2025年8月7日更新
NEW 株式会社スパークレール
所在地 | 東京都目黒区中目黒 1-1-17 LANTIQUE 307 |
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代表者 | 水井 貴之(代表取締役) |
資本金 | 1,000万円 |
従業員数 | 7人 |
設立年 | 2013年 |
企業HP | https://sparkler.jp |
株式会社スパークレールは、東京・福岡の工房でオリジナル石鹸の製造・販売を行う企業だ。2003年、代表取締役である水井貴之氏の母が自宅のキッチンで石鹸作りを始めたことが原点という同社。その特徴は、創業当時から「コールドプロセス製法」にこだわり続けている点と、「体験価値(※)」に重きを置いた商品販売を行っている点だ。とりわけ『五感で楽しむ』をコンセプトとして「体験価値」の提供に注力する新ブランド「mue(ミュウ)」は、ブランドの設立からわずか2年で渋谷・MIYASHITA PARKにポップアップストアを出店するなど、急成長を遂げている。
※体験価値:商品やサービスそのものの機能的な価値だけでなく、体験した際の感情や満足感等も含めた総合的な価値のこと。
こだわりの「コールドプロセス製法」を続けていくため、新たな戦略を打ち出す

一つ一つ丁寧に乾燥させる
スパークレールの創業は2013年。水井氏の母が趣味で作っていた石鹸をネット販売しようと試みた際、化粧品製造販売業許可が必要だったため、法人化に踏み切ったという。
「当社では、母が石鹸作りを始めたときから製造に『コールドプロセス製法』を採用しています」と水井氏は言う。一般的な石鹸は、オイルと水酸化ナトリウムを混ぜて加熱させる「ホットプロセス製法」で作られている。ホットプロセス製法のメリットは、反応が早く進むことから工場などでの大量生産や自動化が可能という点だ。一方、コールドプロセス製法では常温で1か月ほど乾燥・熟成させる。一つひとつ手作りのため大量生産には向かないが、保湿成分や香りが飛びにくくなることが大きな特徴だ。「『コールドプロセス製法にこだわる』という軸をブラさないようにしています」と水井氏は強調する。
それを象徴するのが、会社設立当初からECサイトで展開している「CAMPHRIER(カンフリエ)」だ。原料にこだわり良質な植物オイルのみを使用した完全無添加の石鹸シリーズで、価格帯は1,000円~1,500円。原料や保湿力にこだわった良質な石鹸を求める層から高い評価を受けている。「原価率が非常に高く、ほとんど利益が出ていませんでした。コールドプロセス製法にこだわり続けていくためにも、『CAMPHRIER』とは別に高付加価値・高価格な商品を打ち出していく必要がありました」と水井氏は当時を振り返る。
そこで着目したのが、30代の働く女性を中心としたギフト需要だという。「『5,000円未満で買える、ちょっと良い贈り物』として、もらって嬉しいデザイン・香り・テーマ性を持たせた石鹸を開発・販売しようと考えました」と水井氏は語る。そうして生まれたのが、新ブランドの「mue」だ。
新ブランド「mue」を開発。「洗顔を通じた特別な体験」を提供する
「mue」は『五感で楽しむ』や『疲れや悩み、ストレスを洗い流して、本来の自分を取り戻す』をテーマに作られた、デザイン性の高い石鹸シリーズだ。暮らしの中で直面する様々なシーンを想定し、各商品のデザインなどを決めているそうで、「signpost(道標)」「dawn(夜明け)」「focus(集中)」などのタイトルもそれぞれのシーンを想起させるものとなっている。「『mue』では、『洗顔を通じた特別な体験』の提供を売りにしています。商品ごとにオリジナルの楽曲をつけているのも、そうした『体験価値』を向上させる工夫の一つです」と水井氏は話す。たとえば「signpost」に添えられたQRコードを読み込むと、製品をイメージした音楽が流れるようになっている。
「『mue』の開発には、ターゲット層である30代女性へのヒアリングで得たリアルな生活シーンや価値観を反映させました。たとえば『newme』は『朝の散歩中、空の写真を撮るのが元気の源』というエピソードをもとにするなど、個々のライフスタイルに寄り添った商品づくりにこだわっています」と水井氏は述べる。綿密な設計でストーリーを練り込まれた「mue」の石鹸は、主に自社サイトを通じて、「CAMPHRIER」より1,000円ほど高い価格で販売されている。
商品の付加価値を上げるだけではない。水井氏は、IT企業を経営していた経験から、業務の標準化やプロセスマネジメントにも注力している。「社内システムを独自開発し、OEMの生産管理や仕様書の管理などに活用しています。AIを用いてコーディングすれば、従来の1/5から1/10程度の費用でシステムを構築可能です」と水井氏は話す。これにより、社内の管理工数を大幅に削減。「人間同士のコミュニケーションに集中できる環境づくり」に力を入れつつ、少人数でも高い効率で運営できる体制を整えている。
ワークショップやポップアップイベントなどのオフライン施策を通じ、ファン創出を狙う

ワークショップの様子
「現在は、販促費をかけて新規顧客を取り込むよりも、リピート購入を確実に増やしていくフェーズにあると思います」と水井氏が断言する通り、現段階での目標は「高い熱量を持つファンの創出」だ。まず熱狂的なファンを100人集めることで、口コミやコミュニティの拡大を図る。そのための取り組みの一つが、石鹸作りワークショップの開催だ。ワークショップでは、初心者でも2~3時間ほどで石鹸作りを体験でき、制作した石鹸は1か月程度乾燥・熟成させたのちに使用できる。水井氏は「狙いは単なる制作体験ではなく、アクティビティを通じてお客様に石鹸の良さや製造の難しさを理解していただくこと。さらに、日常的に固形石鹸を使う方が減少している中で、『自分で作ったから使う』という流れを生み、固体石鹸に対する日常的な接点を増やすことが目的です」と語る。
スパークレールは、ワークショップの他、ポップアップイベントや百貨店への商品展開といったオフライン施策にも尽力している。こうした継続的なタッチポイントを通じて集めたファンに、いずれは商品開発に参加してもらうことも視野に入れているという。「新商品をお客様に試して頂き、色や香りなどのフィードバックをもらってPDCAを素早く回していく。20~30個といった少ロットでもすぐに製造できるスピード感を活かし、顧客と一緒にブランドを育てていけるようなコミュニティを形成したいですね」
今後、スパークレールは化粧品の会社ではなく「ライフスタイルブランド」を目指していくという。「特に30代女性の『リフレッシュ』や『リラックス』へ寄与する商品を展開していきたい。化粧水や美容液といったスキンケア製品のみならず、もしかしたら入浴剤、フレグランス、さらには飲食やホテルなどに広がる可能性もあります」と水井氏は今後の展望を語る。
同社が目指すのは、単に商品を提供するのではなく、体験と共感を軸にしたブランド構築だ。リアルな接点を大切にし、ともに楽しみながら育つブランドとして、今後もお客様との「共創」を重視した展開が期待される。