政策提言・要望

政策提言・要望

教育のあり方について ~「健康な日本」を担う優れた人材の育成を目指して~

2002年10月10日
東京商工会議所

 

提言要望

【1.教育改革の理念・目的について】

 教育は国家・民族の繁栄、並びにその構成員としての人間形成の基盤を成すものである。21世紀において我が国が活力に溢れ、世界から評価され尊敬される一流国としての日本の実現と、グローバルな大競争時代に勝ち残っていくためには、今こそ教育の立て直しが必要である。近年における児童・生徒・学生の学力と道徳心の低下は、極めて憂慮すべき問題であり、一刻も猶予は許されない。このため、教育改革を重要な国家戦略の一つと位置付けて、まず、国としての教育理念と目的を確立することが重要である。

 そのためには、政府は広く国民的議論を喚起し、教育基本法の見直しをはじめ、教育のあり方を抜本的に改革することが必要である。特に、明治以降の日本の発展を支えた、国や郷土を愛する日本人としての誇り、自然や伝統・文化及び道徳の尊重、「勤勉」という価値観が重視されなければならない。さらに、グローバル化社会、少子高齢化社会、男女共同参画社会などの新しい時代への対応には、国民全体の基礎学力の嵩上げによる知的基盤の確立とともに、世界に通用するリーダーの育成、創造的才能を伸ばす英才教育などが目指されなければならない。また、教育行政においては、国と地方の補完性の原則を適用すると共に、地方自治体と住民の教育連携、学校改革や地域に根ざした教育への民間企業の取り組みという視点を重視すべきである。

 加えて、子どもの教育を行うベースとして、家庭のあり方の再検討が重要であり、そのためには、親の世代の再教育も不可欠である。また、高齢化の進展や終身雇用制度の崩壊に対応すべく、高齢者に対する教育の充実や生涯学習の拡充についても真剣な取組みが必要である。

 なお、教育は社会の鏡であることから、大人たちは自ら襟を正し、子どもたちにとって夢と希望を持てる社会と努力した人が報われる社会の実現に最大限努力すべきである。また、企業もコンプライアンスの遵守はもとより商業道徳を尊重した企業活動を展開し社会に貢献していくべきことは当然のことである。

【2.我が国に求められる人材について】

 21世紀において、我が国に求められる人材像は全体としては多様な側面をもつべきであるが、特に、伝統・郷土を愛する日本人、政治経済社会での活力、創造性、リーダシップの発揮、国際社会での存在感の増大という観点から、

1.人を思いやる心を持ち、
2.正しいことは慈愛と勇気を持って行う頼もしい存在であり、
3.家族や郷土・国・地球を愛する心を持つ

という「徳」を基本とした価値観を持って、

4.高い専門性を持ち個性と創造性に富み、
5.広い知識と考える力をそなえ世界への発信能力を持ち、
6.競争に打ち勝つ強い意思と実行力を持つ

人材が理想的と考える。

【3.現在の教育の問題点について】

 戦後教育は、教育基本法の成立により、個人の尊厳、平和、民主主義を人類普遍の原理として教育のあり方を規定してきた。しかし、その一方で、国や郷土を愛する日本人としての誇り、伝統や道徳の尊重、政治・宗教の価値観などが教育では、むしろ回避される傾向にあった。また、「地方教育行政組織運営法」の成立とともに、教育の平等思想や国家一律の中央管理体制が色濃く追求されてきた。

 21世紀を迎えて、グローバル化、情報ネットワーク化、市場経済原理の浸透などにより国際社会との結びつきが一般化するなかで、我が国では、真の国際人への教育や地方分権に基づく教育、個々人の自己責任による選択の自由、生涯教育による自己研鑚などが重要な課題となっている。しかしながら、この急激な環境変化へのこれまでの教育対応の遅れが、以下のような問題点を惹起している。

1. 日本人本来の気概、尊厳、美徳や礼節を喪失:経済至上主義による伝統・道徳教育の不備から、日本人本来の気概、尊厳、美徳や礼節を喪失している一方、経済においても決して優位に有るわけではなく、むしろ中国等の急追で製造業の空洞化懸念が高まっている。
2. 平等主義(学校間格差是正、均一な教育)の弊害:競争社会から隔絶した存在に甘んじている学校の意識改革と構造改革が遅れている。
3. 基礎的学力の低下:英語、国際知識やコミュニケーション能力の不足と共に、「ゆとり教育」は国語、数学、理科等の学力低下の危惧を抱かせている。
4. 高度で実践的な経済知識や経営能力の学習機会の欠落:資本主義社会で必要とされる高度で実践的な知識や能力を学習し、養うという点が教育に欠落している。特に、大学卒業者・大学院修了者の教育レベルは、就職後に根本から教育しなおす必要があるほど、極めて低い。
5. 物的な教育投資(学校や校内設備・機器など)の偏重:教員の充実など、人的な教育投資という観点が軽視され、それが教育のニーズとのミスマッチを増大させている。
6. 基本的なコミュニケーション能力の欠如:特に、情操・公徳心の欠如とともに、自分を表現する能力の欠如が社会からの落ちこぼれ人間を作り出す一因となっている。これは家庭と学校との連携の不足、家庭でのコミュニケーションの軽視などが背景にある。
7. 選別のみを目的とする知識偏重の受験戦争の弊害:現在の高校までの教育は学習塾も含めて、大学受験のための瑣末でテクニカルな知識の詰め込みに堕している。しかも、その反動で大学入学後に勉強しない風潮が蔓延している。

【4.教育改革への具体的提言】

 教育は自己実現の機会を提供するものであり、現在、教育改革国民会議報告(2000年12月)などをもとに、文部科学省を中心に、教育改革が進行中である。

 その方向性は概ね妥当と見られるが、そのスピードをさらに加速すると共に、より木目細かな対策が必要である。さらに、「ゆとり教育」には、基礎学力の一層の低下が危惧されており、これを補完する対応策が講じられなければならない。

 以上の教育改革への問題提起とその改革実現のために、以下を提言する。

<初等・中等教育>


(1)国民全員の基礎知識・学力の底上げと英才教育

 基礎学力は、経済・文化を維持・発展させるために広く国民全体に必要なものであり、「鉄は熱いうちに打つ」ことを基本として、幼少時に徹底した知識教育を行うことが必要である。特に、国語、歴史、数学、理科、英語は反復学習を通じて完全修得を達成しなければならない。また、競争社会で勝ち抜いていくためには、個性と創造性のある人材育成が必要であり、英才教育も併せて重視すべきである。

 そのためには、教育基本法4条1項「国民は、その保護する子女に、9年の普通教育を受けさせる義務を負う」という単なる「年齢主義」を見直し、義務教育においても飛び級と落第の導入を検討すべきである。また、グローバル化する社会にあって世界を理解し情報発信するためには、外国人講師による英語教育を小学校から始めるべきであり、初等義務教育における必須科目に英語を加えるべきである。

(2)歴史教育と道徳教育の充実

 日本人の気概、尊厳、美徳や礼節を養成するためには、バランスの取れた歴史教育と道徳教育が必要である。自国の文化・歴史を知り、日本人としての誇りを持つことが、真の国際化には不可欠である。また、歴史教育を通して、過去の事実と客観的な歴史観を学び、将来に向けて国民一人一人が正しく判断でき、国際的にも説得力のある議論を展開できる能力を養うことが目指されるべきである。

 そして、このような歴史教育については、中・高校段階以上では早急に導入・充実を図っていく必要がある。

 さらに、現在の教育でほとんど手を付けられていない道徳教育を行うべきである。特に、日本の偉人・伝記などを素材に、人間関係において発揮されるべき「公徳」の教育に重心を置き、社会や共同体としての求心力を高める必要がある。その際、重要なことは教師の姿勢である。教師は単なる知識の伝達者ではなく、子どもたちにとっての道徳の実践の手本として尊敬される存在でなければならない。そのためには、教員に対する研修の充実を図るとともに、一般企業に籍を置いた人や、定年退職者の中で手本となるような人を教師として登用することも重要である。

(3)ものづくり教育の充実

 技術革新による技術立国を誇りとする我が国にとって、技術基盤の維持・強化は今後も重要である。しかし、最近は子どもたちの「理科・算数嫌い」が指摘されている。新技術や新商品へと発展させるものづくりの技術の基礎となる「理科・算数」に対する確かな学力と、理科の実験の拡充など興味を持てる適切な指導の充実が図られるべきである。また、理科系教育での習熟度別のクラス編成が必要である。

(4)探求心の養成

 単なる知識の伝授にとどまらず、子どもに考えさせ、そして自分の考えを表現させるという学習効果を上げ、個々の児童の能力を適切に伸ばしていくためには、小人数学級制や補助指導員の配置等、児童の知育段階に応じた木目細かな対応が適宜適切に行えるシステムを整備することが必要である。また、自ら考える力を付け、それを表現し、相手に伝え、説得する力を付けるためには、作文の強化が効果的である。さらに、インターネットを使った調査をベースにレポートをさせるなど、自ら学習する意欲を引き出すような探求心の養成に資する宿題や課題をたくさん子どもに与えることを重視すべきである。

(5)「総合的な学習の時間」の活用

 子どもの初等・中等教育においては、基礎学力の向上とともに、感性、情操、自然の尊重、地球環境への配慮、フェア・プレーの精神、職業観などの基本的な人格形成が重要である。例えば、農作業などの実践授業により、自然に対する畏敬・畏怖の念を抱くこと、さらには親や先生、人生の諸先輩に対する尊敬の念を抱くことや、礼儀や躾を修得することにつなげることが重要である。また、企業社会で豊富な経験を積んだ人たちやものづくりの職人などの体験談などを通して子どもたちの健全な職業観を養うことが大切である。このために、家庭や企業、地域団体などが連携し、自然体験や、企業見学、奉仕活動などをカリキュラム化することによって、積極的に「総合的な学習の時間」を活用すべきである。

(6)男女共同参画社会の形成に向けた学習の充実

 男女共同参画社会を実現していくためには、学校、家庭、地域の教育・学習において、男女が生涯を通じて個人の尊厳、男女平等の意識を高めていく必要があるが、特に初等教育の段階からこうした意識の涵養に努める事が重要である。

(7)「食育」の重要性

 子どもたちの健全な成長には、「食育(自らを守り、健康な体と心を作っていくための教育)」の視点が教育において重視されるべきである。特に、家庭のみならず学校教育の場でも、食事の基本である噛むこと、日本の伝統である箸の使い方から始まり、日本人に合った栄養学を幼い頃からしっかりと教えることが大切である。

(8)教育システムの改善

 初等・中等教育では、生徒それぞれの能力に合わせて理解させる教育をすることにより、基礎知識と学力を完全に身につけることが最大の眼目であり、カリキュラム消化は何の意味もない。このためには新学習指導要領のように、達成目標の学習量を低く設定するのではなく、手法について画一主義を廃し、学科によっては習熟度別クラス編成にして、生徒の学力・理解度に応じた授業を行うことが効果的である。

 ここで重要なのは、「教育目標を示して、方法論は任せる」との考え方である。そのために、「親が教育先(学校)を選択できるシステム」や「校長に権限を与え創意工夫の中で良い資質の教師を集めるなど教育環境の向上を図れるシステム」等により、はっきりした責任の下で、“教育の複線化”が可能となるような仕組みの導入が必要である。

(9) 学校のあり方の改革

 学校を市場の競争にゆだねる学校選択制の普及が検討されるべきである。その場合、地方自治体が公立学校に出している助成金を授業料バウチャーという形で親が受け取る、バウチャー制度の導入が併せて検討されるべきである。この制度によって、親自身が子どもの通学する学校を決めるという学校選択を経済面から容易にし、学校間の競争を促進することが必要である。

 校長の権限と責任を強化し、教職員の人事異動、予算、カリキュラム編成など学校経営に校長がリーダシップを発揮することが必要である。このために、社会人の校長就任の機会が効果的であり、学校、教育委員会、商工会議所がこの面で、有機的な協力関係を構築することが重要である。

 また、学校の活動状況を親や地域住民に情報公開し、家庭との意見交換の場を拡大し、学校評議員制度の活用など学校の内部及び外部評価も一層充実することが必要である。

(10)中央集権から地方分権へ

 このような基礎教育の改善を図るためには、 生徒に近い現場に責任を委ねることが必要であり、その意味では、地方でできるものは、地方で優先的に行い、地方ではできない基本的な教育政策は国で行うという、補完性の原則が教育行政にも適用されるべきである。この考え方から、文部科学省で有している権能のうち地方でできるものは地方に例外無く移管することが望ましい。さらに、地方の伝統を学ぶとともに、その地方の特徴を体験し、その継承に興味をいだかせる教育の充実が必要である。

<高等教育>

 現在の高等教育では、高学歴化のなかで大学生の学力低下が問題視されており、このためグローバルな経済活動の中で活躍する人材、あるいは社会発展に貢献する人材が育たないことが指摘されている。今、 世界に通用する「リーダーシップ」、 「創造力」に富む人材養成をポイントに、高等教育にいろいろなかたちでの競争原理を導入し、優秀な人材を思い切り伸ばすための専門教育を強化すべきであり、これには大学・大学院制度を含めた教育体制の抜本的改革が急務である。

(1)大学入試・卒業試験の改革

 大学は知識とともに判断力・創造力養成の場と位置付け、独創性のある人材を育成することが目的であるべきである。

 しかし、高校時代後期の過度の受験勉強が大学での継続教育の妨げになっている。この弊害を除去するためには、選別にあたって、単に記憶、暗記に頼る学業試験よりも、考える力、纏める力、ディベート力など、総合的な実力を判断するものに転換していくべきである。また、それまでのボランティアなど社会貢献活動も重視するべきである。そして、希望する国公立大学への入学は基本的に認める方式にするべきである。入学希望者のいない大学は、自然淘汰されるべきである。

 大学入学時にあれほど勉強しても、大学入学自体が目的化しているため、学生は大学生活での目的意識が希薄であり、結果として学生時代に怠惰な生活を送るため、大卒者の学力は低くなってしまう。大学入学時に面接を通して、学生の就学の目的意識を厳格にチェックすることも必要である。また、大学在学中の学生は第三者機関による公正・客観的な評価を毎年実施して、知識、技能を習得していない学生には厳しく対応し、単に留年はさせないなど、着実な学力向上を確保すべきである。さらに、大学の入学は基本的に自由にする一方、卒業は厳格に行うべきである。

 また、学生が就学途中で実社会に出たり、あるいは、また戻って来ても、学業の継続が可能なシステムも構築すべきである。

(2)大学への競争の導入

 大学については、文部行政における規制を抜本的に少なくするとともに、従来の硬直的組織を改革し効率化を図っていくことが重要である。特に、大学及び教員の競争制度を導入し、教授の外部登用を促進するなど、相互競争による教授の活性化、不適格な教師の退出について、早急に一定のシステムを確立していく必要がある。

 このため、成果主義的教員評価制度、学生による教員評価制度、単位の大学間モビリティーを強力に進めるなどのさらなる大学改革が必要である。

 独立行政法人化が予定されている国公立大学は、画一的な教育から脱皮するために将来的には民営化についても検討されるべきである。また私立大学は、私学の独自性、自主性をより強固なものとするために公的制約条件を伴う現行の私学助成の仕組みを見直すことが必要である。その際に、公費によらない私学経営の方法として、株式会社制度による学校運営も認められるべきである。この場合、現在の規制は大幅に緩和されるべきである。

(3)大学・大学院等の教育・研究機能の高度化

 現在の社会経済基盤の変化の中で、激動の時代を切り開いていくために、大学・大学院等で、専門的な研究・学問分野の開拓とそれを担う人材を育成することが大切である。

 特に、高度情報化時代の進展の中では、新たな知識等が産業・社会発展の重要な契機となる。いかなる知識・技能も陳腐化していくが、その動きは急激である。これに対応していくためには、自らが学ぶ意欲・実行力・判断力が大切であり、社会人になった後も、自ら選択し、大学院において最先端で高度な知識を学ぶことなどにより、常に自らの知識・技能を一層広め、深めていくことが求められる。それらを通じ、知的な分野での国際競争力と価値創造力を備えた人材の育成を実現することが重要である。

 そのため、大学、特に大学院の教育・研究機能を高度化させることは喫緊の課題である。これらの取り組みにより、海外からも学生が集まるような世界に誇れる大学院を創るべきである。

(4)ビジネス・スクールを含めた大学院レベルのマネジメント教育の拡充

 わが国企業が当面している経営問題の多くは単に経済政策の誤りや外部環境の変化に起因するだけでなく、経営管理の基本的な常識が軽視されてきたことにも大きな原因がある。将来の企業家や経営者が経営管理の基本的な知識を身に付けるためには、大学院レベルのマネジメント教育が重要であり、欧米型のビジネス・スクールの拡充が必要である。

 なお、大学学部や大学院のカリキュラム・教育内容は、従来のような学問別ではなく、職業上の必要に応じた内容でアレンジされるべきである。その際、カリキュラム・教育内容の編成や単位の認定においては、この分野で先進的な外国大学との提携強化も考慮されるべきである。

 さらに、産業界が大学院レベルのマネジメント教育の重要性を認識し、これを活用する意思が必要である。特に、産業界自体が自らの問題として、大学院レベルのマネジメント教育の増強、教育カリキュラムの内容等について積極的に注文を付け、厳しく大学を評価してゆくことも大切である。

(5)人への教育投資と教育財政支出の拡充

 初等・中等・高等教育の共通の対策として、教師を質・量ともに増強し、外国人や社会人教師を含めた優秀な教授陣の確保、研究費用確保には充分な財政措置が講じられなければならない。教育投資は、国家の将来に対する重要な支出であり、政府はまさに「米百俵」の思想を貫徹することが必要である。

 また政府は、教育が個々人にとって最も大きな財産であり、幸せの鍵であるという国民の認識を一層深めてゆくとともに、個人・企業が教育投資に貢献できる道を広げるような制度改革を講じるべきである。例えば、アメリカ型の個人・企業による直接寄付と直接奨学金付与を奨励し、あわせてこのような教育貢献に対するインセンティブを与える税制改正を行うべきである。

【5.商工会議所の役割について】

 教育問題は、もはや理念を論ずる段階ではなく、一人一人の行動が問われている時代に入っている。行動なくして改善はあり得ない。商工会議所は地域に根ざした企業の集まりとして、その特性を生かして「人づくり」に貢献しなければならない。企業が教育の充実に協力することは、同じ社会に存在するものとしての社会的な責務といえる。その果実は将来、優秀な従業員・後継者となって企業に利益をもたらすだけでなく、新しい産業の創出や地域の伝統文化の継承などを通じて、地域社会の真の繁栄につながるからである。

 商工会議所は企業と教育機関を結ぶ橋渡し役であり、地域教育の充実に果たす役割は今後ますます重要となってくる。求められているのは、地域社会への具体的な教育支援の提案であり、企業の立場からあるいは地域社会でできることから率先して行動していくことである。加えて、より良き社会の実現のため、商工会議所は企業倫理の会員企業への徹底など商業道徳の向上に積極的な役割を果たしていくべきである。

 商工会議所はこれまで、検定事業を通じて職業教育の一端を担ってきたが、今後も若い人たちに対する基礎的職業能力(例えば、計算能力、ビジネス日本語能力、プレゼンテーション能力等)の育成・向上のため、一層の役割を果たしていく。また、地域に根ざした特徴ある教育、経済活動・企業活動と教育の関わりという点において、生徒・教師の社会体験の受け入れや社会人講師の派遣あっせんなど地域の教育機関に対する積極的な支援と協力関係を構築することが大切である。特に、ものづくりの体験、地域の伝統・文化の伝承などにこれまで以上の役割を果たしていかなければならない。

 各地の商工会議所ではすでに、地域社会の明日を担う人材育成あるいは教育の改善に向けてさまざまな具体的行動(別紙参照)を行っているところであるが、今後も下記の取り組みを一層拡充していく所存である。

(1)新時代の経済社会の担い手を育成するために

①検定など基礎的職業教育を支援する諸事業を積極的に展開していくとともに、ITなど時代の要請する職業教育事業をさらに展開していく
②健全な職業観を醸成するための、企業における生徒・教師の社会体験の受け入れ、学校への社会人講師やボランティアの登録並びに派遣の斡旋機能(ナレッジフォーラム機能)を強化する
③高校生・大学生の職業意識の向上に資するためインターンシップの斡旋・仲介を強化する。この場合、海外の商工会議所との連携の下、国内のみならず海外企業でのインターンシップについても支援を行う。
④起業家精神を醸成する事業を行う
⑤中小企業の役割、意義についての理解を促進するための事業を行う

(2)地域の伝統・文化を継承するために

①地域の伝統・文化振興に関する事業を支援する
②地域の伝統・文化を継承する人材の育成を支援する

(3)新たな「知」を創出するために

①高等教育機関と企業の産学連携による研究活動を支援する
②社会人への大学開放、社会人教育プログラムの提案・コーディネートを行う

(4)学校運営を改善するために

①学校評議員制へ積極的に参画する
②民間人校長の推薦など人材面での学校活性化を支援する

(参照)各地商工会議商工会議所における教育支援活動への取り組み

この意見書は日本商工会議所、東京商工会議所連名で平成14年10月10日に提出した。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所