更新日(事例掲載日):2024年10月31日

株式会社彦新

一般貨物自動車運送事業
所在地 東京都江戸川区一之江8-19-6 彦新ビル2F
代表者 彦田敬輔(代表取締役社長)
資本金 1,000万円
従業員数 42名
設立年 1953年
企業HP https://www.hikoshin.com/
代表取締役社長 彦田 敬輔 氏

代表取締役社長 彦田 敬輔 氏

1953年に設立した「株式会社彦新」。運送業や倉庫業を手がける中で、1963年には、運送業に特化した「彦新運輸株式会社」を設立。2017年には、両社が合併して「株式会社彦新」が誕生し、3代目である彦田敬輔氏が代表取締役社長となる。現在は運送事業を中心に、鉄製品、建築用資材、郵便物、航空貨物、紙製品などを取り扱っており、茨城県鹿島市と千葉県市川市に営業所を置く。

彦新のモットーは、「well-being(幸福の追求)」。とりわけ社員の「well-being」を実現するべく、健康重視の経営を推進。その一環として取り組んでいるのが「彦新DX健康運転サポート」で、事故防止とドライバーの健康意識を高める活動に尽力している。この取り組みは公益社団法人全日本トラック協会からも表彰され、社外からの評価も高い。また、国土交通省が推進する安全性優良企業に与えられる「Gマーク」を5年連続で取得している。

物流改善に向けた
取組み内容

■荷主との信頼関係構築と粘り強い交渉

荷主とのコミュニケーションを強化し、「安心感」を武器にさらなる発展へ

彦新には、20~30代といった若手のドライバーが多く在籍している。「これからメキメキと技術を磨き、この先何十年と活躍する彼らこそが彦新最大の武器です」と彦田氏は語る。その若手ドライバーに対し、彦新では積極的に荷主のもとへ行かせ、コミュニケーションをとるように指導。交流の積み重ねにより、荷主との信頼関係を築くことが円滑な業務に向けて重要であると考えている。「良好な人間関係を築くことによって本音での話し合いがしやすくなり、それが運送費アップや時間短縮の交渉成功につながっていると思います」と彦田氏。

ちなみに大手運送会社ではドライバーが担当する荷主の変更が頻繁に行われるが、彦新でそれはなく、荷主ごとにドライバーを固定している。「『いつものドライバーだから安心』といった不安のない運送を提供し、信頼される会社であり続けることが、成果を上げながら長く生き残る秘訣だと信じています」と語った。

交渉によりドライバーの負担を軽減

高速道路は、ドライバーにとって計り知れないメリットがある。走りやすい道路環境であることはもちろん、目的地までの所要時間も短縮される。つまり、ドライバーの負担が軽減され、労働環境の改善につながるのだ。とはいえ、かつて荷主側は「高速料金は企業努力で何とかして」といったスタンスだったため、以前の彦新では荷主に対して高速料金を請求しづらく、一般道を走るしかなかった。

さらに、高速道路の利用が必要となるような長距離輸送時において、これまでは燃料代が高く運送費が安いため、荷降ろしを終えたあとは新たな荷物を積んで戻ってこなければ割に合わなかったという。「『燃料代が稼げればいい』くらいの気持ちで半額ほどの運送費で帰りの荷物を引き受けていましたが、利益獲得への努力をするほど労働時間は増加。行きの荷物を降ろし、帰りの荷物を積み、その荷物の到着時間に合わせるために車の中で休憩しながら帰らなくてはならない。そんな状況がスタンダードだったのです」と彦田氏。

そんな中、トラックドライバーの労働条件の向上を図ることを目的として、ドライバーの拘束時間や休息期間、運転時間等の基準を定めた法律「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」が2024年4月に改正。「これにより、『ドライバーの運搬時間を削減する必要があるのでは』と考えてくださる荷主が増えました。そのタイミングを逃さず、彦新は半年ほどかけて荷主への交渉を重ね、往復の高速料金を運送費に上乗せすることに成功したのです」と彦田氏は語る。その結果、無理に帰りの荷物を引き受ける必要性もなくなり、ドライバーが決められた労働時間内にきちんと業務を終えることが可能になったという。

■運行記録などのDX化

遠隔点呼の様子

遠隔点呼の様子

運行記録をデジタル化し、手書きの手間をなくす

彦新は業務のDX化にも尽力し、取り組みのひとつとしてデジタル式の運行記録計を各トラックへ導入している。運行中の走行速度や運転時間、走行距離、休憩時間などが自動で記録され、その詳細な運行データがリアルタイムで管理者へ送られるシステムだ。「導入以前は運転日報を手書きで作成し、翌日に管理者が回収していましたが、その手間がすっかりなくなりました」と彦田氏。

とはいえ、彦新ではデジタルだけに頼らず従業員同士が直接確認し合う作業も引き続き行い、ミスを防ぐ努力を怠らない。トラックにはGPSが搭載されており、各ドライバーが荷降ろし先を間違えることのないように営業所にて確認を行っているほか、ドライバーと営業所の間で電話による確認作業も実施している。

遠隔で点呼ができるIT点呼システムを導入し、従業員の負担減へ

安全を確保する上で重要となる勤怠管理にも、彦新ならではの工夫が光る。長距離ドライバーの勤務時間は細かくチェック・管理する必要があり、乗車前の点呼とアルコールチェックも確実に行わなければならない。そこで、彦新では鹿島・市川両営業所での点呼作業を効率的かつ確実に行うことを目的として、遠隔にて点呼とアルコールチェックができる「IT点呼システム」を導入した。「かつて行っていた対面での点呼では、それぞれの営業所に管理者を配置したり、点呼のために各ドライバーが管理者のもとへ移動したりする必要がありました。このシステムを導入したことで管理者1名での遠隔点呼が可能となり、管理者においてもドライバーにおいても負担が大幅に軽減されていると感じています」と手ごたえを語った。

■ドライバーの年収アップや福利厚生の充実

多くの社員が懇親会に参加

多くの社員が懇親会に参加

利益を給与に還元&土日も休みやすい環境づくりで人材が定着

運送会社の中で、ドライバー不足に悩む企業は少なくない。そんな中、彦新では「長く働きたいと思う魅力ある会社づくり」を実践し、人材の定着に成功している。その大きな理由といえるのが、高速料金を荷主側の負担にしたことによってアップした利益をしっかりと従業員へ還元していることだ。彦田氏は「決算賞与できちんと還元することで従業員のモチベーションが上がり、人材定着につながっている。この1年ほどは退職者がおらず、逆に20代と30代が1人ずつ入社を控えている状態です」と語る。

人材の定着に成功しているそのほかの理由として、福利厚生における満足度の高さも挙げられる。彦新は年間365日、つまり毎日運送を行っている荷主に対し、日曜日と早朝・深夜の時間帯は運送を控えたいと相談。先述の法改正によって1日の拘束時間が「原則13時間以内」と定められたことなどを丁重に説明し、荷主の理解を得たという。「日曜日の労働を減らすことで従業員が週末に休みやすくなったほか、早朝・深夜といった不規則な時間帯の労働を削減して働きやすい環境を整えました。従業員からは『パートナーや子どもと過ごす時間が増えてうれしい』『家族に喜ばれている』といった声が多く挙がっています」と語った。

焼き肉やふぐ料理の食事会、家族参加の懇親会などイベントも積極的に

彦田氏は、従業員向けのイベント開催にも意欲的だ。たとえば焼き肉店やふぐ料理店などで定期的に食事会を開いており、時折開催される懇親会には家族で参加する従業員も多い。「彦新は鹿島アントラーズFCのビジネスクラブに加盟しているので、鹿島営業所の従業員とその家族を連れて試合観戦に行ったこともあります。これからもこうしたイベントを通じて従業員同士の交流を深め、社内一丸となって彦新を盛り上げていきたいですね」と彦田氏は語る。

■ドライバーの健康管理を徹底

全ドライバーがスマートウォッチを装着

全ドライバーがスマートウォッチを装着

スマートウォッチなどで健康運転をサポート

トラックドライバーの仕事は身体への負担が大きい。長時間同じ姿勢での運転や不規則な時間帯での労働による偏った食事などで、脳・心臓・血管系の病気のリスクが高いといわれているのだ。そのため、彦新では従業員の健康管理をサポートすることを最重要課題として掲げ、さまざまな取り組みを実施している。

なかでも力を入れているのが「彦新DX健康運転サポート」で、スマートウォッチによって心拍や睡眠などを「見える化」した。さらにスマホアプリや車載機と連動させ、ドライバーが自身の身体の状態と手軽に向き合えるシステムを構築。「このシステムを導入して以来、従業員の健康意識が非常に高まったと感じています。現在はSNSを利用し、データと動画によってより詳細に健康管理を行えるシステムへと改良を図っているところです」と新たな取り組みへの意欲ものぞかせた。