外為法の概要と違反事例について解説

対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もつて国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的として外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)が制定されています。外為法により資本取引や貿易管理などの制度のルールを定め、例えば、特定貨物の輸出入には経済産業省の許可又は承認を必要とすることを定めています。
兵器などの戦争やテロリズムにつながるものなどの輸出入が規制され、日本や国際社会の平和や安全維持にも資するものです。
外為法には行政制裁や罰則規定もあり、違反した場合は輸出入の禁止などの行政制裁と懲役などの罰則を科すことを定めた厳しい法律です。このうち、今回は、安全保障貿易に関するところの概要と実際に起きた違反事例、そして違反しないための防止策について解説していきます。

機微技術・製品が流出した場合の懸念点

機微技術・製品が海外に流出した場合どのようなことが起こる可能性があるのでしょうか。例えば、AI技術が流出した場合、無人兵器が製造されたり、機械学習で集められた画像などから社会を混乱させるフェイク画像がばら撒かれるなどが考えられます。その他にもバイオテクノロジーの技術は生物兵器に、化学技術は核兵器や化学兵器に転用されることが懸念されています。

安全保障貿易管理としての外為法

外為法では貨物・技術について特定地域や国への輸出・提供を行う時の管理に関するルールを制定しています。この背景には、グローバル化の進展により、企業が有する製品や技術の流出するリスクが増大しており、一見、軍事転用とは無関係に思える製品や技術でも大量破壊兵器や通常兵器の拡散に繋がる場合があるためです。また、懸念国に流出してしまうことで、日本のみならず国際社会の安全性を脅かすことに繋がる可能性もあります。
こうした事態など防止するために、外為法によって安全保障上の貿易管理が行われています。


外為法に違反した場合

外為法においては、事前に許可が必要な、特定の地域を仕向地とする特定の貨物を、許可なく取引を行った場合は企業等に対して行政制裁を科すこともできます。制裁は一定期間内の対外取引の禁止や別会社の業務の担当役員になることを禁止させるものもあります。
また、罰則等も規定されています。刑事罰として十年以下の懲役もしくは法人対しては十億円以下、個人に対しては三千万円以下の罰金が科することができるように定められています。

外為法に違反する主な原因

外為法に違反した事案のほとんどは軽微な事案が多く、外為法に違反することが多いのは経済産業省に対し輸出管理内部規程(以下「CP」という。)の届出をしていない企業が半分以上を占めています。
違反原因の多くは、外為法の知識不足や管理体制の不備によるものです。経済産業省や税関が指摘するまで、違反したことに企業自身が気が付いてないケースが多く、中には重大な違反になってしまうケースもあります。

実際にあった外為法の違反事例

過去に起きた外為法の違反事例を紹介していきます。違反した場合は行政制裁や罰則が科せられるだけでなく、自社の損益にも繋がるケースが多くあります。

違反事例①

貨物の輸出が納期に間に合わないため、経済産業大臣の事前の許可なく、担当者が個人の判断で輸出してしまった事案が発生しました。
納期を厳守することは大切ですが、法令を守らずに輸出してはいけません。また、担当者が勝手に輸出した点も問題です。契約書に許可取得条件を追加することと輸出管理体制の構築が必要であることが分かる事例です。

違反事例②

外為法にはいわゆる修理特例といって、外為法に基づく輸出許可を取得して該当品を輸出した貨物について、不具合で無償で返送された貨物を修理して無償貨物として輸出する場合は許可がなくても輸出できる制度があります(ただし、この特例の適用を受けることができない貨物などもあります。)。しかし、修理特例は修理完了後当該貨物の本邦への輸出者に再輸出するものであることが条件です。
違反となったのが、修理特例で不具合のあった貨物を修理したが、先方の要請で異なる輸出先へ輸出してしまった事例がありました。この場合は輸出先が違うため改めて外為法に基づく輸出許可を取る必要があります。

違反事例③

外為法で許可が必要とされている貨物・技術は多岐にわたります。経済産業省では許可が必要な特定貨物を判断しやすいようにマトリクス表を作成しており、ホームページからいつでもダウンロードして利用できるようにしています。
このマトリクス表について読み間違えが起き、特定貨物に該当する貨物を非該当品と判断し、違反した事例が起きました。該非判定における法令の読み間違いによって、特定貨物を許可を取得せずに輸出してしまった事例です。本件は、輸出管理体制の中でダブルチェックを怠ったことが原因となったことから、マトリクス表などによって特定貨物の判断を行う場合には、ダブルチェックを徹底し、判定に誤りがないかを複数人で確認することが必要になります。

外為法に違反しないための防止策

外為法に違反した場合、行政制裁で企業は期間を限り輸出又は特定技術の提供等が禁止されることがあります。企業を守るためにも、外為法に違反しない防止策を講じることが必要です。

防止策①

外為法違反の多くは輸出管理体制の不備が原因です。経済産業省ではCPの届出は任意としています。CPを策定し輸出管理体制が整備されている企業は自社内で違反を未然に防ぐことが多くあります。
また、CPを策定し輸出管理体制を整備することで責任の所在が明らかになり、再発防止を行うことが可能になりますので、企業はなるべくCPを策定し、経済産業省に届出を行って違反防止に努めましょう。

防止策②

CPが策定できても社内での輸出管理体制が形骸化することで、外為法に違反することがあります。そのため、社内手続に関する細則やマニュアルも策定し、社内での説明会等を通じた制度理解と策定したCP等の共有を通じて輸出管理体制を維持することが重要です。

防止策③商工会議所に相談

日本商工会議所や東京商工会議所・名古屋商工会議所・大阪商工会議所では輸出管理体制構築に関する「中小企業等アウトリーチ事業」を行っています。経済産業省と連携し、中小企業は無償で専門家の相談を受けることが可能です。
また、商工会議所では輸出管理体制構築のための説明会や個別相談会を実施しており、専門家からの助言を受けることができます。

まとめ

外為法の知識不足や輸出管理体制の不備は、外為法違反を引き起こす原因となります。違反内容によっては、重い行政制裁と罰則が科せられる可能性があります。 経済産業省をはじめ、中小企業等アウトリーチ事業事務局のほか、商工会議所に配置されている相談窓口を通じて、社内の体制を構築していくことが重要です。