~流通サービス業の実践的経営改善ガイド~
参考 流通・サービス業の現状と課題
2.生産性と賃金の低さをはじめとした流通・サービス業の課題
ここからは東京商工会議所が流通・サービス業の会員を対象に、2024年9月に実施した価格転嫁や生産性向上に関するアンケート結果を見ながら、流通・サービス業が抱える現在の課題を深掘りしていく。なお、回答者の属性(業種・従業員規模)は以下の通りである(図表6)。
図表6「流通・サービス業における価格戦略および
物流2024年問題に関するアンケート」(東京商工会議所)
価格転嫁の状況(図表7)について見てみると、事業のコストが増加した分の価格転嫁ができているか、という問いに対し、全て転嫁できている(12.7%)、ほぼ転嫁できている(23.9%)、ある程度できている(26.8%)という回答であり、6割を超える事業者が上昇コストのうち40%以上は価格転嫁できているものの、70%以上の価格転嫁ができている割合は36%程度にとどまることが分かった。
続いて、商品・サービスを目標価格で販売できているか、という問いに対しての回答を見てみると、6割以上(64.7%)の事業者が商品の付加価値を高める(=価格を上げる)必要性を認識しつつも、目標とする価格よりも安価な価格で販売している状況であることが分かる(図表8)。
では、なぜ目標とする価格よりも安価な価格での販売になってしまっているのか、その理由としては、競合が激しい(58.2%)、消費者の低価格指向が強い(36.5%)、取引先からの要請(33.4%)が挙げられている(図表9)。ここから、付加価値をつけて販売価格を引き上げ、高騰した事業コスト分の価格転嫁を実現したいと考えつつも、競合が激しいこと、消費者の低価格志向や取引先からの要望が強いことから、なかなか価格転嫁が実現しない現状が見えてくる。
この事業者アンケートでは、流通・サービス業における賃上げの状況についても確認している(図表10)。2024年の賃上げ状況は、業績好調による前向きな賃上げが30.2%、業績の改善は見られないものの、従業員の雇用対策等も含めた防衛的な賃上げが31.4%となった。
さらに、生産性向上に目を向けてみると、生産性向上への取り組み状況として、必要性を感じて取り組みができている(46.5%)、必要性を感じつつも取り組みができていない(39.0%)となっており、4割程度の事業者が生産性向上をしたくても、取り組みができない現状にあることが分かる(図表11)。
生産性向上の必要性を感じる理由としては、コストの削減(18.1%)よりも、自社の競争力を高める(34.2%)、人手不足への対応(27.4%)の回答が多く、生産性向上を「守る」ためではなく、「攻める」ために活用したい意向がうかがえる(図表12)。なお、必要性を感じつつも、生産性向上に取り組めない理由としては、経済的な余裕がないこと(38.9%)、人手が足りないこと(31.1%)、何から始めればよいか分からない(21.6%)という結果であった(図表13)。
以上のことから、現在、流通・サービス事業者は、激しい競争にさらされており、価格競争力を出そうとしても、光熱費や原材料費等が高騰していること、そして人件費についても人材の流出防止と確保のために賃上げを行わざるを得ないことから、事業コストが上昇し、商品やサービスの価格を下げて競争することが難しい状況にある。
さらに、こうした経営課題に対して、新たなアプローチとして、販売価格の向上(付加価値の向上)や生産性の向上に取り組みたいと考えつつも、最初に投資が必要となることや、取り組みを行う人材の不足も顕著な状況であり、ノウハウがなくなかなか新たな対応策を検討・実行することが難しい状況にあることが分かる。
参考文献
倒産集計 2024年度報(2024年4月~2025年3月)|株式会社 帝国データバンク[TDB]「流通・サービス業の発展に向けた要望」, 2024年12月12日, 東京商工会議所

- はじめに
- 好事例に見る流通・サービス事業者の経営改善アプローチ(実践編)
- 流通・サービス事業者の経営改善アプローチ(理論編)
- 流通・サービス業の現状と課題