東京商工会議所

SDGs×日本製ビーチサンダル
=高付加価値品

株式会社TSUKUMO卸売業

代表取締役 中島広行
(なかじま ひろゆき)氏

TSUKUMOのイノベーションの特徴

○世界に先駆け、廃材やサトウキビを使った環境に優しいビーチサンダルを開発
○営業活動はせず、WEBサイトやSNSによる情報発信に注力し大手企業からの受注につなげる

世界で唯一、日本製ビーチサンダル専門店を営むTSUKUMO。販売先への売り込みを一切しない営業スタイルながらも、国内外のセレクトショップやメーカーからの問い合わせが後をたたない

特化することで見えた、ビーチサンダルの可能性

――ビーチサンダルに携わったきっかけは何ですか?

中島社長 前職が雑貨店で、ビーチサンダルを扱っていたのがきっかけです。それ以来25年ビーチサンダル一本ですね。
 ビーチサンダルは季節商品として扱われますが、前職でビーチサンダル専門の通販をはじめたところ、セレクトショップや百貨店から問い合わせが来るようになりました。
 中にはプロスポーツの試合会場で扱うとか、アイドルグループのツアーグッズとして販売したいといったものもあります。ビーチサンダルは思っている以上にマーケットが大きいと手応えを感じました。
 しかし、当時は海外製が主流で、短納期や小ロットへの対応ができないといった課題がありました。そこで、日本国内では見かけなくなったビーチサンダルの製造工場を復活できないかと考えたのです。そして、浅草の履物問屋街の取引先から、兵庫県にある工場を紹介してもらえました。

――日本でもビーチサンダルをつくっている会社があったのですね。

中島社長 兵庫の工場は阪神・淡路大震災で被災して以来ビーチサンダルは生産していませんでした。幸いなことに、設備が残っていたので生産を再開してもらうことができたのです。
 しかし、当時はファストファッションや100円ショップが猛烈な勢いで伸びていて、日本製を謳うメリットがありません。お客さまも違いがわからないし、混乱するのであえて日本製とは言わずに販売していました。それを非常にもったいないと感じ、2013年に独立し、株式会社TSUKUMOを設立したのです。

“日本製”、“昔ながらの製法” に問い合わせ

――海外製と日本製の違いはどこにありますか?

中島社長 ブラジルのメーカーは流行をいち早く取り入れて、色使いもポップ。中国の工場は規模が桁違いに大きく、新しい素材を使っていて、そちらも目が離せません。
 そうした中、何で勝負するのか。日本製の特徴を掘り下げると、サイズ展開、カラー展開が豊富です。また、製造を依頼している工場は、創業以来70年同じ方法で製作しています。それを逆手に取り、老舗感のあるホームページで「昔ながらの製法」とアピールしたのです。

――ブランド化ですね。

中島社長 実はいわゆる営業活動は全くしていません。ホームページとSNSの発信だけ。それでも設立当初から台湾や日本のセレクトショップ、メーカーなどから問い合わせがあったり、コラボを持ちかけられています。

――ホームページとSNSだけで! 秘訣は何でしょうか?

中島社長 SNSのフォロワーは決して多くありませんが、ネットで「ビーチサンダル・日本製」と検索すると当社があがってきます。この独自性を生かすために、ブログを毎日更新し、色数豊富、歩きやすいつくり、鼻緒が天然ゴムで痛くなりにくいといった特徴を発信しています。翻訳サイトを活用して英語のブログも月に数回更新しています。
 YouTubeやTik Tokなど新しい情報発信にはなかなかついていけません(笑)。ですので、ブログの更新やメルマガの配信など、できることを最大限頑張る。更新頻度が高いと、それだけ検索でも上位に出てきます。

台19色、鼻緒12色から選んでオリジナルのビーチサンダルをつくることができる。

ハードルが高いと思っていた産学連携に飛び込み視界が開けた

――ビーチサンダルに対するニーズはどうでしょうか。

中島社長 実は、子どものビーチサンダル離れが進んでいます。そこで、ビーチサンダルが健康に良いと以前から言われていることをデータ化、分析し、PRに使いたいと考えました。ところが、検証したデータがありません。きちんと効果測定をしたいと思い、東京商工会議所の産学公連携相談窓口に相談にいきました。
 当社のような小規模な会社が産学連携できるのか半信半疑でしたが、東京商工会議所が連携する46(2022年1月時点では50)の大学・研究機関に投げかけてもらうと、複数の機関から手が挙がり東京電機大学と共同研究することができたのです。その結果、素足とビーチサンダル、スニーカーの三つの中でビーチサンダルが一番筋肉を使うことがわかりました。
 さらに、東京商工会議所のアドバイスで国の小規模事業者持続化補助金を申請しました。ビーチサンダルは健康に良いといった調査を深掘りし、その結果をPRに使いたいと考えています。

――廃材や環境に優しい素材を取り入れるなど、新しいことにもチャレンジされていますね。

中島社長 SDGsに関しては、3年ほど前から、セレクトショップやブランドなどから素材の生分解性や廃材の再利用についての問い合わせが増えました。そこで、廃材などを活用した商品づくりを考えていたところ、複数のメーカーからこれまで捨てていたマットの端材やとうもろこしの芯、卵の殻などの再利用を持ちかけられました。
 こうした取り組みは海外でも例が少ない。提携している工場も巻き込んで、先んじて取り組みをスタートすれば生き残っていけると挑戦を決めました。
 ものデザインコラボLAB KOBEに参加し、アドバイスをもらいながら製品化に取り組んでいます。余談ですが、ここで神戸市役所の人と知り合いになったことがきっかけで、ビーチサンダル発祥の地である神戸市長田区と事業連携締結に至り、PRや地場産業活性化のための取り組みを行っています。産学連携もそうですが、外部の機関を活用することでイノベーションが大きく広がるきっかけになるのを痛感しました。
 話をSDGsに戻すと、廃材やリサイクル素材を使うより、通常の素材で新品をつくった方が断然原価が安くすみます。例えば、通常のビーチサンダルが1,500円のところ、天然ゴムでは1,800円。サトウキビでは4,000円超えで売らないと利益が出ない。工場からはそんな高い商品が売れるのか、といった疑問の声が寄せられました。

――確かに数百円、安ければ100円ショップでも売っていますからね。

中島社長 そうなんです。しかし、これまでもセレクトショップからは、より既存の商品ラインナップに合致する高価格帯の商品を求められていましたから、反対に価格帯の面、さらに環境配慮の面からも喜んでもらえたのです。当社がもし、安易に安い製品に手を出していたら、高付加価値品を求める取引先からはそっぽを向かれていたでしょう。これまで日本のものづくりは安すぎました。
 でも、生産する側は市場のニーズに気づいていないことも多い。そこで、月の半分は兵庫県の工場に出向き、高くても売れている事例を見せながら、一緒になって新しいものをつくっています。
 振り返ると、ビーチサンダルに特化したからこそ、市場の声に気づくことができました。また、工場を巻き込むことで海外のブランドに負けないところに立つことができたのだと思います。まだまだ日本の工場も世界に負けないものづくりができることを知ってもらいたいですね。

株式会社TSUKUMO

■本社: 〒111-0042 東京都台東区寿3-7-1 202

■設立: 2013年7月

■資本金: 300万円

■従業員数: 1名

■事業内容: 日本製ビーチサンダル企画・製造・卸

■企業HP: http://tsukumo2013.co.jp/

提言内容の解説

Ⅰ-3 情報収集、人脈形成などの社外活動の重要性 Ⅱ-2 競争領域に経営資源を投入し、非競争領域では外部との連携を
 経営資源が限られる中小企業・小規模事業者がイノベーション活動に取り組む際、自社の強みである「競争領域」に経営資源を集中させ、競争力を有さない「非競争領域(協調領域)」では、他社・他機関との連携を通じ、効率よくイノベーション活動に取り組むことが重要である。
 TSUKUMOでは、大手企業の廃材を再利用した商品を開発する際、廃材に対応できる工場を新たに探し出し商品化に結び付けた。この提携工場は、かつて受講したものづくりゼミに参加した際の人脈などを通じて探し出した先であり、協業相手の選択肢を広げるうえでも、経営者が社外で人脈を構築し、情報を収集することが、イノベーションの実現に向けて重要となる。

Ⅰ-4 持続的な収益につなげるためのブランディング戦略の重要性
 開発した新商品を持続的な成果につなげるためのブランディング戦略が重要である。TSUKUMOでは、情報発信としてブログを毎日更新しTwitterやInstagramとも連動させている。企業とコラボした商品情報、コラボ実績なども積極的に発信することで、営業活動を一切しなくても、自社サイトやSNSなどを閲覧した企業から注文に関する問い合わせがあり、次の受注につながっている。

イノベーション創出に向けたポイントをまとめた
『中小企業のイノベーション促進に向けた提言』は こちら