東京商工会議所

宝飾店がデジタルで
イノベーション!!
管理システムとA Iアプリを開発

株式会社セルビー小売業

代表取締役 松谷稔哉
(まつたに としや)氏

セルビーのイノベーションの特徴

○実店舗とWEB店舗の効率的な管理のため、ECと店舗を一括で運営管理ができるシステムを自社開発し、他社にもシステムを外販
○AIを活用したEC用画像の補正アプリを大学と連携して開発

中古の宝石をECサイトで販売する事業で、2001年にセルビーを設立した松谷社長。複数のチャネルで商品を販売するために、販売管理システム「OMRIS」(オムリス)を自社開発。また、東海大学との連携を通じてAIによる画像の補正アプリを開発。デジタルを使ったイノベーションに取り組んでいる。

複数のチャネルを持つために、システムを開発

――宝石業界で会社を設立したきっかけは?

松谷社長 最初に入社した会社が宝石の会社でした。それから宝石一筋ですね。私が宝石業界に入った3年後の1991年に業界はピークを迎えて、市場規模は3兆円までいきました。しかし、バブルがはじけて、市場が大きく縮んでしまったのです。
 日本の人口比でいえば2兆円くらいが市場規模の適正値だと思うのですが、バブルの後は、その半分の1兆円くらいで留まっていました。その理由は、「バブル期に一人あたりの所有個数が増えたこと」、そして「若者の需要がスマートフォンに吸い込まれてしまったこと」だと考えたのです。この二つのことから、使っていない宝石を買い取って、スマホから買えるE Cサイトで販売すれば売れるのでは、と仮説を立てて会社を設立しました。

――設立した当初は、インターネット上だけで?

松谷社長 実店舗はありません。銀座の店舗をつくったのが2012年ですから、10年以上はインターネット上だけで販売していました。
 理想としては、チャネルを増やせば増やすほど人の目に触れて売れる可能性は上がりますから、Yahoo!や楽天だけでなく、そのほかのECサイトにも出店して、実店舗でも売るというようにしたかったわけです。
 しかし、商品が売れたときに、同時に受注管理ができるシステムがなかったため、実店舗を出したり、複数のECサイトに出店したりができませんでした。つまり、例えばある商品をECサイトと実店舗で販売していて、実店舗で売れたら、ECサイトから引き上げないといけませんよね。では、その引き上げる手続きを忘れたらどうするの? という問題が起きるわけです。
 では、自分で理想を叶えるためのシステムをつくってしまおうと開発したのがOMRISです。

――OMRISは何ができるシステムなのですか?

松谷社長 まず、販売管理です。仕入れた商品を売ってそのデータを残し、どの商品がどのぐらい売れたのか、またどのぐらい利益が出たのかなどをデータで管理できます。
 もう一つが、Yahoo!や楽天といった出品先のモール側と連携して、商品が売れた瞬間に受注が走ってほかに出品しているサイトからその商品を引き下げたり、実店舗で商品が売れるとPOS情報が走って全ECサイトから商品を引き下げるという機能です。簡単にいうとこの二つの機能を持ったシステムになります。

――OMRISができたので、実店舗を持つことができたと?

松谷社長 そうですね。最初の実店舗は2012年に出しましたがショールームのような役割で、しっかり販売に力を入れ始めたのはOMRISができた2015年からです。これが一つ目のイノベーション。ただ、システムの開発は初めてで、苦労しかなかったですよね。どうしたらシステムをつくれるのか、誰も教えてくれないから自分で試行錯誤するしかなかった。

――具体的にどういった手順で進めたのですか?

松谷社長 まず、システム開発のプロジェクトマネジメントができる人材を採用しました。その人に実現したいことを話して、どういうスキルを持ったエンジニアを何人配置すれば、どのくらいの期間でできるかを相談して、次にエンジニアを採用していきました。
 いざ、システム開発に入るとなかなか思った通り動かない。最初はすぐ動くものだと思っていましたが、そんなことはないんですね。いまは、デバッグをして一つ一つ原因をつぶしていくしかないとわかっていますが、当時はなぜ、思った通り動かないのか不思議でしょうがなかった。
 開発には2年半かかりましたが、OMRISのおかげで複数の販売チャネルを持つことができました。いまでは他社さまにも使っていただいております。

OMRIS(オムリス) OMRIS(オムリス)

OMRIS(オムリス) |店舗+複数ECサイトを一括管理できるクラウド型サービス

大学の提案で、AIの導入を決断

――AIを使ったアプリも開発したと伺いましたが?

松谷社長 ECで宝石を販売する業界では、「商品の写真をどうやって撮影すればいいの」「どんな機材で撮ったらいいの」「どんなスタジオをつくればいいの」「撮った写真と実物で色が違うんだけど、どう直したらいいの」というような入り口の技術がまだ確立していません。
 このような悩みを解決できるAI自動画像補正アプリAIPHOTEC(アイフォテック)を開発しました。AIPHOTECは、AIでPHOTOをEC化するという意味です。つまり、EC用の画像つくれますよと。

――いつ頃から、画像補正の自動化を考えていたのでしょうか?

松谷社長 会社設立当初からですね。私自身もジュエリーを撮影してPhotoshopで画像補正する作業を、ずっとやってきてその手間を感じていたわけです。あるとき、東京商工会議所のビジネスサポートデスクに相談しコンサルタントの先生を紹介していただきまして、商品をECサイトに載せる工程に時間がかかっているため、この作業を合理化しようとなったのです。
 秒単位でムダを省く取り組みをして、それでも長いので「最終的にはAIを導入するしかないのでは?」と先生から提案がありました。結果的に、これまで撮影から補正完了まで、20分かかっていたのが、写真をクラウド上にアップすると10秒くらいで補正されるようになりました。

――どういった流れで、AIPHOTECの開発を実現したのでしょうか?

松谷社長 まず、撮影の工程は無くせないのでPhotoshopで行っていた画像の補正処理をほかのものに置き換えることを考えました。そこで、補正後の画像をAIに認識させ、そのAIに画像をいれることで一挙に補正できるアプリをつくることにしたのです。
 複数の大学がA Iを研究していると知り、技術開発をお願いしたところ、東海大学から前向きな回答をいただきました。
――東海大学との産学連携で開発していると?

松谷社長 はい、AIのモジュールは東海大学につくってもらい、セルビーは学習データを提供しているかたちです。具体的には、補正後の画像を提供しています。いままで25,000くらいは渡していますね。AIPHOTECはこれからECを始めたい会社にとって非常にメリットが大きいと思います。すぐにECサイトで使える画像ができてくるわけですから。

AIPHOTEC(アイフォテック)|宝石の画像をネット販売するための最適な画像にAIが補正する(左側:補正前/右側:補正後)

なぜ、会社を立ち上げたのか。原点に帰る

――OMRIS、AIPHOTECと、自分に必要なものをまずつくってみるというイノベーション魂はどこからくるのでしょうか?

松谷社長 好奇心だと思います。利益がいくら出るとか、あんまり儲からないからなど考えるとなかなか踏み出せない。面白いからやってみようが大事。経営者だから、もちろん雇用を守らなければいけない。しかし、そもそもビジネスを始めた想いって、雇用を守るためではないと思うんです。ビジネスを始めた原点に戻れば、イノベーションと肩肘張らなくとも、「この問題を自分の力でなんとか解決できないかな」という発想になると思います。
 それから、自分一人で考えないことですね。一人で悩んでいてはブレークスルーできなかった問題を東京商工会議所のアドバイスで突破できたり、異業種の人とのつながりで解決できたりするものです。私の場合、40代後半に早稲田大学や中央大学のビジネススクールに通うことで、感度の高いサラリーマンや経営者の人たちと交流を持つことができました。現在も、交流が続いているんです。
 ビジネススクールに参加したきっかけは、基礎的な学力や知力、そして価値のある情報を得て、社長である私の知識データベースを上げないといけないと感じたからです。デジタル化やグローバル化といわれているなかで、宝石の業界だけにいると、そういった知識が遮断されてしまうため、すごく危機感を持っていました。

株式会社セルビー

■本社: 〒110-0016 東京都台東区台東3-41-4

■設立: 2001年2月

■資本金: 2,500万円

■従業員数: 23名

■事業内容: 宝飾品買取・販売事業、デジタル事業(システム開発、サイト構築)

■企業HP: https://www.selby.co.jp/

提言内容の解説

Ⅰ-3 顧客ニーズや異業種の取り組みなどの情報収集、人脈形成などの社外活動の重要性
 イノベーション活動に取り組むうえで、そのきっかけとなる顧客ニーズ、イノベーションのヒントを経営者が積極的に社内外で収集することが重要である。
 松谷社長は、他業界では当たり前の技術や方法で、当業界の課題が解決できるケースがあるという考えのもと、他業界の成功事例、情報を積極的に収集している。過去に受講したビジネススクールで知り合った経営者仲間とはいまでも情報を交換し、自社の業界だけでなく、イノベーションが活発に起こっている業界の情報を収集し、自社の取り組みのヒントとしている。

Ⅱ-1 イノベーションの実現、成果創出に向け、オープンイノベーションが重要 Ⅱ-3 ノベーション創出に向けてサプライチェーンを超えた連携を図るべき
 既存の発想や取り組みを越えた、革新的なイノベーション活動に取り組み、成果を創出していくためには、既存事業の関係先・取引先だけでなく、異業種や大学・研究機関など、サプライチェーンを超えた連携を図っていくことが重要である。
 セルビーでは、作業効率の改善、生産性向上に向け、AIを活用したEC用画像補正システムを開発するにあたり、AI開発に知見のある大学教授と連携することで、システムを完成させることに成功した。

イノベーション創出に向けたポイントをまとめた『中小企業のイノベーション促進に向けた提言』は こちら