更新日(事例掲載日):2024年11月19日
株式会社榮太樓總本鋪
所在地 | 東京都中央区日本橋1-2-5 栄太楼ビル |
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代表者 | 細田将己(代表取締役社長) |
資本金 | 2,500万円 |
従業員数 | 230 名 |
設立年 | 2011年 |
企業HP | https://www.eitaro.com/ |

株式会社榮太樓總本鋪
1818年に創業し、200年以上の歴史を有する菓子製造販売会社。取り扱う商品は、江戸時代の姿形と製法を今に伝える「名代金鍔(なだいきんつば)」や甘納豆の元祖である「甘名納糖(あまななっとう)」、口溶けの良い「榮太樓飴」、わさびを用いた「玉だれ」を中心に、あんみつ、水羊羹、饅頭、大福など多岐にわたる。都内および全国の有名デパートや量販店、駅ビル、サービスエリア、寺社仏閣などを取引先に、格式高いギフト商品から身近な商品まで、各マーケットに応じて幅広く提供。
東京都八王子市に工場があり、大阪と九州に営業所を構える。派遣・契約社員も含めて8名のスタッフと15名のパート・アルバイトという少数精鋭で物流改善を推し進める物流課長、榎本隆太氏にお話を伺った。
物流改善に向けた
取組み内容
■運送コストの削減に着手
物流課の榎本課長
運送費がリーズナブルな「路線便」を採用
榮太樓總本鋪の八王子工場では、日曜日以外は毎日、日本全国へ商品を出荷している。その数は百貨店や量販店など平均100~150店舗におよび、実に段ボール400個分だ。繁忙期や3連休明けなどはその1.5倍ほどに達することもある。そんな中、2024年4月にドライバーの拘束時間や休息期間、運転時間等の基準を定めた法律「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」が改正された。「莫大な量の荷物を運送会社へ配送依頼しているので、法改正によって運送費が上乗せ請求されれば大打撃を受けることは予測できました」と榎本課長は振り返る。
そこで、それまでは大手の運送会社2社のみに依頼していたところを、中堅の運送会社が手がける「路線便」をメインとした配送へと変更。路線便は時間指定ができない分、運送費を抑えられるのだ。最終的に、路線便も2社に絞ることにした。
なお、路線便A社は運送費が重量・容積で計算される「重量制」、B社は段ボール個数で計算される「個口制」。「榮太樓總本鋪の商品は、段ボールサイズで120・80・60サイズが中心ですが、それ以下のサイズやバラ積みもあります。そこで、B社への対策としてコンパクトな商品を大きな段ボールに収めるなど段ボールの数を減らす工夫を行いつつ、A社とB社に荷物を分配することにしたのです。思い切って新たな方法を導入したことが功を奏し、コストカットをしっかりと実現できています」と榎本氏は話す。
運送会社を使い分け、年間の運送コストが400万円ダウン
一方、今まで依頼していた大手運送会社の強みは、時間指定ができることや仕事のクオリティが高いことだ。そのため、ECサイト等を経由した個人配送については大手運送会社へ今までと変わらずに依頼している。
また、共同配送を利用していることにも工夫が光る。たとえば東京エリアには榮太樓總本鋪の日本橋本店をはじめ、日本橋三越や高島屋、京王百貨店などにも店舗を構えており、各拠点で従業員が生菓子を販売している。生菓子は開店前の8:00~9:00までに届けなければならないため、共同配送が可能な運送会社に依頼をしてルート配送を行っているのだ。
「運送会社を上手に使い分けた結果、年間で取り扱う商品の量は増えたにもかかわらず、運送コストは400万円もダウンしました。上層部でも驚きの声が挙がったほどです」と榎本課長は手応えを語る。
■運送会社と良好な関係を構築
榮太樓總本鋪の八王子工場では、月に1度ほど運送会社との打ち合わせを行っている。互いに気になったことの共有や提案などを気軽に行える機会を設け、信頼関係の構築を図っているという。
「信頼し合える関係を構築できれば助け合いの精神が生まれ、より取引がしやすくなると思います」と榎本課長。「たとえば年末が近づくと福袋が1,000ケースほど八王子工場に届くのですが、保管できるスペースがないことが悩みの種でした。そこで、依頼している運送会社の倉庫に『12月中旬から保管してもらえないか』と提案しました。そうすることで運送会社の倉庫からそのまま百貨店などへ配送することが可能となるため、配送の流れもよりスムーズになると考えたのです」。話はまとまり、福袋の保管場所に悩むことがなくなったほか、年末のバタつき解消にもつながった。
ただ運送会社に助けてもらうだけではない。榮太樓總本鋪としても、運送会社の業務負荷を軽減するために荷物を行先別に仕分けをしておくようにし、出荷時の作業を効率化した。「結局は、人対人の関係性が重要」と、榎本課長は実感している。
■ロケーション管理で作業の効率化を図る
ロケーション管理の様子
実は榮太樓總本鋪の物流拠点は、2022年に相模原から八王子へ移転している。新しい物流拠点は5階建てで以前よりも広くなったメリットがある半面、「商品や梱包資材がどこにあるか分かりにくい」ことが課題だった。加えて、平屋建ての相模原センターから、5階建ての八王子工場に移転したことで、今までフォークリフトを利用した横移動が中心だったのに対し、1台のみのエレベーターを利用した縦移動が中心となったため、動線上、移動の効率性が著しく低下したことが課題となっていた。そこで、倉庫のロケーション管理に取り組み始めた。
まずは物流フローを安定させることに注力した。具体的には、商品の保管場所を瞬時に見つけられるよう、商品ごとに「ロケーション番号」を付記。どの棚の何列の何番目にあるかが分かるように、「HG011」など、アルファベットや番号で表記したのだ。
「ロケーション番号をつけているのは、現段階ではバレンタインやクリスマス用の季節商品のほか、箱やしおり、タグ、シールといった梱包資材です。次の段階としてはすべての商品に番号をつけて、誰もが効率的に商品の位置を把握できるようにしたいですね」と榎本課長は語る。さらに、ゆくゆくはハンディターミナルを導入し、バーコードを読み込むだけで商品の情報と正確な位置を確認できるシステムづくりも考えているという。
とはいえ、ハンディターミナルの導入にも障壁がある。 「ハンディを導入するためには、基本的に全商品にバーコード又はJANコードを振る必要があるのですが、現状コストの問題などもあり、そこまでには至っていません。商品コードなどを文字認証で読み取る方法もあるにはあるのですが、今度は精度があまり高くないという問題が生じてきます。どちらにせよ長期的に取り組んでいく必要がありますね」と榎本課長は語った。
■IT化によって作業効率アップ&資材削減
榮太樓總本鋪では、システムの導入による作業効率化も図っている。たとえば受注の基幹システムにAI-OCR(紙媒体の情報を読み取るOCR技術にAIを組み込んだ技術)を導入したことで、それまで手入力していた一部作業をなくすことに成功した。また、入力間違いによるミスを防いでやり直し作業がなくなり、時間的なコストも軽減。自社の販売員のいる常設店から導入を始めているが、順次、全取引先に広げていく計画だ。
また、商品包装の効率化にも力を入れている。従来は掛け紙と包装紙が別で、従業員の手で商品にのし掛け作業を行っていたが、繁忙期には工場や本社のスタッフによる応援がなければ現場がうまく回らなかった。
そこで榮太樓總本鋪は、包装紙に掛け紙を印刷するアイデアを採用。榎本課長は成果について次のように語る。「印刷後は既存の自動包装機が包んでくれるので、掛け紙を個別に包装する必要がなくなりました。また、掛け紙と包装紙をそれぞれ仕入れていたところが包装紙だけでよくなったため、資材のコストダウンや紙資源の削減にもつながっています」
■自ら考え、実践させて“気づき”を与える指導方針
物流現場の仕事は流れ作業になりやすく、現状維持の風潮が強いことから、榮太樓總本鋪では「従業員の意識の底上げ」にも意欲的だ。「たとえば20分かかっていた作業を10分で終えるための改善案を考えさせるなど、自ら考え、実践させて“気づき”を与え、成功例を積み重ねていく。すると仕事にやりがいや誇りが生まれ、工場全体の士気も上がると考えています」と榎本課長。「物流2024年問題により、社会全体で物流効率化に向けて大きく動き出しました。社内で物流業務が脚光を浴びるようになり、今だからこそより積極的な取り組みができると考えています」。
また、榮太樓總本鋪では残業時間の短縮にも力を注いでいる。特に物流課では従業員の残業時間を毎日掲示して「残業時間の見える化」を行い、前年や前月と比較できるようにしているのだ。このシステムにより、取り扱う物量が増加しているにもかかわらず、残業時間は減少傾向にあるという。残業時間を見える化することにより、減少した残業時間が従業員一人ひとりの成果となり、「効率的に作業を進めよう」といった意識改革につながっているのだ。
■「ドライバーの待ち時間短縮」が課題
現状のトラックバース
榮太樓總本鋪の八王子工場において最も苦慮しているのは、ドライバーの荷待ち時間だそうだ。現在、積み降ろしのために駐車できるトラックバースが2台分しかない。そのため、たとえばダンボール業者が大量の梱包資材を運び込むと1台分のバースが一定時間占領され、もう一方のバースにトラックの行列ができてしまう。「運送会社ごとに曜日や時間帯を決めるなどの対策で分散できると理想的ですが、今は方法を模索中です。また、入ってきた荷物の数量確認や検品作業の間もドライバーを待たせてしまっているので、その点をしっかりと改善できればと考えています」と話す榎本課長は、さらなる物流課題の改善にむけ意欲を見せている。