政策提言・要望

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東京の交通渋滞対策に関する提言~活力ある東京の実現に向けて~

平成11年5月13日
東京商工会議所

 東京はこれまで政治・経済・文化をはじめ多様な機能を発揮し、わが国の首都としてのみならず、国際都市、とりわけアジアの中心的都市として大きな役割を果たしてきた。その一方で、集積の弊害として、通勤・通学の混雑、木造住宅密集地域等の防災問題、交通渋滞、ゴミ問題、航空需要に対応した空港整備など、様々な問題を抱えている。
東京は、今日までわが国全体の成長に大きく貢献し、そして今後ともわが国を牽引していかなければならない。こうした観点からすると東京の発展は、今後のわが国の発展の成否を決めるカギとなっている。

そこで、東京が国際競争力を維持し活力ある経済活動を実現していくためには、上記のような東京の抱える都市問題を解決していかなければならない。

とりわけ、東京の交通渋滞は、都区部の車の平均時速が全国平均の34kmに対し、半分以下の時速15kmであることにみられるように慢性的で、依然として改善されていない。この交通渋滞は、道路整備事業・立体交差事業の大幅な遅れや違法駐車などによってもたらされており、その結果、窒素酸化物などの大気汚染物質や地球温暖化の主な原因である二酸化炭素の排出、年間約4兆9千億円にも達するといわれている経済的損失など、市民生活や経済活動に極めて深刻な影響を与えている。
東京における交通渋滞の解消は、安心して暮らせる東京、活力ある経済活動を営める東京を実現していくためには、避けて通れない喫緊の課題である。もとより、この渋滞解消にあたっては、行政、都民、事業者が一体となった取り組みが必要であるが、東京都においては、道路整備等の供給面と交通需要施策等の需要面に着目し、平成11年度にTDM(交通需要マネジメント)東京行動プランを策定することとなっている。
交通渋滞対策は、道路整備等に加えて、需要面での対策も重要である。そこで、東京商工会議所は、道路交通を利用している事業者の立場から東京の交通渋滞対策についてハード面、ソフト面の両面から下記の通り提言する。



1. ハード面からの渋滞対策

ハード面では、次の施策を推進し、道路交通容量の拡大を図っていくべきである。

(1) 道路整備の推進

都区部の道路率は、ニューヨーク市の30%、パリ市の25%等と比べて15%と低く、東京の都市としての社会資本整備は大きく遅れている。現在の東京の道路は、都市計画決定されたうちの約50%の整備しか完了していない。ネットワーク形成に欠かせない環状2号、5号、6号、8号等の環状方向、さらに晴海通りの延伸等の放射方向の道路を早期に整備すべきである。また、都心通過交通の回避を図る上から高速道路の東京外かく環状道路、中央環状線、首都圏中央連絡自動車道の早期完成が重要である。

(2) 立体交差事業の推進

平成9年に整備が完了した杉並区井荻地区立体交差事業は、年間で約200億円の整備効果があると試算されている。道路交通の遮断を取り除き渋滞解消を図るため、京浜急行本線・空港線、京成押上線、小田急小田原線など渋滞のボトルネックとなっている箇所を優先して立体交差化の推進を図っていくべきである。

(3) ターミナル物流拠点の整備

東京都内の貨物輸送の約9割が自動車によって行われているが、無駄のない効率的な物流配送を実現することにより、道路交通渋滞の緩和を図っていくことが必要である。そのためには、新幹線などの鉄道や車による陸運、船舶による海運、航空機による空運の三者が有機的に連携したターミナル物流拠点を整備することが重要である。

(4) 公共交通機関相互の乗換え利便性の改善

東京には、明治以来130余年にわたって資本が投下され、道路、鉄道、地下鉄、空港などかなりの社会資本が蓄積されている。交通渋滞解消の側面からも、また効率的な都市活動を支える視点からも、こうしたあらゆる公共交通機関を効率的に利用できるようにすることが重要である。そのためには乗用車、バス、鉄道、地下鉄等、交通機関相互の乗換え利便性の向上を図るとともに、それぞれの地域で、利用者ニーズに則した比較的狭い範囲の地域内バス路線を整備していくことが急務である。

2. ソフト面からの渋滞対策

ソフト面からの渋滞対策については、次の施策を推進し、効率的な都市活動が営める環境を整えることが必要である。

(1) 交通情報通信システムの推進

自宅や職場、車や電車の中など都市活動のあらゆる場面において、渋滞情報を含む交通情報が適宜、的確に把握でき、最も効率的な交通手段を選択できる仕組みを整備することは、活力ある経済活動や都市生活を営む上で極めて重要である。そのため、高度道路交通システム(ITS)や新交通管理システム(UTMS)など交通情報通信システムを積極的に推し進めるとともに、その実現のため国等は十分な予算措置を行うべきである。

(2) 物流の効率化

物流を含む業務交通の占める割合が高い東京では、物流の効率化による渋滞対策が重要であり、物流の共同化は積極的に進めるべきである。同時にこの推進を図るため、補助制度や関係施策の一層の拡充が不可欠である。また、路上における荷捌きスペースを極力確保するよう誘導する必要がある。

(3) 違法駐車対策

駅前や交差点周辺において、道路交通を阻害する迷惑駐車は、交通渋滞を招く大きな原因となっている。こうした迷惑駐車による渋滞を解消するため、交通の大きな障害になる箇所を中心に違法駐車の取締りを強化するべきである。

(4) 道路機能の高度化

道路を有効に活用し、ボトルネックになっている渋滞箇所の改善に早急に取り組むべきである。特に、交差点を改良し、交通の円滑化を図る交差点すいすいプランによる右折専用レーンに加え、左折専用レーンの設置や時間帯別の車線数の変更など積極的に推進していくべきである。

3. 渋滞対策の実現に向けて

これまで述べてきた渋滞対策を実現するためには、いくつかの課題を前もって解決していかなければならない。

第一に、前述したように道路整備をはじめとする東京の社会資本整備は依然遅れている。わが国の発展を導く東京への社会資本整備は、投資効率が極めて高く是非とも進めていくべきである。しかしながら、東京都民の支払い納税額に対する国税の還元率は、国民1人当たり全国平均での60%超に対し、東京は7%弱に過ぎない。そこで、東京への租税還元率を高めるなど、東京の社会資本整備のための財源を確保することが極めて重要である。

第二に、道路交通渋滞がもたらすマイナス面、すなわち、大気汚染、地球温暖化、経済的損失などが市民生活や経済活動にいかに深刻な影響を及ぼしているかについて、都民各層がまずもって理解することが是非とも必要である。東京都をはじめ、行政におかれては、このための啓発・普及活動を展開すべきである。

第三に、道路管理者と交通管理者が異なることや、道路が他の自治体にまたがることが渋滞対策を実施する上で障害となっていることがある。機動性のある渋滞対策を実行していくためには、広域的かつ横断的な交通施策を実施していくことが重要である。 地域総合経済団体である東京商工会議所においても、会員である事業者に対し、事業者としてなすべき渋滞対策について啓発活動を進めていかなければならない。

昨今、大都市のリノベーションが国土審議会や経済戦略会議等で大きなテーマとなっているが、渋滞対策に伴う道路整備等を契機として、東京の再開発を進め、生活者にやさしいまち、美しいまち、そして活力ある東京の実現を望むところである。


(参考)

重点的に取り組むべき事業および箇所

1. 道路整備

環状2号・5号・6号・8号、晴海通り延伸
東京外郭環状道路(外環)、中央環状線、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)

2. 立体交差事業

京浜急行本線・空港線(多摩堤~平和島)
京成押上線(押上~青砥駅)
小田急小田原線(梅ヶ丘~喜多見駅)
西武池袋線(江古田~石神井公園)

3. 道路渋滞箇所(渋滞の長さ)~ワースト10~

都市計画道路名 交差点名 交差道路名
①放射7号線 豊玉北六丁目 環状7号線
②放射15号線 小松川4丁目 補助120号線
③国道411号 丹木3丁目 都道166線
④放射13号線 四つ木橋南 補助120号線
⑤放射11号線 田端新町1丁目 環状5の2号線
⑥環状7号線 スポーツセンター前 補助141号線
⑦環状8号線 瀬田 国道246号
⑧国道16号 東名入口 東名高速
⑨新青梅街道 北原交差点 武蔵境通り
⑩放射7号線 南長崎1丁目 環状6号線