2025年12月9日更新
NEW ベジクル株式会社
| 所在地 | 東京都大田区平和島 6-1-1 TRC 物流ビルB棟 BE1-2 |
|---|---|
| 代表者 | 池田 将義(代表取締役) |
| 資本金 | 1,000万円 |
| 従業員数 | 130名(アルバイト含む) |
| 設立年 | 2009年 |
| 企業HP | https://www.vegekul.com/ |
累計約1万超の個人飲食店に向けて、青果の調達・仕分け・配送をワンストップで提供しているベジクル株式会社。同社の最大の強みは、徹底したDX推進にある。現場で培った経験をもとに、手作業・長時間化しがちな受発注・出荷準備業務のDXツールを独自で開発。さらに自社の効率化だけにとどまらず、DXツールを飲食店と卸売業者をつなぐサービス「ラクシーレ」へと改良することで、食材流通業界全体のDX推進を目指している。
アナログな受発注や膨大な深夜作業への疑問から、DXを徹底
食材流通業界全体のDX推進を目指す
ベジクルの源流は、代表取締役・池田氏の祖父が1947年に始めた業務用青果卸にある。3代目にあたる池田氏は家業を継ぎながら、2009年に新会社としてベジクルを立ち上げた。取締役の岩崎亘氏は、「池田は八百屋として働いていた経験から、食材卸業界の商慣習に疑問を抱いていました」と語る。その一つが、電話やFAXといったアナログな受発注や出荷作業への依存だ。野菜にはバーコードが付かず、大きさや形も一定ではないため、デジタル化との相性が悪い。さらに、池田氏は膨大な深夜作業が常態化していた点も問題視していた。飲食店からの注文は深夜に集中し、午前中までに商品を届ける必要がある。そのため、仕入れ・仕分け・配送を朝までに短時間でこなさなければならず、現場には大きな負担がかかっていた。
「農畜産物卸売業者の8割弱が中小・小規模事業者で、社長自身も日々の作業に追われています。そのため、効率化について考える余裕がなく、DXの取組は進んできませんでした」と岩崎氏は指摘する。
こうした状況の中、池田氏は「どうすればもっと楽になるか」を突き詰め、マーケティングとオペレーションの両面から変革を進めた。いち早くブログやSNSを活用して顧客を獲得しつつ、ITを駆使したオペレーションの効率化に踏み切ったのだ。
「特に注力したのが、受注から出荷準備までのDX化です。飲食店がスマートフォンなどから注文すると、受注システムに自動でデータが流れ、必要な商品や数量が即座に集計されます。また、倉庫では動線を一方向に統一し、重量のある商品から軽い商品へと順にピッキングできるレイアウトを構築。ピッキングリストもその順番に合わせて出力される仕組みを整えました。生産性は30%以上向上しています」と岩崎氏は説明する。
さらに、旧来の方法からスマホ発注への切り替えを促すため、同社は顧客1軒1軒にサービス導入のメリットを丁寧に伝えた。飲食店にとっては原価が安定することも大きな利点である。一般的に青果卸業界では日々価格が変動するため、発注段階では総額が不明なことが多い。しかし、ベジクルは過去の注文実績や相場をもとに、週単位や月単位で価格を固定する仕組みを導入。こうした取り組みの積み重ねにより、同社は業界でも異質な存在として成長を遂げていった。
コロナ禍で苦しむ同業他社を救うため、業務プロセスの請負ビジネスを開始
飲食店と卸売業者をつなぐ仕組み「ラクシーレ」
さらなる成長を目指していた矢先、ベジクルを襲ったのがコロナ禍だ。一時は売上が8割減にまで落ち込む中、なんとか事業を立て直した同社が周囲を見渡すと、未だに多くの同業者が苦境に陥っていた。
「同業他社を救いたい――その想いから、自社のノウハウを活用してサービス化できないかと考えました」と岩崎氏は振り返る。こうして、自社の効率化を目的に開発した仕組みは、「ラクシーレ」というサービスとして、同業の卸売業者とパートナーシップを構築し、飲食店と卸売業者をつなぐ仕組みへとアップデートされた。「ラクシーレ」は、飲食店の食材仕入れ業務を簡略化し、食材卸売業者の「顧客獲得」「受発注データ化」「仕分け効率化」「代金決済」といった一連の業務プロセスを丸ごと代行することで、飲食店と卸売業者をつなぐプラットフォームとなっている。
このビジネスモデルを構築する際に参考にしたのは、Amazonとラクスルの事例だという。岩崎氏は「Amazonも最初は本のECでしたが、ロングテールでユーザーを集め、その後は在庫を抱えずに出品者と共存するマーケットプレイスを作りました。また、ラクスルは印刷工場を束ね、空き稼働を活用しながら名刺やチラシ、ポスターの印刷を請け負っています。こうした仕組みを食材卸売にも応用できると考えました」と話す。
「『ラクシーレ』を通じて飲食店と卸売業者(=パートナー)をつなぐ際には、パートナーの配送網をデータ化し、既存の配送ルート上の飲食店を紹介することで、パートナーに無駄なコストを発生させないよう配慮しています」と岩崎氏は述べる。飲食店からは「ラクシーレ」を通じて発注されるため、FAX入力や手集計の作業はゼロ。必要数量も自動で集計され、仕入れ・仕分けのミスや作業負荷が大幅に軽減されているという。さらに、飲食店からパートナーに対しての売上回収も「ラクシーレ」で一括して行い、手数料を差し引いて卸売業者に送金する仕組みを導入。これにより複数の飲食店から代金を回収する手間がなくなり、業務が大幅に効率化されている。「現金で回収して回る卸売業者もいます。当社が代わりに一括請求・回収を行えば、コストは大幅に改善されます」と岩崎氏は説明する。
現在、パートナーとなる卸売業者は約50社。ベジクルが目指すのは青果卸にとどまらず、食材流通全体のDXだ。「今は青果だけでなく、肉や魚、酒、その他食品類を扱うパートナーを増やしています。当社が自前で肉や魚の卸業を立ち上げる道もありましたが、その選択肢は取りませんでした。既存の卸売業者と協業してプラットフォーム化したほうが、業界全体が良くなる――そう考えたのです」と岩崎氏は強調する。
卸売業者同士の共同調達や食材カテゴリを横断した物流支援を目指す
社内会議の様子
ベジクルのパーパスは「食材流通を豊かで魅力的な産業に」。だからこそ岩崎氏は「青果卸として大きくなろうとは思っていない」と断言する。効率化と収益性を両立できる仕組みをつくり、業界全体に広げる役割を担おうとしているのだ。
岩崎氏は、今後挑戦していきたい取り組みとして3つを挙げる。1つ目は、自社やパートナとの共同調達によるスケールメリットの創出。2つ目は、パートナー間でマッチングを行い、仕入れ条件の改善や余剰在庫の売買を可能にする仕組みの構築だ。「余剰在庫の売買は、原価削減やフードロスの解消につながります」と岩崎氏は明言する。3つ目は、食材カテゴリを横断した共同配送やラストマイルの代行だ。人手不足や燃料費の高騰など負担が増す中、「お客さんはいるのに運べない」という事態が現実に起きている。配送人員が確保できない、あるいは「どの卸売業者も受けられないエリア」が生まれるなど、物流のボトルネックが取引機会を奪っている状況だ。こうした課題に対し、「現在は配送をパートナーの卸売業者任せにしていますが、今後は彼らに代わって物流支援を行っていきたい」と岩崎氏は展望を語る。これが実現すれば、パートナーの物流コスト削減に加え、飲食店の利便性も向上するだろう。
「決して簡単なことではありません。ですが、実現すれば業界全体に大きなインパクトを与えられるでしょう」と岩崎氏は締めくくった。