金属製品製造業
菊川工業株式会社
目次
1933年の創業以来、建築物の装飾金属建材を手がけてきた菊川工業。東京スカイツリー展望回廊をはじめ、東京駅丸の内駅舎の丸柱パネルや渋谷サクラステージのエスカレーターパネルなど、これまでに携わった内外装工事は数え切れない。設計から製造、施工まで一貫した生産体制のもと、熟練の職人技と最新テクノロジーを掛け合わせることで、クライアントの要望に応えた装飾金属建材を実現し、高い評価を得ている。
同社が手掛けた内装外工事のパネル展示
そんな同社がエコ活動に取り組み始めたのは2004年。きっかけは、生産性の向上とコスト削減を目的に「生産のムダ取り」に着手したことだった。同社は100%オーダーメイドで装飾金属建材をつくっているため、プロジェクトごとにスケジュールも異なれば、使う素材も様々であった。工場内には仕掛品や完成品がいくつも置かれ、足の踏み場もないほどであったことから、必要なものを必要なときに必要な量だけ生産するジャストインタイム(JIT)生産方式を取り入れることにした。
「キクカワ・ジャストインタイム(K-JIT)活動」と名づけた生産管理活動をスタートさせ、全従業員に対して「どんなムダを見つけ、どう改革したか」を報告する「改革メモ」を毎月一人3枚提出してもらうことを始めた。その中に、電気のつけっぱなしや過剰な梱包資材などの報告も多かったことから、省エネ活動や省資源活動も併せて展開した。また現在はさらに高い目標設定で、毎週3枚以上提出している。
従業員が毎月提出する「改革メモ」。優れた改革は全従業員の投票によって表彰される
その後、会社が一丸となってエコ活動に取り組んでいくために、環境省が定める「エコアクション21」の認証取得に取り組んだ。
最初に、エネルギー使用の現状を分析し、環境目標を設定。CO2と廃棄物の排出量を過去3カ年の実績平均値から5%削減することを目指した。具体的には、工場の天井の水銀灯を局所照明に一部切り替え、事務所の蛍光灯をLED化するとともに、改革メモでエコ活動につながるものには「ECOポイント」というポイント制を導入し、人事考課に反映させることなどで、意識改革を推進した。
やがて、ロンドンのブルームバーク新欧州社屋のブロンズ工事を皮切りに、環境意識の高い欧米諸国での仕事が増えたことから、2014年、環境マネジメントシステムに関する国際規格「ISO14001」を取得した。
JIT活動とISO活動の関係性を従業員に理解してもらうために社内啓蒙ポスターを掲示
ISO14001を2018年に自主返上したものの、2021年からは、同認証からの発展的活動と位置付ける「KIKUKAWA SDGs」を全社で展開。ごみの分別を強化し、サーマルリサイクルからマテリアルリサイクルへ変更したほか、副資材や梱包材の標準化と削減に力を入れた。また、ペーパーレス化を推進し、古紙のクローズドリサイクルにもチャレンジ。これらの取り組みは、一定の成果を上げるものの、エネルギーの使用量は目標とする数値まで押さえ込めないことから、東商「攻めの脱炭素“塾”」に参加した。
ごみの分別を強化。サーマルリサイクルからマテリアルリサイクルへ変更
梱包材の標準化を行い、繰り返し利用することを徹底。再利用可能の資材は倉庫に保管
塾では、自社の脱炭素化計画を策定するとともに、専門家による省エネ最適化診断を受けた。それによれば、同社のエネルギー管理状況は平均4.4点のAランク。トップ主導による管理体制や計画的な人材育成、設備の保守点検・記録保持、エネルギーの見える化が良点として評価され、自社のCO2削減活動が間違った方向で活動していたわけではなかったことがわかった。そのため、今後は指摘事項を改善するという方向性を明確に定めることができた。
診断結果から改善点として挙げられたのは、各設備の運転基準の見直し、個別でのエネルギー使用量の把握、系統図などの図面整備、省エネ目標の見直しの4項目。課題が整理されたことで、同社では工場の実働部隊の組織である「安全・5S委員会」に加え、24年3月には、CO2削減活動を強力に推進する計画を立てるなど、旗振り役の役割を担う「カーボンニュートラル推進委員会」を設置した。
脱炭素を進めていくには、個別でのエネルギー使用量の把握が欠かせないが、同社では工場を増やすごとにキュービクル(高圧受電設備)を増設したため、機械、照明、空調機、各工場それぞれの電気使用量や配線が把握できていなかった。それゆえ、まずはそれを解明するところから始めた。
同時に、エアコンの設定温度や照明の点灯・消灯時間など管理ルールを設定し、従業員に周知徹底を図った。専門家の指導を受けたことで、系統的な対策が立てられるようになり、費用対効果の観点からやるべきことの優先順位が明確になった。
受講後に手がけた取り組みの中で最も効果があったのは、工場3棟の天井照明を水銀灯からLED照明に完全切替したことだ。切り替えには、千葉県の業務用設備等脱炭素化促進事業補助金を活用。その結果、工場全体の照明が占める消費電力を約73%削減。水銀灯に比べて省メンテナンスでランニングコストも削減できるようになった。
工場3棟の天井照明を水銀灯からLED照明に完全切り替えを実施
カーボンニュートラル推進委員会では、今後はエアコンを中心に老朽化した機械設備の刷新を図っていく予定だ。調査してみると、設置後20~30年経過しているエアコンがあった。最新機種に入れ替えることで、消費電力を約1/3に抑えられるため、メーカー各社の製品を比較検討しながら進めていく。機械設備においても、新しくすることで生産性が上がり、省エネにつながるケースは少なくない。ただ、導入には多額の費用がかかるため、補助金の情報収集にもアンテナを張っていく。
「K-JIT活動」からスタートした同社のエコ活動は、「エコアクション21活動」と名を改め、やがて「ISO14001活動」に改組。時代の流れに合わせて「KIKUKAWA SDGs」として展開し、東商脱炭素“塾”に参加したことで、いっそう脱炭素化を加速させている。こうした活動の根底にあるのは、同社ならではの「Never Say No」という精神だ。どんな時にも「できない」とは言わず、知恵を絞ってカタチにしていく。そんなものづくりの会社だからこそ、今後も「Never Say No」の精神でエコ活動に取り組み、脱炭素社会の実現に貢献していく考えだ。
(写真左から)
キクカワホールディングス株式会社 総務部 チーフ 原田正氏(脱炭素塾に参加。EA21やISO140001の認証を取得するために立ち上げた事務局のメンバーの一人)
菊川工業株式会社 製造部 製造管理課 次長 鈴木司氏(EA21やISO140001の認証を取得するために立ち上げた事務局のメンバーの一人。カーボンニュートラル推進委員会の現委員長)
菊川工業株式会社 代表取締役 会長 宇津野嘉彦氏(脱炭素塾に参加)
キクカワホールディングス株式会社 総務部 広報チーム 渡邉瑞貴氏(広報担当として、会社のさまざまな取組をホームページなどで発信)
これから取り組みを始める方へメッセージ生産性の向上と脱炭素は同じテーブルの問題
今、経済産業省は日本経済を下支えしてきた中小企業の中から、成長意欲のある企業を中堅企業として育てていく施策を展開しています。極端な言い方をすれば、中小・零細企業のままでは行き詰まる時代が来るかもしれません。人を採用できない、資材コストはかかる…。逆風の中で私たち中小企業はどうすべきか。苦難は多くても、生産性を上げて中堅企業をめざしていかなければなりません。そういう意味で「脱炭素」は一つの切り口だと私はとらえています。例えば、CO2削減を目的として機械を刷新したとしても、それと同時に、エネルギー使用量(=コスト)は下がり、生産性は上がる。そうすれば、利益を出していくことができます。生産性の向上と脱炭素は別問題と考える人もいますが、私は同じテーブルにある問題だと思っています。
当社では、環境への取り組みを中心に積極的にウェブで発信するようにしたところ、取引先の幅が広がり、近年は新卒採用も成功しています。世の中のトレンドは脱炭素。社会に貢献しながら自らも生き残っていくために、今こそ取り組むべきだと思います。
菊川工業株式会社 代表取締役 会長 宇津野 嘉彦
菊川工業株式会社
本 社 | 東京都墨田区菊川2-18-12 |
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設 立 | 1933年 |
従業員数 | 178名(2024年12月現在) |
事業内容 | 装飾金属建材の設計・製造・施工 |
東京商工会議所事業の活用等
取材:2025年3月