政策提言・要望

労働政策に関する要望

平成15年7月10日
東京商工会議所

(経済再生と企業経営の安定による雇用回復)
長期にわたるデフレ経済のもと企業収益は依然として悪化傾向にある。このため自営業や中小・零細企業を中心に倒産・廃業が続き、多くの雇用が失われている。また、失業率は5%台の高水準を続けており、国民の生活不安が増大している。経済や生活の確たる見通しがないなか国民・企業は経済不振からの早期脱却を強く求めている。政府はまず財政出動など大胆な政策転換を行い、デフレ克服と経済再生を最優先させるべきである。中小企業など企業の経営基盤を早期に安定させ、雇用の回復をはかることが強く求められる。
(企業活力の強化に資する労働法制の見直し)
経済のグローバル化による市場競争の激化など経営環境が厳しくなるなかで、わが国企業の競争力の維持・強化が最重要課題である。企業は成果主義的な人事・賃金改革や総人件費の適正管理により、国際市場で競争可能な労働生産性の確保に取り組んでいる。労働政策においては裁量労働制の適用拡大など、企業活力の強化に資する労働法制の見直しを進めるべきである。また、「労働条件の不利益変更」に関しても企業の厳しい経営実態を踏まえた柔軟な対応について労働組合等関係方面の十分な理解・協力が求められる。
(若年就業対策の拡充と多様な働き方の整備・拡大)
増加する若年層の高失業・長期不安定就業は将来のわが国経済を担う人材の安定的な育成・確保に支障を来たす惧れが大きい。若年就業対策と学校教育や職業能力開発との連携、政労使一体となった問題解決への取り組みが求められる。また、雇用の流動化に対応するため、民間の人材ビジネスを有効活用した高機能型の労働市場の整備を進める必要がある。一方、労働者の就業意識の多様化も踏まえ、企業が求める柔軟な雇用ポートフォリオに対応できる多様な働き方(派遣労働や有期雇用等)を広げ、雇用の拡大をはかるべきである。
なお、短時間労働者への社会保険の適用拡大は、企業経営を大きく圧迫し、結果として雇用を縮小させる。社会保障財源や税制を含めた検討が必要であり、社会保険の安易な適用拡大は行うべきではない。
以上の認識のもと、今後の労働政策のあり方について以下のとおり要望する。

要望



1 企業の労働生産性向上と労働法制の柔軟な見直し
(1) 「労使自治」の基本に立つ労働法制
労働基準法は最低の労働条件を定め、これを下回る労使の条件決定を画一的に無効とする。しかし、法制定当時から産業構造の転換が進み、知識労働へのシフトなど労働者の働き方も大きく変化している。労働時間等の規制が現在の労働者の働き方の実態と齟齬を来たし、円滑な企業活動を阻害している。労働条件の決定は、産業や職務の特殊性、個別企業の事情等に応じて、個々の企業の労使が主体的に決定する「労使自治」が基本である。労働者の多様化や就業形態の変化等を踏まえ、労基法で強行的・画一的に規制すべき労働条件の範囲等の見直しを行い、より柔軟な法制とすることが強く求められる。
(注1) 東商の「労働政策に関するアンケート調査」(5月実施、以下「調査」)によれば、企業の80.3%が「労働基準法の柔軟な見直しが必要」としている。

(2) 裁量労働制の見直しと労働時間等の適用除外の拡大
ホワイトカラーの活性化が企業共通の課題であり、「企画業務型」裁量労働制への関心は高まっている。しかし現実には導入・運営の規制が多く活用は殆ど進んでいない。まず「労使協定」による導入を認めるとともに、「企画・立案・調査・分析」に限定されている対象業務を「非定型業務」に拡大し、企業の労使に導入の判断を委ねるべきである。
また、現行では裁量労働制の適用効果は「みなし労働時間」とされている。しかし、成果主義の人事管理が主体となっている労働者層については労働時間の長さを尺度とした賃金決定になじまないことや、業務の遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねるという裁量労働制本来の趣旨から、米国のホワイトカラー・イグゼンプション制と同様、労働時間等の規制の適用除外(法第41条)とすべきである。
(注2)「調査」では、企画業務型裁量労働制の導入について、「既に導入済み」(8.6%)、「導入を検討中」(11.2%)、「導入を検討する予定」(33.9%)、合計53.7%と半数以上の企業が関心を持っている。
(注3)「調査」では、ホワイトカラーへの裁量労働制の適用範囲について、「大幅に拡大すべき」(26.6%)、「徐々に拡大していくべき」(56.6%)と、合計83.3%が適用拡大を求めている。

(3) 中小・零細企業に配慮した「解雇の金銭解決制度」
解雇無効の際に従来の「労働者の原職復帰」でなく、労使双方からの申し立てを受けて使用者の「一定の金銭の支払い」による「裁判上の雇用契約の終了」が制度化される方向である。長期雇用慣行の見直しや外部労働市場の整備等の環境変化を踏まえ、解雇の金銭解決について柔軟な枠組みが不可欠である。使用者からの申立てについては過度な制約を課すべきではなく、また使用者が支払うべき金銭の水準の設定にあたっては、特に中小・零細企業が置かれた厳しい経営実態や支払い能力を十分に踏まえた検討が必要である。

(4) 企業の賃金支払い能力に即した最低賃金
昨年、中央最低賃金審議会がデフレ経済のもと企業の賃金支払い能力や労働者の生活費用の動向等を相当程度考慮し、史上初めて「ゼロ目安」としたことは評価すべきである。今後景気がさらに悪化する状況に際しては、企業の収益動向等を十分に踏まえ、「最低賃金の引き下げ」について本格的な検討を行うべきである。
また、「地域別最低賃金」が定着している現在、「産業別最低賃金」はこれに屋上屋を架すもので絶対に廃止すべきである。仮に廃止に向けた経過措置が必要であれば、産業別最賃については「凍結ないし引き下げ」を行うべきである。

(5) 職場の健康確保充実に向けた産業医制度の見直し
過重労働による健康障害防止対策など、近年の労働衛生行政において労働者の健康確保をはかるうえで産業医の役割・責任が増している。しかし、一般診療との兼ね合い等で必ずしも産業医活動が十分に確保されず、契約が形骸化している例も少なくない。産業医だけに依存するのでなく、労働者の日常の健康相談や職場の健康教育等は企業が「保健師」に依頼できるよう制度の柔軟な見直しを行い実効性を確保すべきである。

2 中小企業の保険料負担とパート雇用維持に配慮した年金問題への対応等  
(6) 厚生年金の短時間労働者への安易な適用拡大は行うべきでない
来年の公的年金改革に関連して厚生年金の短時間労働者への適用拡大が検討されている。パートタイム労働者を多数抱える産業・企業においては、労使折半の年金保険料負担が大幅に増加することとなり、また、手取り収入の減少は労働者自身からも歓迎されない。
産業構造転換のなか製造業に替わって雇用の拡大と安定に貢献してきたのが中小企業を主体とする流通・サービス産業である。保険料の負担増は中小企業経営を大きく圧迫し、多くが労務倒産の危殆に瀕する懸念があり、結果として雇用も失われることになる。
年金不信による「国民年金の空洞化」に歯止めがかからない状況下で、徴収コストの低い厚生年金を安易に拡大させることには問題がある。基礎年金の財源や税制のあり方等も含めた総合的な検討が行われるべきで、単に年金の支え手を増やすための厚生年金の適用拡大を認めることはできない。
(注4)「調査」では、仮に短時間労働者への社会保険の適用が拡大された場合、短時間労働者について「雇用と賃金の双方を調整する」(39.5%)、「雇用を調整する」(19.1%)、「賃金を調整する」(18.1%)と、合計76.7%の企業が雇用または賃金を調整するとしている。

(7) 育児・介護休業見直しへの慎重対応、「大都市型保育所」の制度化
育児・介護休業制度を拡充する方向で法制の見直し作業が始められつつある。現行法のもと企業も可能な限り社内制度の充実に取り組んでおり、これ以上の負担を強いることは雇用等への影響も懸念される。現今の厳しい経済情勢や中小企業の実態を踏まえた慎重な対応が強く求められる。一方、大都市部では認可保育所だけでは待機児童問題を解消できず、「ゼロ歳児保育」や「延長保育」など利用者の多様なニーズにも対応できていない。東京都の「認証保育所」を「大都市型保育所」として制度化し補助金等を拡充して、民間の創意を活かした保育サービスの充実をはかるべきである。

(8) 中小企業が利用しやすい企業年金制度の拡充
公的年金のスリム化が必至となるなかで、企業年金について特に中小企業にとって利用しやすい制度とし、広く労働者の退職後の生活安定を期する必要がある。このため、年金資産にかかる特別法人税(凍結中)の廃止のほか、確定拠出年金の見直し(拠出限度額の引き上げ、マッチング拠出・中途引き出しの制度化等)を早めるとともに、「適年」移行先として「特退共」を加え企業の選択肢を増やすべきである。また、特に財政難と追加拠出の負担増に苦しむ中小企業の「総合型」厚生年金基金について免除保険料率の見直し、円滑な代行返上や基金解散のための特段の政策支援が強く求められる。

3 若年就業対策と職業能力開発施策の連携・強化 
(9) 若年層の就業対策の強化と「地域キャリア・センター」の早期具体化
若年層の高失業率やフリーターの増加は、わが国の将来の活力ある経済社会・企業活動を担う人材を安定的に確保する基盤を毀損ししつある。「若年トライアル雇用(試行就業)」を拡大するとともに、まだ知名度・活用とも十分でない「紹介予定派遣」の普及・定着に努めるべきである。また、日商と経団連が先に共同提案した「地域キャリア・センター」(仮称)を早期に具体化し、広く民間人材ビジネスの参画のもと、若年層向けのコンサルティング・能力開発・職業紹介等を一連プログラムとして実施する必要がある。

(10) 職業意識の涵養と協力企業への政策助成
若年層の職業意識の涵養について学校教育の責任は大きく、今後も職業教育に関し特段の取り組みが強く求められる。一方、就学中に企業での就業体験等の機会を増やすことも重要で、産業界の協力が欠かせない。「インターンシップ」や「デュアル・システム」(企業実習を組み合わせた技術・技能教育)への期待は大きいが、これに協力する企業にも相当の配慮が必要である。実施にあたっては受入れ企業の負担に対する助成金等の政策支援の拡充や企業側からの要望・意見等を反映させる仕組みが重要である。

(11)「職業能力開発支援税制」の創設
雇用の流動化が進むなか職業能力開発も「企業主導型」でなく、労働者個々人が自らの意思と責任でエンプロイアビリティ(雇用される能力)の向上に努めることが求められる。現行税制では「職務に直接必要な」職業能力開発のために支出した費用について「特定支出控除」の制度があるが、内容的に不充分で実際の利用もきわめて限定的である。個人がキャリア形成のため職業能力開発を行った場合は、雇用保険の教育訓練給付に替えて、その費用について一部税額控除できる税制上の優遇措置を創設すべきである。

4 本格的な雇用流動化に対応した労働市場の機能強化 
(12) ハローワーク事業の民間委託推進
産業構造の転換による大規模な労働移動が必至であり、本格的な雇用の流動化に対応できる労働市場の機能強化が重要な課題である。能力・適性等が多種多様なホワイトカラーの人材移動に関して、民間の人材関連ビジネスはすでに多くのノウハウを蓄積しており、特に大都市部においてその機能を有効に発揮させることが必要である。
ハローワーク事業について人材関連ビジネス(人材の能力評価、キャリアコンサルティング、技能・技術研修、職業紹介、労働者派遣等)への委託(成功報酬制を含め)を積極的に進め、民間の創意を活かした効率的な人材移動システムを構築すべきである。

(13) 労働者派遣の規制緩和による雇用拡大
企業が柔軟な雇用戦略を展開するうえで、労働者の多様な就業ニーズにも適う労働者派遣への期待は高い。今回の法改正後も残る不合理な規制を撤廃し、企業の雇用拡大を期すことが重要である。特に「物の製造」業務に限り当面上限が1年に限定されているが、他の業務と区別する合理的理由はなく直ちに3年に延長すべきであり、「医療」(一部は解禁済)、「警備」、「建設」も原則対象業務に加えるべきである。また、派遣労働者からも撤廃要望の強い「労働者の特定行為の禁止」について早急な見直しを行い、無用なミスマッチを回避する必要がある。

(14)「雇用保険三事業」の抜本的見直し
雇用保険財政の悪化が著しく、保険料率について2年間の据え置きの後引き上げられることとされているが、制度の抜本改革なしに国民と企業に負担のみ押し付けることは到底許されない。特に「雇用保険三事業」(全額事業主負担)は勤労者福祉施設の譲渡問題に見るように、事業運営に関する適正なガバナンスを欠いている。本来なら保険料率引き下げを求めるべきところ、まず事業の計画から予算・実績、政策評価等の情報開示を行うとともに、各種助成金の合理化・重点化、取扱い機関の統合による事業の効率的運営が不可欠である。また、今後新たに発生する政策需要には国庫負担での対応も視野に入れるべきである。
(注5)「調査」では、雇用保険三事業の見直しで重要なのは、多い順に「労働行政関係団体の整理・統合」(58.2%)、「助成金事業の整理・統合・重点化」(49.0%)、「窓口の一元化・手続きの合理化」(41.8%)(複数回答)。

(15) 企業の高齢者・障害者雇用への政策支援の拡充
公的年金支給開始年齢の引き上げやノーマライゼーションの考え方の浸透を背景として高齢者や障害者の雇用拡大が企業への社会的要請になっている。高齢者や障害者に適した職域の開発など、より積極的な取り組みが求められるが、長引く経済不振のもと企業の経営環境は厳しい。短兵急に達成数値等の結果を求めるのでなく、企業側の理解を広め継続的な雇用拡大につなげていく必要がある。高齢者・障害者雇用の関係助成金やトライアル雇用のさらなる拡充・普及、中小企業等の先進事例の周知などに重点を置くべきである。

(16) 外国人労働者受け入れ問題についての早期検討着手
外国人労働者については、現在政府は専門的・技術的分野の労働者のみを積極的に受け入れる方針である。しかし、少子高齢化の進展により将来の労働力人口が不足することが確実視されている。わが国経済社会と企業の活力を維持する観点から、今後の外国人労働者の受け入れに関する検討に早期に着手する必要がある。非熟練・単純労働者に関しても就労期間の制限や「労働許可制」による厳格管理、不法行為を犯す可能性の高い者を事前に排除する仕組みなど、より具体的な検討を進めるべきである。将来の外国人受け入れにともなう国民生活への影響や社会的コスト増等の問題も含めた国民レベルの広範な議論を促す必要がある。

以上

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