攻めの脱炭素事例集
保険代理業
保険代理店として顧客の信頼を得るために
環境問題に継続的に取り組み、BCP対策にも注力
株式会社富士商會
- 東商脱炭素“塾

目次
事業概要と取り組みの背景
東日本大震災をきっかけに環境問題へ取り組む
創業1908年、保険代理業の創生期から100年以上にわたって事業を展開してきた富士商會。保険のエキスパート集団として「安心、安全、安定」をモットーに、損害保険7社、生命保険4社の保険商品を取り扱っている。
顧客の約8割は企業で、契約の大半を損害保険が占めていることから、自然災害に関心はあったが、2011年3月の東日本大震災をきっかけに、先代社長(現会長)の中江宏氏は環境問題により強い関心を持つようになった。震災直後の計画停電などにより電力供給に制約が生じ、顧客企業が懸命に節電する光景を目の当たりにしたからだ。加えて、近年は気候変動が原因で、風水害が全国各地で頻発するとともに激甚化が進んでいると感じたことで、自然災害に対する被害を補償する損害保険を扱う保険代理業だからこそ、顧客から信頼を得るには、環境問題を理解して真剣に向き合う必要があると思い至った。
代表取締役社長 中江久人氏(今年4月に新社長に就任。)
取り組み内容
地道な節電の取り組みによりEA21認証取得
最初に同社が取り組んだのは、電力使用量の削減だ。こまめな消灯、照明の間引き、電気給湯器から省電力の電気ケトルへの入替はもとより、LED照明の導入やエアコンとサーキュレーターの併用などを実施。このほか、同社では自社ビルの4階以上をオフィスとして使っているが、社員には階段の利用を推奨。2025年4月に社長に就任した中江久人氏も先代を見習い、8階にある執務室まで毎日、階段を上り下りしている。こうした地道な節電の取り組みをトップ自らが率先して行うことで、全社員への意識づけを図りながら、継続すること10年余り。同社の電気使用量は2010年度の66,000kwhから2022年度の36,000kwhへと、45%減少した。
左:LED照明を導入し、こまめな消灯や照明の間引きなどを地道に取り組む
右:エアコンとサーキュレーターを併用することで、空調設定温度の適正化を図る
また、同社では年に一度、顧客向けに企業経営に役立つセミナーを開催しており、2022年と2023年は「カーボンニュートラル」をテーマに実施したところ、想定以上に好評を博した。そこで、顧客に脱炭素の必要性を訴えるだけでなく、自分たちも社会課題に積極的に取り組んでいる姿勢を示したいと考え、環境省が策定する中小企業向けの環境マネジメントシステム「エコアクション21」の認証取得を目指すことにした。
具体的には、従来からの節電対策のほか、水使用量やゴミ排出量の削減にも全社を挙げて取り組んだ。例えば、ペーパーレス化と業務効率化を兼ねてグループウェアを導入したほか、顧客に対してはeco証券やウェブ約款を選択できる仕組みを導入した。こうした取り組みの結果、2023年12月、保険代理業では、全国でわずか22社(2025年5月時点)しか取得していないエコアクション21(以下EA21)の認証を取得することができた。
節電のほか、水使用量やゴミ排出量の削減を呼びかけるためのポスターを掲示
2023年12月、環境省策定の「エコアクション21」の認証を取得
東商脱炭素“塾”受講のきっかけ
EA21を取得し、順調な環境経営に乗り出したと思った直後、翌年の2024年に早くも目標達成の壁にぶつかった。EA21申請の際、2022年度の実績をベースに目標を設定していたが、コロナ禍終息後、想定以上に出社率が上がるとともに、社員も増えた。全体で社員20名の会社規模であるため、1人の増加でも電力使用量上昇の影響は非常に大きく、消費電力の削減に行き詰まってしまった。
また、同社では非常用電源を用意していたものの、万一災害が起きて電気が止まってしまった場合、電源が足りなくなることが判明。BCP対策として、環境経営にもつながる太陽光発電と蓄電池の活用を検討することにした。自社で太陽光発電をして蓄電できれば、日常的に使え、いざという時の備えにもなり、電力使用量の削減とBCP対策にもなると期待したが、実際に導入するとなると、どこから手をつけていいのか全くわからない。そんな中、東商による「攻めの脱炭素“塾”」が開催されることを東商のメールマガジンで知った。もともと先代社長が東商のセミナーを高く評価し、社員にも参加を推奨していたことから、業務・総務部長の加藤敬人氏はヒントを得たいと考え、参加を申し込んだ。
(写真右から)
業務・総務部長 加藤敬人氏(昨年、脱炭素塾に参加)
業務・総務部 部長 舟橋豊氏
成果と今後の展望
東商脱炭素“塾”受講の成果
加藤氏によれば、脱炭素“塾”に参加したことで、脱炭素に関する情報をアップデートできたと話す。例えば、同社はもともと環境に配慮した電力会社と契約していたものの、さらに環境負荷の少ない電力会社に切り替えたいと考えていたが、切り替えたとすると、今よりも費用がかかると思い込んでいた。
塾に参加し、講師に同社の電力使用量とコストのデータを見せると、「今よりも安くて環境負荷の低い電力に切り替えることができる」とアドバイスを受け、具体的に複数の電力会社のプランを提案された。早速、社内で検討し、受講から2カ月後の2024年10月には電力会社の切り替えを実施。選んだのは、再生可能エネルギー電源の電気を利用するプランだ。途中解約のため違約金が発生したが、それを払ってもトータルで見ると約3割はコストダウンする上、電力使用による環境負荷も大きく低減。課題の一つである電力使用によるCO2排出量の削減について大きな成果を上げることができた。
もう一つの課題であるBCP対策については、自社ビルの屋上に太陽光パネルと蓄電池を設置することを検討したが、調査の結果、エアコンの室外機があるため十分なスペースが取れず、設置できないことがわかった。そこで、4階の執務室の上にあたるバルコニーへの設置を検討。こちらは設置スペースはクリアしたものの防水塗装する必要があることがわかり、2024年12月、屋上とバルコニーに防水・遮熱・断熱塗料を塗布した。高機能の塗料ゆえ費用はかかったが、室内の冷暖房効果が上がり、結果として、働く環境が快適になるといった予想外の効果があった。
太陽光パネルと蓄電池を設置する予定のバルコニー。防水・遮熱・断熱塗料を塗布した
テクノロジー×マンパワーで脱炭素化を推進
BCP対策と脱炭素の取り組みを兼ねた蓄電池導入の準備が整った今、同社では「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の実現を新たな目標に掲げている。テクノロジーの活用と社員一人ひとりの地道な取り組みの合わせ技で脱炭素化を推進していくという。
また、同社では千代田区と連携して古紙のリサイクルを行う「ちよだエコ・オフィス町内会」に参加するほか、読み終えた本やCD、DVDなどを集めて寄付することで、開発途上国の子どもたちへワクチン支援をする活動に参加するなど、地域の資源循環活動にも積極的だ。2024年からは人事考課の加点項目として社会貢献活動を取り入れるなど、会社として社会に貢献することが大切だというメッセージを発信している。リスクマネジメントを手がける保険代理業だからこそ、使命感を持って社会課題である環境問題にこれからも取り組んでいく考えだ。
左:資源ゴミのリサイクル化をめざす「ちよだエコ・オフィス町内会」に参加
右:本の寄付により、開発途上国の子どもたちへワクチン支援する社会貢献活動に参加
これから取り組みを始める方へメッセージ東商のセミナーは課題解決に役立つ学びの場
当社はかねてから社員のリスキリングを推進してきました。さまざまな企業がセミナーを実施していますが、特に推奨しているのが東商のセミナーです。東商脱炭素“塾”を筆頭に、常に時代のニーズを先取りしたテーマを掲げ、講師陣も的確な人選です。私たちもセミナーを開催しているからこそ、クオリティの高さがよくわかります。社員には興味のあるテーマがあれば、セミナーは受けるようにと言っています。私自身もオンライン、リアルを問わず参加しており、これからも活用したいと思っています。
株式会社富士商會 代表取締役社長 中江 久人
10年以上も前から電力使用量削減に取り組み、EA21の認証も取得していたので、環境問題に対して基礎知識はあったつもりでしたが、世の中は想像以上に進んでいます。脱炭素に関する情報もアップデートしなければならないと痛感しました。東商脱炭素“塾”は「課題を解決するための新たな視点・切り口を学ぶことができる場」。悩みのある方はぜひ参加してもらいたいですね。きっと解決の糸口がつかめるはずです。
株式会社富士商會 業務・総務部長 加藤 敬人
株式会社富士商會
本 社 | 東京都千代田区岩本町2-2-7 |
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設 立 | 1908年 |
従業員数 | 16名(2025年6月現在) |
事業内容 | 保険代理業 |
東京商工会議所事業の活用等
- 2024年度東商脱炭素“塾”「省エネ」コースに参加
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取材:2025年4月