の「感情」と「満足度」が鍵を握ります。
お客様が求めるのは、安さだけではありません。「不自由・不便・不愉快」等の「負」の感情が減り、「便利・安心・快適・楽しい」といった「幸せ」が増えることに、お客様は価値を感じます。「専門的なアドバイスを得られた」、「ぴったりの商品を教わった」、「ここで買えば間違いがない、信用できる」、「とにかく楽しかった」など不安や不満が解消され、「来てよかった!」と満足する時、お客様は値上げ後も通ってくださるファンになるのです。
ここで役立つのが、プロである皆様の知識や技術(美味しい食べ方、お手入れ方法、似合うスタイル提案など)、そして人材です。商品やサービスが「他店では代替できないもの」へ変わるきっかけを作ります。
BtoCにおける上手な値上げとは、単なるコストの転嫁ではなく「どうしたらお客様の幸せを最大化できるか」という知恵と工夫の対価です。
② BtoC版 価格戦略の基本
コスト構造の再認識
価格設定の前に、原価や販管費を再確認しましょう。5年前の数字と比べたら、コスト増は一目瞭然。「今の価格では守るべきものも守れない」と納得すれば値上げの覚悟が固まります。
価値の割り算

価格と価値の関係を理解するには、この割り算が便利です。
大企業なら、潤沢な資金や大量仕入れを背景に、「③価格」を下げて価値を高める安売り戦略も可能ですが、中小企業では太刀打ちできません。私たちが取るべきは、「③価格」を上げ、それ以上に「②お客様に伝わった満足・期待」を高めて価値を増やす戦略です。皆様も、「安い」以外で買い物をするはずです。趣味のもの、失敗できない“ここ一番”のもの、大切な方への贈り物など。「安くなかったけど買って満足した瞬間」を思い出し、自社の商品やサービス強化に反映させましょう。
③ 値上げと利益の関係を知ろう
値上げにより販売数が減り経営不振になるのでは?という不安は、試算で減るかもしれません。
下の例では、1割の値上げ後に販売数が1割減少し、2割の値上げ後には2割減少しています。売上は減りましたが利益は6割増えました。薄利の商売では、このようなことも起こるのです。

粗利率が高ければ、販売数減少に伴い粗利が減ることもあります。ですが、来店者数や販売数が減れば「手空き時間」が増加します。この時間をぜひ、他店視察・従業員教育・店舗の清掃・メニュー/POP/レイアウトの変更など、改善に充ててください。10人のお客様を忙しくさばくのではなく、8人のお客様と丁寧に向き合いましょう。それにより、さらにお客様に喜ばれる好循環が生まれます。
値上げで離れたお客様が、他店で満足できず皆様のお店に戻る場合もあります。その時、「前より更に良いお店になった」と言われたら嬉しいですね。客数減少を恐れるよりも「暇=お店の未来を変える機会」と考えて、値上げ前から改善リストを作りましょう。④上手な値上げの進め方
1.価値を高める「仕組み」
・お客様を具体的に想像する:ずっとお付き合いしたいお客様とはどんな方ですか?「安い」以外の何に喜び、何に不安を持つのでしょう。丁寧さ?親切さ?早さ?面倒ごとの解決力?面白さ? 「これなら喜んでくれるはず!」と言えるまで考えましょう。皆で紙に書くのもオススメです。
・良いサイクルを回す:値上げで得た利益の一部を、「大入り袋」などで従業員に還元するのも良い方法です。従業員満足は接客や技術の質を高め、顧客満足度向上につながります。このサイクルが、将来の値上げ対応力を高めます。

2. 受け入れてもらえる 「しかけ」
・値上げの伝え方:「原材料高騰のため」以外に、「今まで以上にご満足いただけるよう、全力で努めてまいります」という、未来への決意を伝えましょう。実現するのは大変ですか?でも、その大変を続ける覚悟と努力と工夫とが、お客様の信頼を生むのです。
・「千三(せんみつ)」で臨む:工夫が最初からうまくいくとは限りません。企画のプロである広告代理店でも、当たる企画は3/1000程度だそう。まずはPOP一枚から変えてみる。そんな小さな改善の繰り返しが、成功への道です。
・清掃の徹底:古くても、ピカピカに磨かれた空間は快適です。女性客の場合は特に、清潔感は売上に直結します。雑巾でも白いものを使えば汚れを見つけやすい。こうした工夫も習慣にしましょう。
・こだわりの見える化:あるベーカリーでは、値上げと同時にPOPを改善。「フランスのチョコチップを使っています」の一言で、同じ商品なのに値上げ後の販売数が増えました。何を伝えたら価値の源である期待や満足が増えるかを考えましょう。
おわりに
値上げ後もご来店くださるファンづくりは漢方薬のよう。時間がかかっても、地道な努力はお店を強くしてくれます。まずは、「お客様はなぜ、うちのお店に来てくれるのか」を想像し、書き出してみましょう。きっと、価格以外の「愛される理由」が隠れています。
皆様の挑戦を心から応援しています!
著者:田中 聡子(株式会社ミセラボ 代表取締役)
中小企業診断士・一級販売士
株式会社三越本店及び商品本部を中心に販売、バイイング、ブランディング、商品開発などを17年間経験した後独立。「また来たくなるお店づくり」「ずっと続く事業づくり」をコンセプトにした経営戦略、マーケティング、販売力・接客力強化の支援や研修を行っている。 執筆した 日本政策金融公庫発行「上手な値上げの進め方」が好評を博している。