機微技術・製品とは

機微技術は軍事転用可能な技術のことです。例えば、ロボット工学の技術は無人で動く、ロボット兵器を開発することが可能になります。また、日用品の中にも機微技術を使用した製品があり、兵器開発に利用されることもあります。日本では機微技術・製品が不適切に流出することによって軍事利用されないために、外為法などの法律で管理しています。

機微技術・製品が流出した場合の懸念点

機微技術・製品が海外に流出した場合どのようなことが起こる可能性があるのでしょうか。例えば、AI技術が流出した場合、無人兵器が製造されたり、機械学習で集められた画像などから社会を混乱させるフェイク画像がばら撒かれるなどが考えられます。その他にもバイオテクノロジーの技術は生物兵器に、化学技術は核兵器や化学兵器に転用されることが懸念されています。

1.日本及び国際社会の安全性を脅かす国家やテロリスト等による軍事転用

機微技術・製品が軍事転用されると最悪の場合には、戦争といった国家間の争いで用いられる可能性があります。また、自社の技術・製品が転用されて生み出した最先端技術で攻撃が行われてしまう恐れさえあります。機微技術・製品の流出は日本のみならず国際社会の安全性を脅かすことに繋がります。

2.競合他社に利用された場合、企業の競争力毀損

機微技術の流出は軍事転用されることだけが問題点ではありません。多額のコストをかけて開発した技術が転用されてしまうことで、企業経営に多大な損失がもたらされることが考えられます。

機微技術・製品の流出対策

機微技術・製品の流出を防ぐにはどのようにしたらよいのでしょうか。国は機微技術流出防止についてのガイダンスを策定していますので、まずはその内容を理解し、実践することが重要です。

1.国が定める安全保障貿易管理ガイダンスを理解する

経済産業省が定めるガイダンスは「外国為替及び外国貿易法」、通称「外為法」に基づいて、技術や製品の輸出規制を行っています。規制は大きく2種類あり、1つ目は軍事転用が可能な技術と考えられるものを指定して規制するリスト規制です。リスト規制には武器や原子力といった直接兵器開発が可能なものや、タングステン合金や通信用光ファイバーなど日用品の中に利用されているものもあります。輸出の際には事前にリストに掲載されている技術・製品を確認する必要があります。
そして、2つ目はキャッチオール規制です。この規制はリスト規制に該当しなくても輸出相手やその用途によっては許可申請が必要になる制度になります。つまり、輸出される技術・製品のほとんどが対象となり、必要に応じて経済産業大臣の許可申請が必要となります。例えば、大型の真空ポンプは核兵器開発に利用される可能性がありるほか、クレーン車はミサイル開発に利用される可能性があるなど、一見して問題がなさそうな機微技術・製品もキャッチオール規制の対象となっています。

2.輸出管理の「3本の矢」を理解し実践する

外為法に違反せずに輸出するためには経済産業省が行う3つの手続きを厳正に行う必要があります。
1つ目が該非判定です。これは輸出する技術・製品がリスト規制に該当しているかどうかをチェックするものです。
2つ目が取引審査で、貨物輸出の相手とその用途を確認し、取引を行うかを判断することになります。
そして、3つ目が出荷管理です。貨物の出荷や技術を提供する前に同一性と許可証を確認することになります。
これら3つの手続きは機微技術・製品の流出を防ぐ防衛ラインになることから輸出管理の「3本の矢」と呼ばれているのです。

機微技術・製品の流出防止に向けて、社内で今すぐ取り組める対策

機微技術・製品の流出防止を行うためには社内全体が意識を持った対応をすることが重要になります。機微技術・製品の流出は自社だけなく、国にも大きな影響を与えるものであるため、輸出を行う企業だけでなく、日本国内でビジネスを行う企業においても最新の注意が必要になります。では、実際にどのような対策を講じるのかを見ていきます。

1.社内の輸出管理体制を構築する

機微技術・製品の流出を防ぐ手段として、企業の輸出管理体制を構築することが必要になります。まずは輸出管理を行うための部門の設置または責任者の選任が重要です。3本の矢となる該非判定と取引審査、出荷管理の責任者を選任し、それらを輸出管理体制図で明確にしておくことで機微技術・製品の流出を防ぎ、法令違反を回避できるようになります。

2.輸出管理内部規定(CP)の策定

加えて、輸出管理内部規定を策定することで、法令違反を未然に防ぐことが可能になります。輸出管理内部規定は任意ですが、経済産業省への届出制度もあり、子会社や企業全体に法令遵守の指導や監査を行うことで、厳格な輸出管理を行うことができます。輸出管理内部規定の策定は管理強化をするための重要なツールになります。

機微技術・製品が実際に悪用された事例

機微技術・製品が悪用された事例はすでに起こっており、いずれも技術を提供したものは起訴され、有罪の判決が下りました。実際に起こった事例をもとに機微技術・製品の流出を防ぐ手立てを考えることが重要になります。

事例①

アメリカのフロリダ大学で、中国籍の非常勤講師がハルビン工程大学などから依頼を受け、アメリカ企業の無人潜水艇や遠隔無人操作探査機などを中国に不正に輸出するという事件が発生しました。ハルビン工程大学は中国の人民解放軍と繋がりが強く、人民解放軍の軍備増強につながることになります。
アメリカはこの講師を外国政府のエージェントとして活動したということで、起訴しました。日本でもリスト規制やキャッチオール規制に当てはまるものを輸出した場合は法令違反として懲役や罰金などの罰則が生じます。意図的ではないにしても輸出する製品や提供する技術を管理することは重要です。

事例②

日本の国立大学などでジェットエンジンや耐熱材料などを研究していた9人の中国人研究者が5年間在籍した後、中国に帰国し、軍需関連企業傘下の研究機関で超音速環境を再現できる風洞実験装置を開発しました。
日本で技術研究をした内容を持ち帰り、軍事転用された事例になります。

中小企業等アウトリーチ事業のご案内

機微技術・製品の流出は日本の安全保障に大きく関わります。そこで、経済産業省はアドバイザー派遣による輸出管理体制構築支援や説明会を無料で行っています。
日本商工会議所は、経済産業省からの再委託を受け説明会の開催や専門家による相談を通じて、企業の輸出管理体制の構築を図っています。中小企業であればどなたでも無料にて相談できます。

1.専門相談窓口の配置

中小企業向けの安全保障貿易管理に関する専門相談窓口として、輸出管理に係る実務経験等が豊富な専門家に無料で相談できます(事前予約制)。また、必要に応じて、専門家が企業を訪問して社内の輸出管理体制の構築や運用改善等の支援を行います。

2.説明会の開催

東京・名古屋・大阪の各商工会議所で、安全保障貿易管理・技術流出防止管理の内容を盛り込んだ説明会を開催します。企業規模を問わず参加が可能です。また、説明会と併せて個別相談会(事前予約制)も実施します。

まとめ

機微技術・製品の流出は企業の競争力の毀損だけでなく、日本の安全保障にも関わる重要なことです。経済産業省をはじめとした国が策定したガイダンスを理解し、規制されている技術や製品の流出を防止することが必要となります。しかし、社内の管理体制を築くことや輸出管理内部規定(CP)を適切に定める事は簡単ではありません。そこで、経済産業省をはじめ、日本商工会議所や東京商工会議所・名古屋商工会議所・大阪商工会議所が実施している相談窓口を通じて、専門家の意見を取り入れることが重要です。