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中堅・中小企業施策に関する要望

1999年6月10日
東京商工会議所

 わが国経済の最大の課題は、不況からの一刻も早い脱出である。バブル期の過剰債務・過剰設備の処理の遅れに加え、個人消費、設備投資とも依然として低水準で推移しており、一部に底入れの兆しは見られるものの、なかなか明るさが広がらない状況にある。今年度後半のさらなる景気の失速を防ぎ、回復基調を確かなものにするには、今まで以上に官民あげて、日本経済の再生に取り組む必要がある。
 しかしながら、経済構造改革を推進し、雇用創出の担い手として活躍すべき中堅・中小企業は、業況の落ち込み、先行き不透明感、金融システムの不安等から、極めて厳しい環境に置かれている。政府におかれては、新分野開拓にむけての経営革新や新規創業のための支援など各般にわたる支援策を整備されているが、今後とも新規産業の創出を促す規制緩和などの経済対策を機動的に推進するとともに、中堅・中小企業活性化のための予算額を大幅に拡充することが必要である。
 とりわけ現下の中堅・中小企業にとっては、事業資金の確保が緊要な課題であり、新規創業や新事業分野への展開などに積極的に取り組む、意欲ある中堅・中小企業の資金調達の円滑化に向けた制度拡充を進めていくことが強く望まれる。同時に、新規創業者が事業の定着化を図り、経済の担い手として成長していくためには、思い切った税制措置の拡充を図ることが必要である。 以上の観点から、下記事項について特段の配慮をされるよう要望する。

要望


1.中堅・中小企業金融対策の一層の充実

(1) 中堅・中小企業の信用補完制度について

①中小企業金融安定化特別保証制度の拡充
 昨年10月に創設された中小企業金融安定化特別保証制度は、すでに約80万件、15兆円を超す保証承諾がなされ、これによって中小企業の倒産件数が激減するなど、まさに貸し渋りに苦しむ中小企業の資金調達に即効性のある制度となった。
 しかしながら、厳しい経営環境にある中小企業にとって、資金難は依然として続いているため、今後の景気動向と本制度の利用状況等を見極めた上で、保証枠の増額については機動的に対応されたい。また平成12年3月31日までとなっている本制度の実施期間の延長や保証期間の延長も図られたい。

②信用保険料・保証料の引下げ
 資金調達に伴う金利は低く抑えられているものの、相対的に保証料負担が大きい。したがって信用保険料率を見直すことによって、保証料の引下げを図り、中小企業の資金調達コストを総体的に低減するとともに、信用保証協会の経営基盤の強化を図られたい。

(2) 政府系金融機関による融資の拡充
①政府系中小企業金融機関からの融資金利減免措置の再延長
 政府系中小企業金融機関からの金利5%を超える既往貸付に対して金利減免措置が講じられているが、いまだ中小企業を取り巻く経営環境が厳しいため、本年10月18日までとなっている本措置取扱期間をさらに継続されたい。また、現在の金利減免措置の基準金利(5%)の引下げもあわせて図られたい。

②小企業等経営改善資金(マル経)融資制度の拡充
 小規模事業者の資金調達環境は依然として厳しいため、小企業等経営改善資金(マル経)融資の平成12年3月31日までとなっている貸付限度額の別枠措置(450万円)、返済期間の1年延長等の措置を継続するとともに、融資審査基準の弾力的運用を図られたい。
 さらに別枠措置の本枠(550万円)への統合(合計で1000万円)と融資対象となる小企業の従業員規模の引上げを図られたい。

③政府系金融機関への予算措置の拡充
 民間金融機関による中小企業向け融資は、今後、金融監督庁の検査マニュアルに基づく検査・監督体制の実施、ペイオフ制度解禁を控えての資金移動等への対応で、選別融資の強化や貸出し姿勢の硬化が予測され、このため政府系金融機関の役割はますます高まるものと思われる。したがって、政府系金融機関に所要の貸付規模を確保するとともに、出資金等の追加により融資基盤を強化されたい。

(3) 中堅企業向け金融対策の拡充
 中小企業基本法で定める中小企業の範囲を越える中堅企業は、中小企業施策の適用対象からはずれ、資金調達にもっとも苦慮をしている企業層である。昨年、日本開発銀行等による中堅企業向け融資の拡充が図られたが、倒産や失業者の増加を防ぐという雇用対策の観点からも、さらに中堅企業向け金融対策を強化されたい。

(4)不動産担保主義からの脱却
 地価の下落で不動産担保余力が乏しくなった中堅・中小企業は、資金調達が困難になっているのが現状である。また新規創業企業やベンチャー企業にとって、物的担保に偏重した金融機関の融資姿勢が、創業時の資金調達の阻害要因となっている。
 企業の収益性、将来性等をキャッシュフローで捉えた事業の評価および技術力、知的財産権や経営者の能力などを評価する枠組みや評価機関の整備を図ることによって、不動産担保に偏重した審査基準のあり方を見直し、資金調達力の弱い中堅・中小企業が金融機関の融資を円滑に受けられるような環境の整備が必要である。

(5)ペイオフ制度解禁への十分な対応
 平成13年4月に予定されているペイオフ制度の解禁については、今後の景気状況や金融システムの安定などの動向を注視し、預金移動等による信用不安などの混乱を招いたり、中堅・中小企業の資金調達に支障をきたすことのないよう十分な配慮が必要である。

(6)中堅・中小企業の資金調達多様化のための環境整備
①社債発行への公的信用の付与
 中堅・中小企業が自己資本の充実と経営革新を図っていくためには、間接金融による資金調達だけでなく、直接金融へアクセスすることによって資金調達の多様化を図る必要がある。
 中堅・中小企業の直接金融による資金調達の手段として社債(私募債)の発行があるが、それにはほとんどの場合担保を必要とする。中堅・中小企業が社債発行によって、円滑に資金調達をするためには、信用保証協会等の公的保証を付与することにより信用力の補完を行い、担保提供の不要な直接金融の制度を創設することが望まれる。

②社債発行コストの低減
 中堅・中小企業が直接金融へアクセスする際の課題に、資金調達コストが間接金融に比べ高いことがあり、社債(私募債)の受託・引受手数料などの発行コストを低減する必要がある。
 また、社債発行に対し、投資家の判断の基準となる格付けの取得や情報開示が必要となるが、現状では、大企業向けの格付けや情報開示基準が、そのまま中堅・中小企業にも適用されている。したがって、将来性や技術力などを加味した中堅・中小企業向けの基準を設定するとともに、格付け取得や情報開示に要する費用の低減が望まれる。

③社債引受けや流通促進のための支援
 中堅・中小企業が社債発行により、確実に資金調達できるためには、引受け手の確保が必要であり、政府系金融機関等も社債の引受けができるよう検討されたい。
 また、中堅・中小企業の社債は発行額が小さいため、市場で流通させるためにはパッケージ化の必要がある。これらパッケージ化された社債等にも公的信用を付与して流動化を促進するなど、流通市場や環境を整備されたい。

(7)中堅・中小企業の債権流動化の促進
 経営の安定化や資金調達の円滑化を図るために、中堅・中小企業が保有する売掛債権等に公的保証を付与するなどの信用補完措置を講じ、債権の流動化を促進されたい。

2.中小企業税制の一層の拡充

(1) 中小法人税制等の拡充
①法人税中小企業軽減税率の適用所得金額の引上げ
 法人税の実効税率については、国際基準並みに引下げが図られ、それにともない中小企業軽減税率も引下げられたが、適用所得金額(800万円以下)については、依然として据え置かれたままである。わが国経済が今後とも活力を保っていくには、中小企業の経営基盤の強化が課題であり、中小企業軽減税率の適用所得金額についても思い切った引上げが望まれる。

②同族会社の留保金課税の廃止
 中小企業の内部留保を拡充し、自己資本の充実および経営の安定化を図るためにも、同族会社の留保金課税制度は廃止されたい。

③法人事業税の外形標準課税導入の反対
 法人事業税における「賃金」や「資産」等を課税標準とする外形標準課税の導入は、中小企業の活力を減退させ、企業の雇用や投資を抑制しかねないので、絶対反対である。

(2) 事業承継に関する税制の拡充
①事業承継税制の構築
 現行の相続税・贈与税のもとでは、事業承継に際しての過重な税負担によって、企業の存続が危ぶまれる事態に直面する中小企業も少なくない。廃業率の抑制や雇用の維持のためにも、相続税制とは別体系の事業承継税制を構築する必要がある。とくに納税猶予制度の創設や事業用資産の相続財産からの分離等の検討を早急に始められたい。

②取引相場のない株式の評価方法の改善
 取引相場のない株式の評価方法について、全ての規模の会社に類似業種批準方式または純資産価額方式の選択適用を認めるなどの改善を図るとともに、収益還元方式の導入についても検討されたい。

③相続税率の引下げ
 相続税最高税率(現行70%)を50%以下へ引下げるとともに、税率の累進構造を緩和されたい。

(3)固定資産税の改善
 固定資産税は、地価の下落に反して過度に税負担が重くなっており、多くの中小企業の経営を圧迫していることから、平成12年度の評価替えにあたっては、制度の抜本的な改善が不可欠である。とりわけ土地の評価方法の改善を図るとともに標準税率の引下げが必要である。

3.中堅・中小企業の活性化と新規創業に対する支援の拡充

(1) 中堅・中小企業の経営革新への支援の充実
①第二創業への支援
 既存の中堅・中小企業が、新規事業分野への進出や業種・業態の転換などによって新たな領域を切り開く、いわゆる「第二創業」に対し、金融・税制面での支援策を強化されたい。
 とくに構造改革を円滑に進める上で、設備投資や設備廃棄に対する政府系金融機関による融資制度を拡充するとともに、特別償却制度や税額控除制度、あるいは欠損金繰越期間の延長措置等の拡充を図られたい。
 また中小企業創造活動促進法に定める特定中小企業者の対象範囲を拡大するなど、既存の中堅・中小企業が活用しやすい制度とされたい。

②中堅・中小企業に対する雇用確保への支援策の拡充
 失業率が過去最悪の水準を更新する中で、産業間や中堅・中小企業間の人材移動の円滑化に資するよう、商工会議所等の公益団体が無料職業紹介事業等を行えるようにするとともに、労働力の需給ネットワーク機能の強化を図られたい。
 また、再就職のための支援や新たな労働力を受け入れる中堅・中小企業に対する支援策を拡充されたい。

(2) 新規創業への支援策の拡充について
①政府系金融機関による創業支援融資の拡充
 小企業等経営改善資金(マル経)制度の新規開業者向け貸付(新経)制度の取扱期間(平成12年3月31日まで)を延長するとともに、同一業種での新規創業や経営指導期間(6ヶ月)などの融資対象要件の弾力的運用を図られたい。

②創業コスト軽減による育成支援
 創業時のコストを軽減するために、企業設立時の登録免許税等の減免措置、創業後の経営の安定を図るための税負担の軽減および収益の一定額を一定期間準備金として内部留保できる制度等を創設されたい。

③エンジェル(投資家)創出策の拡充
 投資家の投資損失を他の所得等との損益通算が可能となるよう、いわゆるエンジェル税制を拡充し、投資家の創出を促進されたい。また本税制は、創業後5年未満の企業に対する投資に限られているが、創業後年数にかかわりなく、新分野に進出する意欲ある中小企業に対する投資で、止むなく損失を被った場合も認められるよう適用範囲を拡充されたい。
 また、エンジェルと起業家のマッチングを行うコーディネート機関を創設し、創業支援の拡充を図られたい。

4.「日本版SBIR制度」の一層の拡充
 新事業創出促進法に基づいて創設された中小企業技術革新制度(日本版SBIR制度)は、新規産業や雇用の創出の担い手としての中小企業が新技術を利用した事業活動を促進する上で有効な制度であり、今後関係省庁が連携し、中小企業者等への支出目標額を大幅に拡充するとともに、利用しやすい制度とすることが望まれる。
 また、中小企業の持つ技術の事業化までの支援とともに、経営指導や技術開発指導、販路開拓、マーケティングなどのソフト面での支援を行う制度の充実もあわせて図られたい。

5.中小企業向け年金制度の創設
 わが国の厚生年金加入者は約3300万人に達しているが、損金算入できる企業年金制度には人数要件があるため、多くの中小企業は制度に加入できず、その従業員の総数は約1000万人にのぼる。福利厚生の分野の中でもとりわけ年金については、大企業と中小企業との格差是正が長年の課題となっている。
 このギャップを埋めるため、中小企業やベンチャー企業でも導入可能な年金制度として、確定拠出型年金制度が関係4省で検討されているが、既存制度の見直しや税制の優遇措置と併せて、出来るだけ速やかな新制度の導入が望まれる。また、ポータビリティを確保するため、年金積立金を移管できる制度の創設が必要である。

6.中堅・中小企業の退職給付に関する新会計基準への対応
 国際的な企業活動や資金調達が進展する中で、わが国の企業会計基準についても国際的な整合性を図るべく、見直しが進められている。とくに、平成12年度より導入される年金・退職金についての新しい会計基準は、移行に際して専門的な年金数理計算を必要とすることから、年金・退職金制度を有する企業にとって極めて影響も大きく、とりわけ中堅・中小企業においては、早急な対応は難しい。
 このため、新会計基準の導入に際しては、中堅・中小企業が移行しやすいよう経過措置を設け、簡易な方法で退職給付債務の計算が出来る企業の従業員規模を出来るだけ拡大すべきである。

7.中心市街地・商店街の活性化対策の拡充

(1) 街づくり3法の運用における整合性の確保
 中小小売店は、消費者ニーズに対応すべく自助努力を行うとともに、地域の街づくりという視点から、必要に応じて大型店とも一体となって地域を活性化することが必要である。今般、大規模小売店舗立地法の指針案に「街づくりへの配慮」が盛り込まれたが、中心市街地活性化事業を進める際に、円滑な事業遂行ができるよう、都市計画法等街づくり3法の整合性が一層確保されるとともに、地域の実情に沿った弾力的な運用が図れるよう措置されたい。

(2)中心市街地活性化対策の拡充
 中心市街地活性化のため、「タウン・マネージメント計画策定事業」「活性化基本構想策定事業」を拡充するとともに、商工会議所がTMO(タウン・マネージメント機関)となる場合の運営費・人件費等の助成制度を創設されたい。また、タウン・マネージャーの養成や派遣制度の拡充など関連事業予算の拡充を図られたい。

(3)空き店舗対策の推進
 多くの商店街では、経営難や後継者不在による廃業等で、空き店舗が増加し、深刻な状況となっている。このため空き店舗を街づくりの観点から公共施設として有効に活用するため、地方自治体等による空き店舗の買い上げを促進されたい。とくに起業家が、創業時に空き店舗を活用する場合には、一定期間の家賃の補助や金融・税制上の優遇措置を拡充されたい。

8.中小企業の定義の改正
 中小企業の定義は、昭和38年制定の中小企業基本法に規定され、昭和48年の一部改正により中小企業の範囲が拡大されたものの、その後改正は行われていない。今回の中小企業政策研究会の最終報告に示された中小企業の定義の拡大は時宜を得た見直しで、多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展には不可欠であり、ぜひとも中小企業の定義を改正されたい。
 またその際、中小企業の範囲を超え、大企業の範疇にも属さない、いわゆる中堅企業に対して、必要な支援策については弾力的な対応が望まれる。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所