東商からの重要なお知らせ

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株式会社新橋玉木屋

240年続く佃煮屋のDNAを幹に、
“伝統の枠”を超えた商品を開発

  • 代表取締役社長 田巻 恭子 氏

株式会社新橋玉木屋

本社: 〒105-0004 東京都港区新橋4-25-4

代表者名: 代表取締役社長 田巻 恭子 氏

創業: 1782年

資本金: 4,000万円

従業員数: 50名

事業内容: 各種佃煮、煮豆の製造・販売

URL: https://www.tamakiya.co.jp/

商品開発・販路開拓のポイント

  • ● カラフルなパッケージが雑誌社の目につき、メディアへの露出が増加
  • ● コロナの影響によるワイン需要に合わせた商品開発
  • ● 佃煮の枠を飛び出した新商品が、若い世代まで顧客層を広げる
佃煮とワインのマリアージュコース:「食ジャーナリスト・マッキー牧元氏監修」、「料理家・うすいはなこ氏考案」の佃煮を使った洋風オリジナルメニュー。本店の飲食カウンターにて1日1組3名限定で、提供している。
佃煮とワインのマリアージュコース:「食ジャーナリスト・マッキー牧元氏監修」、「料理家・うすいはなこ氏考案」の佃煮を使った洋風オリジナルメニュー。本店の飲食カウンターにて1日1組3名限定で、提供している。
佃煮の製法を生かしたシン・フリカケ

──世界各国の料理をふりかけで再現した「世界のふりかけ」。従来のふりかけのイメージを覆す、ユニークな商品ですね。
田巻社長
 もともと当社には、佃煮を半生タイプのふりかけにした「佃煮のふりかけ」という人気商品がありました。煮る技術が求められる佃煮に対して、保存料を使用しない半生タイプのふりかけは水分値のみの調整なので、乾燥させる技術と手間が大変かかります。そのため、開発には10年を要しました。
その「和のふりかけ」にヒントを得て、先代の社長である母(章子氏/取締役会長)が遊び心でトマトパスタソースを煮詰めてふりかけにしてみたのがきっかけで、「世界のふりかけ」の「イタリアントマト味」が生まれました。
しかし、商品化してみたものの最初の3年はまったく売れずじまい。「もう止めようか……」と母と話していた折に、雑誌『BRUTUS』の「お取り寄せグランプリ」で金賞をいただきました。そこから雑誌やテレビの取材が増え、それとともにラインナップを少しずつ充実させていったのです。
──雑誌に取り上げられたきっかけは?
田巻社長
 一つは、それまで地味だった外箱のパッケージを外国人のデザイナーに頼んで、コンセプトに合ったおしゃれなデザインに変えたことです。外箱と中身のデザインがマッチしたことで、メディアの目にも止まりやすくなりました。
もう一つは、従来の佃煮とは異なる販路を新規開拓したことです。お台場のヴィーナスフォート(現在閉館)を訪れた際に、洋菓子をかわいらしいワゴンで販売しているのを見て「これだ!」と。すぐに商談を申し入れ、同施設に「世界のふりかけ」を置かせてもらえることになりました。
それをたまたま大手百貨店のバイヤーが目にして、「催事に出展してみませんか?」という展開に。クリスマス商戦の時期に1日で70万円の売り上げを達成しました。これまでの佃煮なら催事でも10万円売れれば御の字なので、予想外の反響に驚きましたね。

左/世界のふりかけ 右/新橋玉木屋の商品は、代々受け継がれる秘伝のタレでつくられている
左/世界のふりかけ。
右/新橋玉木屋の商品は、代々受け継がれる秘伝のタレでつくられている。
佃煮×ワイン=「異文化」のマリアージュ

──ワインに合う商品を開発し、店内で提供するというサービスも佃煮屋の枠に捉われないアイデアですね?
田巻社長
 社長に就く前の営業部時代は、日々の飛び込み営業に回っていたのですが、私が「佃煮屋」と口にした途端、お客さまががっかりするのを感じていました。そのくらい、世間の人々には昭和の時代から固定された佃煮のイメージがあって、入口の段階で興味を失ってしまうのです。
昭和の古いイメージを払しょくし、どうしたら興味をもってもらえるだろうか、と悩んでいたときにテレビをながめていると、コロナの影響で、ワインを自宅で楽しむ人が多いとニュースで流れてきました。そこで、ワインに合う新しいコンセプトの佃煮をつくろうと思い立ったのです。
その第1弾が「秋刀魚ゲランド塩」。当社の人気商品の「秋刀魚さんしょ煮」をベースに、ミネラルの豊富なフランス産ゲランド塩を使用し、白ワインに合う洋風の仕上がりにしました。その「秋刀魚ゲランド塩」を、東京商工会議所が主催する商談会で提案したところ、ワインの直輸入を行っている高級スーパーで取り扱っていただけることになりました。
そして、第2弾として、2022年には本店の老朽化による移転を機に、店の一角にカウンターを設け、「佃煮とワインのマリアージュコース」をランチの時間帯に提供し始めたのです。プロの食ジャーナリストが監修した、佃煮を使った洋風オリジナルメニューをワインとともに楽しむことができます。
また、2023年には、コース料理の中でも特に人気だった淡水産のいさざあみの佃煮にバターを合わせた「あみバター」も商品化しました。

秋刀魚ゲランド塩
秋刀魚ゲランド塩
あみバター
あみバター
インバウンドのお客さまが増えており、より力を入れるため英語対応サービスも備えている。
インバウンドのお客さまが増えており、より力を入れるため英語対応サービスも備えている。
佃煮に縁のない層との新たな接点を創出

──これらの新商品開発に取り組んだことで、社内外にはどんな影響がありましたか?
田巻社長
 佃煮に縁のないお客さまとの接点が増え、当社の佃煮のことを知ってもらう機会が増えました。「世界のふりかけ」や「秋刀魚ゲランド塩」を買いに来た若い世代のお客さまが、両親へのおみやげに佃煮を購入するといった相乗効果にもつながっています。従来の佃煮の枠にとどまっていたら、このような購買体験は生まれなかったでしょう。
また、昔からの佃煮を日々扱っているとどうしても世界が狭まりがちですが、新しい食文化に触れることで社員の視野が広がり、いい刺激になっています。ソムリエを招いてワインの講習会をする際も、みんな楽しそうに学んでくれているのを感じますね。
──ほかに、佃煮を広める取り組みは何か行っていますか?
田巻社長
 インバウンドの観光客が徐々に戻りつつある中、海外の香辛料の雑誌に当社の山椒やふりかけが紹介されたこともあり、ヨーロッパからの観光客がよく来店しています。彼らに日本の食文化を知ってもらおうと、新たに佃煮と日本酒のペアリングコースも用意しました。
もう一つ、日本の食文化を体験できる取り組みとして「おにぎりワークショップ」を開催しています。先日はドイツ在住の日本人男性がドイツ人のフィアンセを伴って「彼女に日本の文化を体験させたい」と仲よくワークショップに参加してくれましたね。
──新商品開発で、注意しているポイントなどありますか?
田巻社長
 「世界のふりかけ」もワインに合う佃煮の開発も、一見斬新なように見えますが、240年以上続く玉木屋のDNAを商品開発の幹にしています。「世界のふりかけ」もいきなり生まれたわけではなく、長年かけて磨き上げた佃煮の技術と10年かけて開発した「和のふりかけ」があってはじめて実現したものです。その幹だけは絶対にぶれないようにしています。
その意味で、商品企画を外部に丸投げで委ねてしまうのはお勧めできません。自社の幹とは異なるところから枝葉が伸びて、どこかで見たことがあるような商品しか生まれないことが多いように思います。
──商品に自信があってもなかなか売れない、という悩みも飲食業の人から多く聞かれます。
田巻社長
 リソースが限られた中小企業の場合は、大手メーカーと異なり、商品を認知させ、販売するための近道はありません。
たとえるなら「種まき」のイメージです。いろいろなところに種をまいておけば、いつか、どこかから芽が出る。芽が出たときに、そこに一点集中して育てていく。芽が出て育つまでは長い時間がかかりますが、そのぶん、じわじわと口コミで広まっていきます。逆に多額の予算を投じてプロモーションをかけるほうが、一時は売れたとしても長くは続かないのではないでしょうか。
──2021年、経営のバトンを引き継ぎました。241年の伝統ある佃煮屋を、これからどのように導いていきますか?
田巻社長
 当社に代々伝わる接客のモットーとして「ひくく、やさしく、あたたかく」という言葉があります。母もこの言葉を大事にしていました。
お客さまに対しても、一緒に働く仲間に対しても、感謝の気持ちがなければ「ひくく、やさしく、あたたかく」という姿勢で臨むことはできません。この言葉を玉木屋のDNAとして、接客だけでなく経営の基盤としても守り続けていきたいですね。

「商品開発で意識しているのは、“絞ること”と“掛け合わせること”。新商品は必要ですが、母が多くの商品をつくっており、これ以上増やすと工場の生産効率が落ちると思いました。ですから商品を絞り、さらに既存商品と新しい何かを掛け合わせた商品開発を意識しています。」(田巻社長)
「商品開発で意識しているのは、“絞ること”と“掛け合わせること”。新商品は必要ですが、母が多くの商品をつくっており、これ以上増やすと工場の生産効率が落ちると思いました。ですから商品を絞り、さらに既存商品と新しい何かを掛け合わせた商品開発を意識しています。」(田巻社長)
専門家のココに注目!

既存商品をベースにした新商品開発

  • 佃煮の製造に240 年以上の歴史を持つ同社。江戸時代からの佃煮製造技術を軸に、10年もの歳月をかけて開発したのが「和のふりかけ」。そしてイタリアンやタイ料理などを取り入れたのが「世界のふりかけ」だ。これらの商品開発は、“老舗の技術を活用し、時代に合わせた食の付加価値を発掘”した事例として注目したい。

「食シーン」提案の工夫

  • 佃煮で培った技術をコアな強みとして「どのような時に何と一緒に食べるか」を追求。ワインに合う佃煮や自宅で楽しむ佃煮など、食シーンの提案により新たな顧客層の開拓に成功。長年の技術力に支えられた一貫性のある商品開発によってラインナップを拡充する好循環が生まれている。