政策提言・要望

医療制度改革に関する意見

平成17年7月21日
東京商工会議所
日本商工会議所

 わが国の社会保障制度は経済成長とともにサービスの充実が図られたが、この30年間で社会保障給付総額の国民所得に占める割合は約4倍に拡大した。2004年度予算ベースの社会保障給付費総額は86兆円(国民所得比23.5%)と既に国の一般会計予算規模を上回る規模にまで拡大しており、現制度を維持すると、2025年の給付費総額は152兆円(国民所得比29%)と現在の1.8倍にまで急増し、中でも医療費の伸びは著しく毎年1兆円ずつ増加する見込みである。
 国と地方が750兆円もの債務を抱え、長期にわたる経済停滞に伴い、税収や保険料収入が伸び悩む中、何も改革を行わずに現状を放置すれば、社会保険料の引き上げや増税など国民や企業負担の上昇は不可避である。こうした公的負担増は厳しい国際競争の中にあるわが国企業の競争力の低下を招くとともに、新規雇用や個人消費等にも悪影響を及ぼし、経済社会の活力の低下に繋がりかねない。持続可能な社会保障制度構築には経済活力の維持・向上が不可欠であることから、国民と企業が納得して負担できる水準として、潜在的国民負担率は50%程度に止める必要がある。
 少子高齢化の急速な進展に伴い、社会保障制度の支え手となる若年者(現役世代)が減少し、給付対象となる高齢者が急増する中、従来のように質・量ともに過度な社会保障サービスを提供し続けることは困難である。従って、今後の社会保障制度は国民生活における必要最低限のナショナルミニマム保障と位置付け、低所得者には配慮しつつ、「個人の自助」を基本原則とした制度とすべきである。つまり、贅沢ではないが、真にサービスが必要な者に適切かつ適正なサービスが効率的に提供される社会保障制度を構築する必要がある。
 また、持続可能な制度の構築には国民の信頼が欠かせないが、これまでの社会保障制度改革は保険料や自己負担の引き上げなど安易に国民や企業に負担を強いる個別制度ごとのパッチワーク的な改革の繰り返しであったため、国民の制度への信頼は失墜している。政府は、国民や企業が納得する医療・介護・年金など社会保障制度全体のグランドデザインを早期に提示し、制度への信頼回復に全力を挙げる必要がある。そして、社会保障制度改革を進めるに当たっては、行財政・税制と一体的かつ総合的に改革を推進していくべきである。
 現在、平成18年度医療制度改革に向けて、社会保障審議会医療保険部会などで議論が進んでいるが、以上の社会保障改革の基本的なスタンスを踏まえ、次期医療制度改革に向けて下記のとおり意見する。

提言要望


I.望ましい医療制度改革について
 わが国の医療制度は1961年に国民皆保険が実現して以来、サービスの質・量ともに拡大し、2004年の国民医療費は32兆円(老人医療費は12兆円)と国民所得の約9%の規模に達している。特に老人医療費の伸びは著しく、何も改革を行わなければ、2025年には34兆円と現在の2.8倍にまで増加する見込みである。
 わが国医療制度の特色である「国民皆保険」と「社会保険方式」を堅持しつつ、制度の持続性を高めるためには、給付の削減・抑制を念頭に置いた医療制度の抜本的改革が急務である。そのため、将来の若年者の負担の軽減という観点から、給付抑制に向けた「目標値の設定」は不可欠である。
 また、急増が見込まれる老人医療については、一般医療とは完全に切り離した新たな制度の下で効率的な運営を行うとともに、若年者と高齢者間に生じている負担と給付における過度な世代間格差については、高齢者にも応分の負担を求めることで是正を図るべきである。
 今後公的保険として過度な医療サービスを提供していくことは困難であるが、国民が将来に向けて安心した生活を送るためにも、医療サービスが大きく低下することは避けなければならない。従って、行政・保険者・医療提供者・国民が一体となって、真にサービスが必要な者に適切かつ適正なサービスが効率的に提供されるシステムを構築する必要がある。
 
II.具体的な改革について
1.医療費の総額抑制
(名目成長率の伸び率の範囲内を目標)
 わが国の医療保険制度は国民の経済活動で支えられているため、医療費の伸びを日本の経済規模に沿ったものとし、過大・不必要な伸びを厳しく抑制していかない限り、持続可能で安定的な制度とはなり得ない。
 名目経済成長率を上回る伸びが想定されている医療費(特に、老人医療費)の急増に歯止めをかけ、国民や企業負担を抑制していかなければ、保険料引き上げや増税などによる企業の国際競争力低下や雇用などへの悪影響も生じかねない。従って、負担の上限を設定する総額抑制の目標値の導入は不可欠である。
 総額抑制の方法としては、医療と密接な関係にある介護保険も併せた目標値を設定し、その目標値は「名目経済成長率の伸び率の範囲内」とすべきである。
 また、給付費抑制は、医療の効率化(公的保険の守備範囲の見直しや予防対策の強化等を通じた医療費適正化、競争原理の導入など)により達成すべきであり、高齢者へのサービスの水準が大きく低下しないよう十分な配慮が必要である。
 目標達成が困難な場合は、従来のように自己負担割合や保険料の引き上げなど需要サイドのみ対応するのではなく、供給サイドにも応分の負担を求めるべきであり、スライド単価制(診療報酬単価の引下げ)なども検討する価値がある。
 
2.医療サービス及び提供体制の効率化
(1)地域の特色を生かした効率的な医療提供体制の構築
 医療サービスは、必要な時に誰もがサービスを受けることができるものでなければならず、そのためにも、都道府県は地域の実情に沿った医療計画を策定し、予防から治療までの住民のニーズに応じた多様なサービスを効率的に提供できる体制を構築する必要がある。
 しかし、財政的に過剰なサービスを提供していくことは困難であるため、各都道府県は医療計画の策定に当たっては、最も効率的な取り組みを実施している都道府県の水準を目標として努力する必要がある。
 「フリーアクセス」(患者は自由に医療機関を選び受診できる仕組み)を原則とするわが国では、かかりつけ医(診療所など)と大きな病院間との機能分担が不十分であり、患者が症状の如何に拘わらず高コストの大病院に集中する傾向がある。地域における効率的な医療提供体制を構築するため、医療機関の機能分担と医療機関相互の機能連携を積極的に推進し、各地域において、病院をその周辺のかかりつけ医が支える医療提供体制ピラミッドを構築し、相互が責任をもって役割を担い、適切な医療を効率的に提供できる環境を整備すべきである。また、医療従事者の資質の向上も図る必要がある。
 また、今後の地域医療において「予防」という観点が重要となる。患者自らが健康に対する強い自覚を持ち、積極的に生活習慣病予防などに取り組むことで医療費の増加に歯止めをかける効果が見込まれる。更に、地域において医療機関の機能分担と連携を促進し、社会的入院の是正、在宅医療の推進を図る必要がある。
 
(2)患者本位の医療の提供
2-1.医療に関する情報化の促進
 現在の医療制度改革の柱に「患者本位」の医療提供が挙げられているが、患者が自らの責任と合意の下に医療を適切に選択できる(インフォームドコンセント)仕組みを浸透させるため、医療提供側は責任を持って患者に対して情報提供の徹底を図らなければならない。
 その手段として、医療提供側は医療の標準化を図るとともに、電子カルテの導入やインターネット等を通じた患者への情報提供を徹底する必要がある。特に、DRG-PPS(診断群別定額支払方式)導入のためには、医療提供側のIT化の促進は不可欠である。
 また、患者側も医療提供側から提供された医療情報を積極的に入手するなど、医療への参加意識を高めることにより患者側の視点を通した医療機関の競争が促進され、医療サービスの費用対効果の向上が期待できる。
 
2-2.混合診療の全面解禁
 保険診療と保険外診療との組み合わせが自由となる混合診療を解禁することにより、患者の選択肢の多様化に繋がるとともに、先進医療の普及や医療技術水準の向上等への対応が可能となる。従って、混合診療は全面解禁すべきである。また、混合診療の解禁に当たっては安全性に配慮し、保険診療範囲については、医療費の適正化に繋がる方向で見直すべきである。
 
2-3.規制緩和による民間活力の有効活用
 患者の多様なニーズに対応するため、医療安全対策の確保を前提に株式会社による病院経営などの規制緩和や医療機関相互の競争を促進すべきである。「民間にできることは民間に任せる」という原則に則り、規制緩和や民間参入支援策を積極的に導入・推進することにより、経営の効率化や安価で多様なサービスが円滑に提供される仕組みづくりを促進する必要がある。
 
2-4.望ましい終末期医療に関する国民的コンセンサスの形成
「人生の終焉をどこでどういうかたちで迎えるか」という人間の死の迎え方についての意思を尊重することは正に人権の尊重である。自宅で安らかに死を迎えたいなどの個人の希望を尊重し、個人のみならず家族も望まない無用な延命措置は見直すべきと考える。このため、尊厳死を広く認知し、リビングウィル(患者が意思表示できなくなる前に患者の意思を明確に言語として残すこと)の法制化など望ましい終末期医療のあり方について国民的コンセンサスを形成することが必要である。
 
(3)医療費効率化への見直し
3-1.診療報酬の見直し
 診療報酬については、報酬点数そのものの見直しも重要であるが、医療費の適正化の観点から、コストを反映する体系の構築やDRG-PPS(診断群別定額支払方式)の導入、つまり、包括払い方式(定額方式)の原則化が必要である。
 また、将来の医療保険を支える人材確保の観点から、小児医療・小児救急医療については、診療報酬の見直しも含め各地域において計画的に拡充すべきである。
 
3-2.ジェネリック医薬品の普及・促進による薬剤費抑制
 薬剤費抑制策として、ジェネリック医薬品の普及・促進を進めるべきである。そのためには、医師のジェネリック処方に対するインセンティブの向上や患者の医薬品選択制度の確立などが必要である。また、ジェネリック医薬品の品質管理や製造・供給体制の拡充も図る必要がある。
 
3-3.医療と介護の連携促進
 介護を必要とする高齢者の急増に対応するため、患者のQOL(Quality of Lifeの略:生活の質)の向上を図る観点からも在宅医療を推進すべきである。そのためには、患者の病態に応じた医療と介護の両面からの支援が必要であることから、医療と介護の役割分担を明確化し、連携強化を推進する必要がある。
 
3.新たな高齢者医療制度のあり方
(1)基本的な考え方
 現行の老人保健制度は市町村が保険者になっているが、財源は各運営主体からの拠出金と公費で構成されており、制度全体の責任の所在が曖昧であるため、給付抑制インセンティブが働いていない。結果として、老人医療費の増加に歯止めがかからず、各保険者の保険財政を危機的状況に陥らせている。
 高齢化に伴い急増が見込まれる老人医療費を抑制するためには、老人保健制度と退職者医療制度を廃止し、責任ある運営体制の下、高齢者を対象とした新しい制度を一般医療制度から切り離した形で創設すべきである。
 
(2)高齢者医療制度のあり方
2-1.対象
 新たな高齢者医療制度の被給付権の対象となる高齢者の範囲は、現行の老人保健制度との継続性や高齢者の心身特性などを勘案し、75歳以上の高齢者を対象とする。
 なお、65歳から74歳までの前期高齢者については、医療費抑制の観点から現行と同じく一般医療制度(自己負担割合3割)に引き続き加入し、生活習慣病予防等を通じた健康維持・病状の改善に努めることとする。また、その財政調整については、国民健康保険と被用者保険(政管健保、組合健保等)の保険料のみならず公費も入れて対応すべきである。
 ただし、将来的には年金受給開始年齢など社会保障制度全体の整合性を鑑み、サービス受給者である新たな高齢者医療制度の対象年齢は検討すべきである。
 
2-2.保険者
 75歳以上の高齢者の多くを抱える国民健康保険は市町村単位の運営となっているが、市町村は介護保険の運営も兼ねており、厳しい財政状況に陥っている。財政の安定性やリスク分担の面からも、市町村が新制度の保険者として十分な機能を効率的に発揮していくことは困難である。従って、国民健康保険の保険者機能の広域化の方向性を勘案し、都道府県を保険者とすることが妥当である。
 
2-3.負担割合
 高齢者と若年者の過度な世代間格差の是正という観点から、低所得者には配慮しつつ、高齢者にも応分の負担を求め、以下の負担割合とすることが妥当である。
 
<高齢者の患者負担>
 高齢者患者の窓口負担を現行1割から2割(高額所得者は3割)とする。
 
<公費(税)>
 最低5割を負担する。
 
<高齢者保険料及び現役世代からの連帯保険料>
 高齢者の患者負担と公費を除いた残りの医療費を負担する。
   ※高齢者保険料と現役世代からの連帯保険料は人口構成等を踏まえ、上限を設けた上で
    設定すべき。
   ※徴収方法については、高齢者保険料は年金からの天引きとし、現役世代の連帯保険料
    は健康保険料とは区分するが、医療保険者が徴収し、納付する。
 
4.保険者機能の強化
 わが国の保険者は、ドイツなどの社会保険方式を採用する他国と比較すると、実質的には政府が役割を担っているため、保険者機能が発揮されない状況にある。保険者間の競争抑制的な規制の下では医療の効率化は図られ難く、保険者の責任と権限を明確化すべきである。
 現在、国民健康保険と政府管掌健康保険の保険者機能を強化するため、都道府県単位を軸とした再編・統合の議論が進んでいるが、受益と負担の明確化や地域の実情にあったサービスの提供や保険財政のリスク分散などを勘案すると、保険者が責任と権限をもって機能を発揮できる適正な規模として都道府県が妥当である。
 政府管掌健康保険については、国が保険者として全国をカバーしており、給付費抑制のインセンティブが働き難く、保険者機能が十分機能していない。そのため、都道府県単位に保険者を分割すると、地域の実情に応じたサービスの提供が可能となり、自主性・自立性のある運営が期待される。また、保険者間に競争原理が導入されることで医療費の効率化、適正化も図られる。
 しかし、今まで一律であった保険料が都道府県単位となることで、各保険者間で保険料率に差が生じ、保険料が引き上げられる地域の収納率の悪化などの問題が懸念される。そのため、保険料率の設定に当たっては、各県の所得水準や年齢などを勘案し、各県の住民や被保険者である企業を代表する商工会議所等の意見を十分に踏まえた上で決定すべきである。
 また、現在、医療保険料の徴収率は低下傾向にあるが、各保険者は保険料徴収の徹底を図る必要がある。そのためにも、現在、税と社会保険料に分かれている徴収体制は一元化すべきである。

以上

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