商品開発・販路開拓のポイント
- ● 自社ブランドを持ち、特定の取引先に依存しない少量多品種の商品を展開
- ● 付加価値の高いコラボ商品を増やし、コラボ先の直営店やさまざまなお土産店など、販路チャネルを拡大
本社: 〒111-0031東京都台東区千束2-6-8
代表者名: 代表取締役社長 木村 秀雄 氏
創業: 1924年
資本金: 4,800万円
従業員数: 約90名
事業内容: 米菓の製造販売、関連する業務
商品開発・販路開拓のポイント
──2024年に創業100周年を迎えたと聞きました。
木村社長 関東大震災の翌年、祖父が新潟から上京して「米に縁がある商売なら、食いっぱぐれはねえだろう」という動機で創業しました。それを考えると、よく今日まで続けてこられましたね(笑)。実際は、米菓業界の中で、私たち中小の米菓メーカーは常に厳しい状況に立たされてきましたから。
せんべい、あられ、おかきなどの米菓市場規模は、出荷金額ベースで2,832億円(2021年度実績/全日本菓子協会推計値)。そのうちの約7割を新潟県の大手メーカーが占める寡占市場です。彼らは生産体制や流通の面で力が強く、コンビニの棚を見てもほとんど新潟のメーカーが占めています。そんな状況で、多くの中小の米菓メーカーが次々に廃業していきました。
──大手による寡占市場の中にあって、なぜ100年も会社経営を続けてこられたのでしょうか?
木村社長 さまざまな失敗を経験し、それを教訓としていったからだと思います。例えば、その一つに、大手と同じようにマスマーケットを取りに行く戦略は、我々のような規模の企業には非常にリスクが高いということがあります。
過去、当社もコンビニチェーンから大量発注をいただき、一時は大きな売上がありました。勢いに乗じて生産キャパを増やそうと設備投資したのですが、売れ行きが悪くなると商品がすぐ棚から外されてしまう。設備投資が一気にムダになってしまいました。
また、特定の取引先に依存するリスクも学びました。OEM生産を請け負っていた菓子メーカーが経営不振に陥ったり、お茶漬け用のあられを納品していた食品メーカーが仕入れ先を台湾やタイに切り替えるなど、月に数千万円の売り上げが一瞬にして消えてしまった経験もしています。
こういった失敗から生み出した戦略は、大手が優位性を持つマスマーケットではないところで、かつ大手では真似のできない付加価値の高い商品づくりをすること。そのためには、特定の取引先に依存しない少量多品種の商品展開が重要だと考えました。特にOEMや下請けでなく、自社の裁量で計画できる自社ブランドを持つことの重要性を痛感しました。
──付加価値の高い商品は、どのような発想で開発したのでしょうか?
木村社長 いろいろ取り組んだのですが、まず私が活路を見出したのは他社とのコラボです。おかきやあられなどの米菓は、基本的にはお米に合う食材と相性がよく、コラボに適しています。中でも当社がこだわっている国産もち米のおいしさを引き出せる食材と組むことで、さまざまなコラボ商品が開発できると考えました。
そこで生まれたのが、福岡県の明太子メーカー「やまや」とのコラボ商品「めんたいおかき」です。2010年に発売して以来、ロングセラーとして高い人気があります。
高知県の食品メーカーとは、高知県土佐清水市産の「宗田節」のパウダーを生地に練り込んで焼き上げた「だしが良くでる宗田節おかき」を開発しました。こちらも2015年に「高知家 土産物コンクール」で大賞を受賞するなど高知土産の定番になっています。
東京でもコラボ商品を開発しています。地元の浅草で、外国人観光客が増えてきたコロナ前の時期に、新しい浅草みやげをつくろうと、すき焼きの名店「浅草今半」とコラボで開発したのが「すき焼おかき」です。
当社と同じく100年の歴史を持つ北区滝野川の「トキハソース」とは、同社の看板商品である生ソースを活用した「生ソースおかき」を共同開発しました。
こうしたコラボ商品を増やしていった結果、やまやの直営店やECサイト、高知や東京の土産物店など、販路のチャネルを広げることができました。
──多岐にわたるコラボ商品を生み出す秘訣は、何ですか?
木村社長 展示会などでさまざまなメーカーの方とお話をすると、「この商品と組み合わせると面白そうだな」とイメージが膨らみます。会話の中から偶然アイデアが生まれることもありますね。
それでも、思いつきだけで生まれたコラボ商品は、一見斬新そうに見えてもだいたい長続きしません。お客さまに受け入れられるには、やはり味や品質、そしておいしいと高品質を実現するための手間が重要です。
「めんたいおかき」も、やまやの研究部門の方に何度も当社の工場に来ていただき、味のすり合わせをしながら明太子の風味を再現しました。
また、大手メーカーの多くが使用している人工的なうま味調味料やアミノ酸を当社はなるべく使用せず、本来の米のうまみが生きる味つけにこだわることで差別化を図っています。
一方で、味にこだわりすぎるとコストが見合わなくなるし、生産ラインに無理があると現場に負荷がかかって長続きしません。身の丈をふまえながら総合的にバランスをとることが大事ですね。
──コラボ商品をつくったことで、何か影響はありましたか?
木村社長 やまやをはじめ、商品開発の際は提携先のメーカーが当社の設備や衛生面をチェックします。時には厳しい指摘を受けますが、それが結果として品質などの改善につながり、従業員に対する教育面でも大きな副次的効果になっています。自社だけでものづくりをしていたら、そこまで厳しい目線は得られなかったでしょうね。
そういった品質面への意識が高まったこともあり、2016年には米菓メーカーとしてははじめて「東京都食品衛生自主管理認証制度(HACCP)」のマイスター資格を取得しました。確実に安全で安心な商品を提供できるよう、生ものや乳製品にも決して劣らない製造現場の管理に取り組んでいます。
──コラボの他に、付加価値の高い商品は何か開発されましたか?
木村社長 ここ浅草でもムスリム圏の外国人観光客が増えてきたことを受け、国産米菓では初のハラル認証のおかきを開発しました。また、動物由来の食材を使わない日本ベジタリアン協会の認証を取得した商品や、小麦などに含まれるたんぱく質「グルテン」を含まないグルテンフリーの商品など、食のニーズの多様化に対応した商品も開発しています。
醤油一つとっても、ハラルはアルコールの入っていないもの、グルテンフリーは小麦の入っていないものを使わなければいけません。少しでもコンタミネーション(混入)の疑いがあるものは排除する必要があります。このような面倒な対応は、大手メーカーはやりたがりません。だからこそ中小企業に商機があると考えています。
──商品開発に悩んでいる中小企業に、アドバイスをいただけますか。
木村社長 原動力になるのは「こういう商品がつくれたら面白いよね」と思えることではないでしょうか。アイデアが形になるまでは苦労の連続だけれど、面白いと思えれば大変とは感じないし、結果としていい商品が生まれる確率も高くなります。
従業員のマネジメントも、とかく賃金や時間外労働などがクローズアップされがちですが、「この仕事が面白い」「おいしいものをお客さんに届けたい」と自発的に思えるような社の風土を醸成することを忘れてはいけませんよね。
大手企業と差別化する独自性の追求
既存商品をベースにした新商品開発