東商からの重要なお知らせ

攻めの脱炭素事例集

株式会社山櫻

紙製品製造業

未来の豊かさへつなぐため、規格品のエシカル化により
カーボンニュートラルの達成を目指す

株式会社山櫻

  • スペシャル事例

事業概要と取り組みの背景

再生紙による名刺をいち早く販売

1931年の創業以来、名刺、封筒、挨拶状などオフィス向けの紙製品の製造・販売を手がけてきた山櫻。「出逢ふをカタチに」というブランドステートメントのもと、人と人、人と企業、そして企業と企業の出逢いをさまざまなカタチでサポートするため、現在ではWebサービス事業やプリンター事業に加え、文具やアパレル分野におけるセカンドブランドの展開など紙製品以外の分野にも事業領域を拡大している。

株式会社山櫻 代表取締役 社長 市瀬豊和氏

そんな同社の環境への取り組みは早く、1990年にさかのぼる。背景には、1970年代後半から1980年代にかけて国際的に問題となった熱帯雨林破壊がある。これを契機に地球規模で森林保全の声が高まったことから、山櫻でも森林資源の節約に貢献しようと考え、業界に先駆けて再生紙を使った名刺を販売した。当時は環境意識が今ほど高くはなかったため、相手に渡す名刺に古紙を混ぜた再生紙を使うことで粗悪品のイメージを持たれるケースもあったが、当時都知事を務めていた鈴木俊一氏がいち早く再生紙による名刺を取り入れたことをきっかけに、定着していったという。

その後、名刺だけでなく、再生紙を使用した封筒などの製品を販売するとともに、社内では、2000年に環境マネジメントシステムに関する国際規格「ISO14001」を取得し、環境問題への積極的な取り組みをスタート。こうして、社内外を巻き込みながらSDGs達成に向けたアクションを力強く推進し、持続可能性を軸とした企業文化を醸成していった。

SDGsの17の目標と169のターゲットをわかりやすくまとめた「SDGsターゲットファインダー」。同社で日本語版を製造協力・販売

SDGsの17の目標と169のターゲットをわかりやすくまとめた「SDGsターゲットファインダー」。同社で日本語版を製造協力・販売

SDGsの17の目標と169のターゲットをわかりやすくまとめた「SDGsターゲットファインダー」。同社で日本語版を製造協力・販売

社内ではゴミの分別を徹底するために色で識別できるように工夫。紙ゴミを3種類に分けているのも紙の事業会社ならではの特徴

社内ではゴミの分別を徹底するために色で識別できるように工夫。紙ゴミを3種類に分けているのも紙の事業会社ならではの特徴

環境への取り組み

日本で唯一のフェアトレード認証紙・バナナペーパーを開発

バナナペーパー

同社は、間伐材や非木材など原材料にも配慮をしている。きっかけは、2008年に製紙業界で発覚した古紙配合率偽装問題だ。ある製紙メーカーが、品質をより高くするために、再生紙の古紙配合率を実際よりも高く表示する不正行為を行っていた。しかし、環境性の高い商品を求めて購入していた消費者にとっては、信頼を裏切る行為であり、その再生紙を用いて名刺を製造していた山櫻にとっても批判の対象となり大きなダメージを受けた。

そこで同社では、古紙の配合率ではなく、森林認証紙や非木材を利用することに力を入れ始めた。その代表例が「バナナペーパー」(One Planet Paper ®)だ。

アフリカのザンビアで廃棄されるだけだったオーガニックバナナの茎から繊維を取り出し、古紙または森林認証パルプを加えて作る非木材を活用した紙である。原産地に安定的な雇用を生み出し、経済発展へ寄与できることからバナナペーパー製品の販売を2012年に開始。オーガニックバナナ繊維20%配合のバナナペーパーは日本で唯一のフェアトレード認証紙であるとともに、クライメートポジティブ(繊維から紙の生産までで排出するCO2より20%多い量を、現地の人と一緒に森を守るプロジェクト「REDD+(レッドプラス)」に参加することなどにより吸収・固定化)な紙でもあり、「貧困をなくそう」「気候変動に具体的な対策を」「働きがいも経済成長も」等SDGs17項目すべてに貢献している稀有なエシカル商品として注目を集めている。

バナナペーパー

2025年度中に規格品95%のエシカル化を目指す

同社は、バナナペーパーを筆頭に、環境保護から一歩進んだ社会貢献にもつながる製品の企画・開発に力を注いでいる。そこで、「マーケティングの4P(Product;製品戦略、Price;価格戦略、Place;流通戦略、Promotion;販促戦略)」と「SDGsの5P(People;人間、Planet;地球、Peace;平和、Prosperity;豊かさ、Partnership;パートナーシップ)」の考え方を掛け合わせた「ものづくりの考え方」を策定し、これに則って企業活動を進めることで、持続可能な社会の創出に貢献したいと考えている。

その一歩として、同社は、購入・調達する側が意識をしなくてもエシカルな製品が選択されるように、「選択してもエシカル・選択しなくてもエシカル」というキャッチフレーズを掲げ、2025年度中に同社が提供する規格品(約3,000アイテム)の95%をエシカル対応製品とする目標に向けて取り組んでいるところだ。

花屋などで廃棄される茎と新聞古紙、水を原料にした日本初のサーキュラーエコノミータイプの植物用ポッド。土に埋めると、やがて土に還る

花屋などで廃棄される茎と新聞古紙、水を原料にした日本初のサーキュラーエコノミータイプの植物用ポッド。土に埋めると、やがて土に還る

花農家や市場、式場などでやむをえず廃棄されてしまう花を原料に、森林認証パルプを混ぜてモールド成型したエシカルなボックス

花農家や市場、式場などでやむをえず廃棄されてしまう花を原料に、森林認証パルプを混ぜてモールド成型したエシカルなボックス

脱炭素化に向けた取り組み

ロードマップを作成し、できることから始める

日本政府が2050年カーボンニュートラル宣言したことを受けて、2023年6月、代表取締役社長である市瀬豊和氏は2050年自社のカーボンニュートラル目標達成を目指す宣言を行った。一つひとつできることから進めようと、従来からの省エネなどの取り組みを加速させるとともに、「カーボンニュートラルへのロードマップ」を作成。また、どのように具体的に進めていくかを決めていく「脱炭素推進チーム」を立ち上げた。メンバーは、マーケティング、総務、物流、調達、工場、営業、財務経理の各部門の部長職で、ミーティングを隔月開催し、部署横断でPDCAを回している。

これまでの取り組みでは、2023年に自社製品工場である「八王子の森工場」で使用する電力を、すべて再生可能エネルギーにより発電されたグリーン電力に切り替えた。また、2024年からは物流センターで使用する電力もグリーン電力に切り替え完了。さらには工場と物流センターにおける自社車両のガソリンや軽油などの燃料使用分について、Jクレジットなどの活用によるカーボン・オフセット(相殺)を開始し、Scope1およびScope2のCO2排出量の実質ゼロ化を実現した。

また、各施設のLED化に加え、使用電力量の常時監視と目標値の設定管理を行うデマンドコントロールシステムの導入や、支店の建て替え時に環境に配慮した建築材料を採用するなど、着実に省電力とCO2削減を推進している。

その他、製品やサービスにおいても、原材料調達から封筒製造過程までの工程で発生するCO2排出量を算定し、オフセットした「カーボンニュートラル封筒」を2023年に開発。さらに、封筒印刷では原材料調達から生産、輸送、廃棄・リサイクルまですべての工程でカーボン・オフセットするスキーム「カーボンニュートラルプリントサービス」も展開。WEBサービスについても、名刺の発注業務の効率化を実現する法人向けクラウド名刺発注管理サービス「NAMEROOM」では、グリーン電力を使用して名刺を印刷することに加え、デジタル名刺の作成も可能だ。これらは、CO2削減に貢献できる製品やサービスとして、環境配慮やサステナビリティを重視する企業に好評を得ている。

社会貢献とビジネスのバランスが重要

同社のマーケティング部は、自社の環境への取り組みをホームページやYouTube動画、メルマガなどで定期的に発信している。担当者にとっては、継続していくことは大変ではあるものの、自らの知識向上につながり、商品開発にも活かされているという。

そして、近年では山櫻の取り組みに賛同し、同社の製品を選ぶ取引先や消費者が増加している。それを端的に示すのが、バナナペーパーの売上だ。現在では、販売当初の2012年に比較して200倍を達成。今後も環境や社会に貢献する取り組みを行いながら、業績向上にもつながるように、社会貢献とビジネスを両立させていく考えだ。

アフリカで持続可能なビジネスに取り組むアパレルブランド「CLOUDY」と共同開発。プラスチックゴミを減らすためのペーパーハンガー

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「ホッピー」の製造工程で発生する麦芽の搾りかすをすき込んで作られた紙をコースターに。ホッピービバレッジとの意欲的なコラボレーション

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東日本大震災の津波による塩害で稲作が困難になった農地の再生を支援。同地域で栽培された綿花の茎から採った繊維と森林認証パルプを原料に生産された東北コットンペーパーを販売

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これから取り組みを始める方へメッセージ未来のために何もしないという選択肢はない

産業革命前からの平均気温上昇を1.5度に抑えるという国際的な目標がありますが、2024年は初めて1.5度を超え、地球はまさに世界沸騰化状態です。この事態を、企業として、経営者として、一人の人間として、どう捉えるか。自分の時代だけが良ければいいのか。未来に対してどう地球を残していくのか。しっかり考えなければなりません。いろんな意見がありますが、国を挙げて取り組んでいる以上、カーボンニュートラル達成に向けて、少しでもいいから歩みを進めなければならない。未来の子供たちのため、地球のために何もしないという選択肢はないと思っています。

株式会社山櫻 代表取締役 社長 市瀬 豊和

市瀬 豊和

現場の人間として思うのは、トップの理解があると物事は非常に進めやすいということです。幸運にも私は理解あるトップに恵まれたおかげで、カーボンニュートラル達成に向けた取り組みをのびのびとやらせてもらっています。歩みは小さくてもいいので、一歩でも前に進めることが大事です。何もしなければ、今後、企業として選ばれないリスクがあるでしょう。脱炭素の取り組みは、お金をかけずにできることも多いので、まずはそこから始めてみるのがよいと思います。

営業企画部門 マーケティング部 部長 村上 大介

村上 大介

株式会社山櫻

本  社 東京都中央区新富二丁目4番7号
設  立 1931年
従業員数 505名(2025年2月現在)
事業内容 紙製品の製造・販売および付帯する事業

取材:2025年4月

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