2026年3月11日更新
NEW 株式会社シオザワ
| 所在地 | 東京都中央区湊 3−4−11 4030 ビル |
|---|---|
| 代表者 | 代表取締役 塩澤好久 |
| 従業員数 | 104名 |
| 設立年 | 1948年 |
| 企業HP | https://shiozawa.co.jp/ |
株式会社シオザワは、紙類の卸販売や販促ツールの企画・制作、機密文書の管理・リサイクルを手掛ける紙の専門商社だ。紙関連市場が縮小し、大きな転換点を迎える中、同社は内製化を軸としたDXに踏み切った。その取り組みは単なる省力化にとどまらず、業務品質の改善や、在庫や物流の可視化等を通じた顧客体験の向上にも繋がっている。
また、紙を使った文具ブランド「カミパネルラ」や御朱印の制作といった新規事業にも着手。卸売を軸にしながら事業の柱を広げ、業界全体の課題と真摯に向き合い続けている。
業務効率化から顧客体験向上へ──シオザワが進める“現場と顧客に寄り添うDX”
受注の自動化
紙の卸業界では、電話やFAXを前提とした業務が慣習として根強く残っている。シオザワの常務取締役・島名浩一氏は「紙を扱う事業者だからこそ、業界として結果的にデジタル化が遅れている面は否めませんでした」と語る。同社が効率化を模索する中で、DXの第一歩となったのが社内の経費精算だ。以前は紙の申請書で処理していたが、2023年頃から外部ツールを導入し、オンラインで完結できる仕組みに移行した。また、同システムのワークフローを活用した稟議決裁は、外出先などどこでもスマホで決裁ができることから、社内手続きが一段とスピードアップした。
続いて取り組んだのが、月2,000通にのぼる請求書の電子化である。金額や宛先の確認、封入、誤送付チェックなど、営業担当者に大きな負担がかかっていた作業を解消するため2024年10月グループ会社である株式会社イオシスの坂本光良氏と社内SEの2名が自社開発で電子請求書発行システムを稼働させた。坂本氏は「約1年かけてシステムを整備し、現在では全体の3分の2を電子送付に切り替えることに成功しました」と話す。
2021年5月に稼働した販売管理システム「SHUHARI-S」の修正作業が一段落したことも、自社開発に注力できるようになった要因として大きい。管理本部の米田安彦氏も「販売管理システムの稼働当初は苦労しました。販売管理データは決算にも影響します。在庫数値のズレなどのデータ不整合が見つかった場合は、原因を一つ一つ洗い出して修正してきました」と振り返る。また販売管理システムを主体とした基幹システムは営業担当者の「iPad」と接続することができ、テレワークの活用にもつながっている。
さらに、AI-OCRを活用した受注の自動化も進めた。FAXで届いた注文書をスキャンし、内容を自動で読み取って販売管理システムに入力する仕組みだ。最終チェックは人が行うものの、Excelなどで作成された注文書であれば高精度で読み取れる。坂本氏は「導入の背景には、同業他社との業務提携による受注増加を今の人数で乗り切らねばならないという切実な事情もありました。ただでさえ注文が集中する3月の繁忙期には、処理が追いつかず業務が止まってしまう恐れがあったのです」と語る。今ではAI-OCRがない受注は考えられないと現場が実感するほど定着した。また、紙類卸売業界では、顧客からの細かなサイズ指定に合わせて紙を加工・納品する必要があるが、AI-OCRを活用した受注により、細かい指定がある注文でもミスなく処理できるようになった。
同社のDXは、業務効率化にとどまらず、顧客体験の向上にも繋がっている。シオザワでは在庫情報や納期を1時間ごとに更新し、Web上で確認できる仕組みを構築。地方の顧客でも、東京・名古屋・関西などの在庫状況を即座に把握できる。さらに配送車両の位置情報をGPSで管理し、「今どの辺りにいるか」を案内できるようにしたことで、「在庫はあるか」「いつ届くか」といった問い合わせが減少した。小さな改善だが、顧客にとっての安心感は大きい。
「これらのシステム化の肝は、顧客側のやり方を変えなくてよい点です」と島名氏は強調する。他社とのシステム構築は時間やコストがかかるものだが、シオザワ側だけがシステム改修やサービスの導入を行っている。現場に寄り添い、顧客に負担をかけないDX――それこそが、シオザワの追求する効率化だ。
本業に依存しない持続的な経営へ。シオザワが描く4本柱の成長戦略
BtoC向け紙文具ブランド「カミパネルラ」
シオザワには、塩澤社長が掲げる「事業の柱を一つに依存しない。少なくとも4つの柱をつくる」という明確な方針がある。現在、同社の主な事業は、紙の卸、機密文書の管理・リサイクル、紙製品の企画・制作の3つだ。島名氏は「中でも明確な柱となっているのが、機密文書の溶解処理・リサイクルを中心とした環境配慮型事業です。重要機密文書のリサイクル事業を本格的に展開している企業は、国内でも3社ほどしかありません」と説明する。
現在、紙の廃棄方法の約9割はシュレッダー処理だが、細断された紙はリサイクルが難しく、多くが焼却処分となる。一方、溶解処理であれば紙資源として再利用が可能であり、環境意識の高まりとともに確かなニーズが生まれている。実際、機密文書管理事業は同社の収益を大きく支える存在となり、紙卸事業を下支えする役割も果たしている。
さらに同社では、「東京の木の紙」や「ストーンペーパー」など、環境配慮型素材の取り扱いを進めている。「東京の木の紙」は多摩地区の間伐材を活用した紙で、「東京の木を有効活用している」というストーリー性が評価され、名刺や紙ファイルなどのPR用途で好評だ。
紙の卸として長年培った知見を活かした紙製品の企画・制作も同社の強みである。その一例が神社・仏閣向けの御朱印だ。「御朱印は、紙選びからデザインまで一貫して自社で提案しています」と島名氏は話す。和紙やインクの特性を理解した上で、クライアントの嗜好や行事に合わせた提案ができるのは、紙を熟知した同社ならではだ。
もちろん、本業である紙の卸は今後も事業の中核であり続ける。ただし、紙のマーケット自体は縮小傾向にある。「紙の販売量だけに依存しない収益構造をつくる必要があります。そのために、紙を活用したBtoC向けの企画業務にも力を入れ始めています」と島名氏は語る。その象徴が、紙文具ブランド「カミパネルラ」だ。名画をモチーフにした紙製クリップや、紙の質感の違いを楽しめるノートなどは、日本最大級の文具の祭典である文具女子博でも高い反響を得た。
「カミパネルラは、もともと部署横断で集まった女性6人のチームから始まりました。経理、受注、営業など立場の異なるメンバーが参加し、研修的・趣味的な位置づけでスタートしたものです。立ち上げから約3年、まだ大きな利益を生む事業ではありませんが、紙に興味を持ってもらう入口として、そして次の事業の芽として育てている最中です」と島名氏は話す。
紙卸の未来を支えるために──慣行見直しと新たな連携の形
機密文書の管理・リサイクル事業
紙の卸業界は今、大きな転換期を迎えている。従来は「紙を安定的に供給すること」自体が価値だったが、市場の縮小、物流費の高騰、人手不足が重なり、これまの慣行だけでは立ち行かなくなってきた。業界全体の高齢化も進み、同業他社からの事業承継や連携の相談も増えているという。後継者不足に悩む紙卸は多く、シオザワはM&Aという形ではなく、紙の事業そのものを引き継ぐことで業界を支えていく可能性も視野に入れている。
紙卸業界全体の課題として、価格転嫁の難しさも大きい。紙卸業界の商慣行として、紙の卸売価格の中に物流費が含まれていることもあり、物流費は上昇しているものの、それを十分に価格へ反映できていないのが現状だ。毎日配送といった慣行を見直し、週2回に減らすなどの議論も進んでいるが、業界全体で合意形成を図るには時間を要する。
島名氏は「紙の卸だけをやっていたら厳しかったかもしれません」と率直に語る。事業の柱を一つに依存しないからこそ、雇用を維持できている側面があるという。「とはいえ、やはりうちの本業は紙の卸であり、紙を安定的に供給するのが一番の役割です。そのうえで、紙に何かしらの付加価値を付けることで利益を強化していき、新しい柱をつくり上げていきたいですね」と、島名氏は今後の展望を示した。