商品開発・販路開拓のポイント
- ● 世界中の農園主との強い信頼関係が、毎年継続した良質で安全な最高の豆の仕入れを可能に
- ● 高価格で買い手が付きづらいスペシャルティコーヒーを、購入しやすくするためドリップバッグの商品を開発
- ● 断られることを恐れず、展示会や商談会で出会ったバイヤーに連絡し販路を広げてきた
本社: 〒135-0046 東京都江東区牡丹3-7-5-1F
代表者名: 代表取締役 田那辺 聡 氏
設立: 2002年
資本金: 300万円
従業員数: 1名
事業内容: コーヒー豆の卸売/小売、カフェ経営、カフェ開業支援、カルチャースクール講師、カフェ関連器具の卸売/小売
商品開発・販路開拓のポイント
──世界最高級品質のスペシャルティコーヒーのみを毎日焙煎し販売しているとのことですが、「スペシャルティコーヒー」とはどういったものでしょうか?
田那辺社長 一般的なコーヒー豆は、国ごとに等級(グレード)が格付けされています。しかし、この等級というのは標高の高さや豆の大きさなどを基準としており、必ずしも味などの品質を反映したものではありません。
対してスペシャルティコーヒーは、それまでの等級とは異なりプロのカッパー(鑑定士)が味や香りをブラインドでカッピング(試飲)し、80点以上の評価を受けた選りすぐりのコーヒーを指します。
コーヒービジネスの世界は、品質は低くても等級に合わせて大規模生産をすれば稼げる構造になっており、その結果、コストや時間をかけて品質の高いスペシャルティコーヒーをつくっている小規模農園の多くが苦しい思いをしているのです。
この構造はあまりにもおかしい。等級にかかわらず自らカッピングしておいしいと思ったコーヒーを日本の皆さまに紹介し、コーヒー農園、消費者、そしてコーヒー業界全体の三者がすべてハッピーになる「三方よし」の世界をつくりたい──その思いから勤めていた会社を辞め、喫茶店の運営と店頭販売、レストランやカフェへの卸などを行うピコフードサービスを2002年に創業しました。
創業時の2000年代初頭は、スペシャルティコーヒーを取り扱う事業者は国内にほとんどなく、「あんな高いコーヒーが売れるわけがない」と後ろ指を指されるような時代。コーヒー教室を開催しても最初は5人ほどしか集まりませんでした。でも、定期的にコツコツ開催を続け、固定のファンが1人、また1人とついてくれるようになりました。
それと同時に、10年ほど前から「マイクロロット」といわれる流通量の少ないスペシャルティコーヒーに注目が集まったり、トレーサビリティやフェアトレードが重視されるようになってきました。コーヒー業界も少しずつ風向きが変わってきましたね。
──素敵なジャケットのオリジナルのドリップバッグがたくさんありますね! 開発に至った経緯や手順をお聞かせください。
田那辺社長 スペシャルティコーヒーの評判が徐々に広がり、固定のお客さまが増え、星付きのレストランにもコーヒー豆を卸せるようになるなど、創業から十数年が経ってようやく商売が軌道に乗ってきました。しかし、その一方で危機感もありました。
門前仲町というエリアは古くからお住まいの年配のお客さまが多く、同じ江東区の豊洲のように高層マンションも少ないので、新規の若いお客さまを獲得しにくいのです。このままではいずれ事業が縮小してしまうことは目に見えており、業務用の卸事業により力を入れることで売上を確保しようと考えました。
しかし、当社で扱っているスペシャルティコーヒーは通常の等級コーヒーと比べて1キロ当たり1000円は高い。これをどうやって販売しよう? と悩んだ末に思いついたのが、ドリップバッグのアイデアです。ドリップバッグ1袋は10グラム。原価が10円高いだけなら、通常のドリップバッグと価格面でも十分勝負ができると考えたのです。
2017年に、「ものづくり補助金」を活用して大きなサイズの焙煎機を導入。その後、約1年をかけて開発したのが国際的に有名なスペシャルティコーヒー「ゲイシャ」種を使ったドリップバッグ「FUKAGAWA GEISHA」です。
──ドリップバッグは、どのように売っていったのですか?
田那辺社長 東京商工会議所が提供するプレスリリースサービス「PRワイヤー」を活用し、プレスリリースを出したところ、もともと人脈でつながりのあったスポーツ新聞が取り上げてくれ、それを機にスーパーマーケット・トレードショーや東京ビジネスチャンスEXPOへの出展へとつながりました。
それらの商談会で大手食品商社のバイヤーさんから依頼をいただき、「FUKAGAWA GEISHA」を2020年の東京五輪イヤーに向けてリブランディングした「江戸東京コーヒー」シリーズを立ち上げました。同シリーズではその後も「GINZA」「ASAKUSA」と種類を増やし、大変好評です。
また、日本全国の誠実につくられた食品を販売する専門店から、プライベートブランドのドリップバッグのお話をいただき、担当のバイヤーさんと一緒に商品開発を進めました。ところが、社内の試飲会の際に正しい淹れ方をせずに役員に提供したため「こんな薄いコーヒーは出せない」と商品化の一歩手前で却下されてしまったのです。
しかし、そのバイヤーさんはあきらめずに「デカフェ(カフェインレスのコーヒー)はできますか?」と再度提案してくれました。そこで、エチオピアのスペシャルティコーヒーの品種を用い、かつ有機溶媒を使わない超臨界二酸化炭素抽出法(*)でデカフェを開発。同じ轍を踏まないよう今度は「淹れ方カード」を用意し、一般の人にもおいしく淹れられる工夫をしたところ、幸いにして採用していただくことができました。
──よいバイヤーさんと出会いましたね。バイヤーさんや取引先と良好な関係をつくるために心がけていることはありますか?
田那辺社長 当たり前のことですが「嘘をつかない」こと。わからないことはわからない、できないことはできないと正直に言うことです。
ただし、ただ「できません」と言うのではなく「こういう条件ならできます」という提案を必ず行います。そのうえで、先方が望む仕様や条件にできるだけ近づける努力をします。海外の農園との窓口となる担当者も、ゴールを共有して一緒に汗をかいてくれる人のほうがうまくいく確率は高いですね。
*温度と圧力をかけて超臨界状態にした二酸化炭素を、原料に接触させ、カフェインを抽出する方法。その後、二酸化炭素からカフェインを除去し、二酸化炭素を再利用することで、環境負荷を抑えられる。
──ピコフードサービスを起業して、今日までに最も苦労したことは何でしたか?
田那辺社長 創業者なんて毎日が苦労の連続ですよ(笑)。そもそもスペシャルティコーヒーという知名度の低い商材を扱っているので、事業が安定するまで10数年かかりましたから。
これまで経験から言えるのは、「こうすれば成功する」という方程式はなく、コツコツやるべきことを積み重ね続ける以外にありません。定期的に開催しているコーヒー教室も、回数を重ねることで数人が延べ数百人になり、スペシャルティコーヒーのよさを理解してくれるお客さまを地道に増やしていきました。「コツコツが勝つコツ」です。
──これから食品業界で独立・開業をお考えの読者もいると思います。一言アドバイスをお願いします。
田那辺社長 大儲けしたいのなら、「自分だけが成功するんだ」ということだけハングリーに追求すべきでしょう。ただ、長続きするかはわかりません。
「勝つ=続ける」だとしたら、繰り返しますが「コツコツが勝つコツ」。例えば、展示会に出たあと、出会ったバイヤーさんからの連絡を待っている人がいますが、自分から連絡をすべきです。そこで断られてもあきらめず、すべきことを積み重ねる。それしかありません。断られるのが嫌な人は初めから独立を考えないほうがいい。9割が断られるのですから。
ターゲットを見定めたブランディング
バイヤーのリクエストを商品開発に反映