東京商工会議所

創業時から培ってきた技術をベースに
イノベーションを起こし続ける

株式会社田代合金所製造業

代表取締役 田邊豊博
(たなべ とよひろ)氏

田代合金所のイノベーションの特徴

○活版印刷の活字をつくる鋳造技術を生かし、アクセサリーや内装材に進出
○鋳造製品の非破壊検査効率化に向け、いままでなかったAIを活用した構造解析システムを開発

活版用合金の製造で創業した田代合金所。印刷が活版からオフセットの時代になりピンチを迎えるも、合金を製造する鋳造技術を生かして、異なる分野に活路を見出した。さらに、金属鋳造製品の損傷箇所を超音波やX線を用いず検査できる構造解析技術を開発。いま、さまざまな業界から注目されている。

既存の技術を応用し、新商品を開発!!

――さまざまなイノベーションを起こし、ピンチを乗り越えてきたと伺いましたが?

田邊社長 はい、当社は1914年の創業から約半世紀に亘り活版印刷用の合金を大手新聞社などへ納めてきましたが、オフセット印刷の発達などにより需要が大きく減ってしまいました。その危機を乗り越えるため、先代であった父が、活字合金の製造で培った鋳造技術を生かしてキャストメタルというアクセサリー用の合金を開発したのです。アクセサリーのほかにもベルトのバックルやキーホルダーにも使うことができ、国内シェアの大半を獲得することに成功し、危機を脱しました。
 しかし、2度目の経営危機もすぐに訪れます。1996年に私が社長に就くのですが、2000年頃からキャストメタルの生産拠点が国内から東アジアにシフトし、国内のマーケットが大幅に縮小していったのです。
 このピンチを乗り越えるきっかけになったのも、活版印刷で培った技術でした。溶かした金属を板状に鋳型に流し込む技術を、何かに応用できないかと考え、複数の素材を試しました。なかでも錫を使うと、デザイン性の優れた板ができ、これは内装材に使えると閃きました。

――とても綺麗な内装材ですが、これをつくるのは難しいのですか?

田邊社長 そうですね。当社の持つ高度な技術に加え、特殊な金型と離型剤を開発したことで、これまで世の中になかった商品を生み出すことができました。
 この内装材を「コンウォール」と名付け、2004年に日本インテリアデザイナー協会主催の展示会に出品したところ、独特の風合いが注目を集め、奨励賞を受賞。
 これまで、商品の販売は商社に頼んでいましたが、コンウォールは自社で販路を開拓する戦略を立てました。そのため国内外の見本市に出展し、さまざまな賞をいただくことで、徐々に認知されインテリアデザイナーや設計事務所から直接注文が来るようになったのです。
 さらに、海外企業の目にも留まり、現在は海を越えて販路を拡大しています。こうして、自社が中心になってコンウォールブランドを育てることができました。

錫内装材 コンウォール/鮨 和魂フォーシーズンズホテル京都 設計:STRICKLAND

自社にしかできない商品をつくり出す

――コンウォールの営業は、具体的にどのように行っているのですか?

田邊社長 過去の作品が、最高の営業社員ですね。購入してくれたお店や会社にある作品を見た人から問い合わせが来るケースがほとんど。
 それもあって、決して手を抜くことなく作品づくりに励んでいます。社員には「自分がおカネを出して、この作品を買うと思って、精魂込めてつくりなさい」と口酸っぱく伝えています。

――高度な技術を要するため、模倣されることもない?

田邊社長 コンウォールを開発してから15年以上経ちましたから、模造した商品も出てきています。開発後、すぐに特許を取りましたが、法廷闘争を始めたところで決着がつくころには特許切れになっている可能性もあります。
 結局のところ、ブランドを守るには人が真似できない商品を生み出し続けるしかないと思います。
 ですから、どうしたら田代合金所にしかできない商品をつくり出せるか、常にアンテナを張り巡らせているのです。
 栄枯盛衰という言葉がありますが、どんなにうまくいっているビジネスも必ず枯れるときが来ます。栄えているときこそ衰えたときを想定した準備をしなければなりません。実は、当社も新型コロナウイルスの影響を受け売上が大きく落ち込みました。そこで、危機を乗り越えるため以前から目をつけていた新商品の開発を一気に進めたのです。
 一つは、コンウォールの新商品で錫の結晶を表面に出した「きらめき」です。コロナ禍で時間ができたこともあり、試行錯誤を繰り返してなんとか形にできました。
 そしてもうひとつが、FEM逆解析というAIを活用した構造解析システムの開発です。

――構造解析システムは、鋳造技術とどのように関連しているのでしょうか?

田邊社長 鋳造品には、目に見えるか見えないかのすごく小さなひび割れや穴ができることがあります。これがあると不良品になるのですが、従来は超音波やX線を使って損傷箇所を見つけ出していました。しかし、もっと簡単に損傷箇所を見つけ出す新しい検査方法はないものかと、数年前から模索していたのです。
 すると、この件について以前から相談していた高校時代の理系の友人が、構造解析による検査を思いついた、と話があったのです。それがFEM逆解析でした。すぐにその友人に入社してもらい、研究を進めました。
 通常のFEM解析は、ソフトに構造物のモデルと荷重を入力し、その解析結果から変位や振動がわかるというものです。FEM逆解析はそれを逆にして、物体に力を加えたときに発生する変位、あるいは叩いたときの振動の波形を測定し、AIによる推定から構造物の劣化や損傷の位置、程度を割り出す解析方法です。
 つまり、変位や振動で、どこがどれだけ破損しているかわかる。対象物を修理したり、交換したりすべきかがすぐに判断できるわけです。
 すでに特許を取得して、カーブミラーの支柱の解析をしています。また、風力発電所の風車の部分をブレードというのですが、その点検は目視かドローンでしか検査できませんでした。その検査に、遠隔監視できるFEM逆解析の適用を目指しています。

カーブミラーでのFEM逆解析実証試験

イノベーションで、社員が安心して働ける未来を描く

――FEM逆解析システムは、金属の製造といったこれまでと全く違う事業ですが、どのように進めているのですか?

田邊社長 AIに関するシステム開発や解析を行うために、2020年にシステム開発部門を立ち上げました。人員は、さきほど話に出た高校時代の同級生と私、そして大手情報通信企業に勤めていて、最近転職して入った息子です。3人で開発をしています。
 娘も当社で働いており、コンウォールをはじめ、アート系の仕事を任せています。

――FEM逆解析システム開発の資金面での課題はどうしましたか?

田邊社長 東京商工会議所に指導していただき、事業再構築補助金に採択してもらえました。この補助金を使って、風力発電のブレードを解析するために必要な大型専用機器を取得できました。

――コンウォール、FEM逆解析システムの開発などイノベーション活動を行った結果、会社にどのような影響がありましたか?

田邊社長 わずか7人の会社ですが、いま誰にも真似できないFEM逆解析を武器に、世界を相手に乗り込んでいこうとしています。
 コロナ禍でみんな将来に不安を抱いていると思いますが、田代合金所はイノベーションを起こし挑戦していく会社だと社員に認識してもらえれば、彼らは頑張ろう、この会社を支えていこう、という気持ちを持ってくれると思います。実際に、FEM逆解析に直接関わっていない社員も、自分の手をどう動かせばこの新しい技術開発に役立つかを理解していて、手助けしてくれています。

家族経営の田代合金所。田邊社長のご子息である侑一氏(左)がAIやデジタル、ご息女の彩氏(右)はアート、デザインを担当している

株式会社田代合金所

本社: 〒111-0042 東京都台東区寿3-16-16

設立: 1914年1月

資本金: 1,500万円

従業員数: 7名

事業内容: アクセサリー用合金(キャストメタル)、錫による内装建材の製造・施工・作品制作、AIによるFEM逆解析システムの開発

企業HP: https://www.tgmetal.co.jp/

提言内容の解説

Ⅰ-2 変革スピードの重要性
 中小企業・小規模事業者がイノベーション活動に取り組む際、意思決定や実行のスピードが強みとなる。田代合金所では、コロナ禍で製造現場の業務負荷が落ち着いた際、新製品開発に取り組み、約半年の開発期間を経て製品化に成功。すでに国内外含め受注につなげている。同社では「栄枯盛衰」という言葉を念頭に置き、自社の強みをベースにした、小規模企業が生き残るための寿命が長いビジネスモデルを常に考えていることで、スピード感のあるイノベーション活動につなげている。

Ⅰ-6 「ビジネス知」と「デジタル知」の融合に向けた若手人材の活躍促進
 ITを経営戦略に活用する「攻めのIT」を実現するためには、デジタルネイティブ世代である若手人材の活躍促進を通じて、経営者・経営幹部が持つ「ビジネス知」と若手人材が持つ「デジタル知」を融合させていくことが重要となる。
 田代合金所では、AIを活用した新規事業開発にあたり、大手IT企業から入社したご子息が保有するデジタル知を開発に生かすことで、新分野進出を実現している。

Ⅰ-7 事業再構築補助金など支援施策の有効活用を通じた新規事業のリスク軽減
 経営資源が限られる中で、リスクを伴う新規事業、イノベーション活動に積極的に取り組むためには、補助金などの支援施策を有効活用することが重要である。

イノベーション創出に向けたポイントをまとめた
『中小企業のイノベーション促進に向けた提言』は こちら