会頭コメント

会頭コメント

2020年 三村会頭年頭所感「意志をつなぎ 挑みつづける」

2020年1月1日
東京商工会議所

 明けましておめでとうございます。
 2020年の新春を迎え、謹んでお慶び申しあげます。

 私は、昨年11月の臨時議員総会において東京商工会議所会頭に再任され、東商会頭として3期目の新年を迎えることとなりました。会員の皆様におかれましても新体制の下、清々しく新年をお迎えになられたことと存じます。

 さて、昨年は国内外ともに実に多くの動きがありました。わが国では30年ぶりの御代替わりを経て「令和」時代の幕が開き、大変な盛り上がりを見せたラグビーワールドカップ、5年ぶりの消費税率引き上げなど、重要な出来事が相次ぎました。一方で、台風などの自然災害による被害も広範囲かつ甚大なものとなり、いまだ影響の残る被災地の皆様には、改めて心からお見舞いを申しあげたいと思います。

 世界では、長期化する米中対立、不安定な中東情勢、ブレグジット問題、香港問題、日韓関係の悪化など、数々の混乱が生じ、その出口を模索し続けた1年でありました。

 わが国の経済情勢に目を転じれば、個人消費にはいまだ力強さを欠くものの、米中摩擦などの影響もこれまでのところ限定的であり、民間投資は引き続き底堅く、日本経済は潜在成長率並みの1%程度の緩やかな拡大を続けています。本年は、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、東京および全国各地の魅力とともに、東日本大震災などから復興した日本の姿を全世界にアピールできる絶好の機会であり、ぜひともこのビッグイベントによる効果を全国津々浦々に波及させ、日本全体が元気になれる1年になることを切に願っております。

 一方、わが国経済は多くの課題も抱えております。人口減少や高齢化などの日本社会の構造変化を背景に、年々深刻化する人手不足、経営者の高齢化などによる廃業の増加、地方の疲弊などが、さらなる成長の足かせになっております。これら日本の抱える構造的課題は、立場の弱い中小企業の経営課題として最も早く顕在化してきます。大企業との利益率格差は年々拡大し、また賃金も毎年上昇する中で、労働分配率は大企業の40%台に対し、中小企業では70%台に達しています。従って、生産性の向上や取引価格の適正化などを通じた付加価値の向上無くして、中小企業はこれからの時代を生き抜くことはできません。

 こうした危機感の下、私は昨年11月、会頭再任時の所信において「中小企業の強化を通じて日本の成長する力を育てる」、「東京と地方が共に栄える真の地方創生」の実現に向けて、今期の取り組みを表明いたしました。

 中小企業はわが国経済の基盤であります。日本全体の雇用の約7割、付加価値の約5割を生み出している中小企業の強化なくして、わが国の持続的な経済成長はあり得ません。所信では、①ひっ迫する人手不足とデジタル社会の到来にあって、未だ「発火点」に達していない中小企業への「IT導入」と「デジタル技術の実装化」を急ぎ、生産性向上と付加価値向上を同時に実現すること、②来る「大事業承継時代」を変革と創造の好機と捉え、「事業承継の加速化」で価値ある事業と技術を次世代へ承継し、「起業・創業の活性化」でビジネス全体の新陳代謝を促すこと、③取引価格の適正化とともに、中小企業の生産性向上を大企業が積極的に支援する「大企業と中小企業の新しい共存共栄関係の構築」により、サプライチェーン全体をより強固なものにしていくこと、この三点を成長力の源泉である中小企業の活力強化のための取り組みとして掲げております。

 また、わが国の持続的成長を実現するためには、経済の成長エンジンである東京がその都市力と国際競争力を高めていかなくてはなりません。これまでも東商は首都東京の抱える様々な課題への対応に取り組んできましたが、今期は東京都とも密に連携し、2020年以降の持続的な成長を見据えた東京全体の将来像の検討を進め、より積極的に23区のまちづくりや地域振興にも取り組んでまいります。さらに近年頻発する自然災害や、今後想定されている首都直下地震への備えについても、BCP策定支援など、ソフト面を含めた都市防災力強化のための取り組みを推進したいと思います。

 以上に述べた取り組みの実行にあたっては、商工会議所の実践力強化、組織基盤の強化、および23支部と本部との連携強化が必須であります。東京商工会議所では一昨年、11年ぶりに会員数が8万件を突破しました。引き続き、より多くの会員の皆様と直接対話する「現場主義」、現場の意見をただ聞くだけではなく、政策にまとめて現場に返す「双方向主義」を徹底するとともに、会員の皆様の満足度向上を図り、商工会議所の活動を分かりやすく発信する「商工会議所活動の見える化」をさらに推し進めてまいります。

 折しも昨年、東京商工会議所の創始者である渋沢栄一翁が、NHK大河ドラマの主人公や、新一万円札の顔となることが決定しました。渋沢翁は「民の繁栄が国家の繁栄につながる」との信念の下、民間が自律的に力を発揮すべきことを繰り返し述べられました。わが国経済の繁栄は、先人企業人が不断の努力によって築き上げ、次代につないでこられたものです。

 東京商工会議所は渋沢翁の意志を現代につなぎ、不確実な世界情勢の中にあっても、会員とともに挑みつづけ、日本を希望溢れる国にしていく使命があります。私は、本年もその先頭に立って、「会員企業の繁栄」「首都・東京の発展」「わが国経済社会の発展」のために全力を尽くしてまいります。

以上