東京商工会議所

高機能化木材を開発し、
“木材を社会の役に立てる”

細田木材工業株式会社製造業

代表取締役社長 細田悌治
(ほそだ ていじ)氏

細田木材工業のイノベーションの特徴

●仕入れた木材をそのまま顧客に販売するのではなく、木材に付加価値をつける取り組みを実践
● “高機能化木材”“小径木や残材を使った新商品”を開発し、販路を拡大
●木材の高機能化に向け、知識技術を網羅的に学べる人材育成制度を構築

40数年前、新木場に700社以上あった木材会社。木材を使った建築物の減少、海外メーカーとの競争激化などの影響を受け、いまでは100社近くまで減少。その中でひときわ存在感を放つのが細田木材工業だ。他社が追随できない高機能化木材、新商品の開発に取り組み顧客の信頼を勝ち取っている。

「燃えない、腐らない、くるわない」に挑戦

――どのような経緯でイノベーションに取り組んだのでしょうか。

細田社長 和室が減るといった住環境の変化で、木材の需要が減少しました。また、安価で工賃も抑えられる木材を武器に、中国をはじめとする海外の木材加工メーカーが木材業界に参入してきました。
 こういった環境の変化に危機感を抱き、生き残るにはどうすればいいのか考えるようになりました。細田木材工業には「我々は天の恵みである木材を社会の役に立てる使徒であることを自覚しその使命を誇りとする」という“信条”と呼ぶものがあります。
 創業者である私の父細田三郎は、東京で初めて木材乾燥工場をつくって乾燥した木材を最初に広めた人物です。
 木材は乾燥していないと変形や割れが起こるため乾燥させる必要がありますが、戦後の復興期は需要がたくさんあったので、業者はどんどん乾燥していない生木を卸していたそうです。そんなことではいけないと、乾燥工場を建てたわけです。
 木材を社会の役に立てたいという創業者の精神は、脈々といまも受け継がれています。では、木材を社会に役立てるとは、どういうことか? それは、木材に付加価値をつけること。その答えに辿り着いて、イノベーションに取り組み始めたのです。

――付加価値をつけるために、具体的に何をしたのでしょうか?

細田社長 仕入れた木材を何もせずにお客さまに販売するのではなく、これまで他社に任せていた木材の確認を我々の目で見て確かめ、用途に合わせて材料を仕分けして、加工や塗装をして付加価値をつける。そして、設計や施工まで行える一貫体制を整えました。材料を探すところから関わりますから、お客さまに安心していただけます。
 次に、木に価値をつけるため、燃える・腐る・くるうという木材の3大欠点の解消に挑みました。
 まず、燃えない木材。いま、国は国産材の利用を推進しており、公共の建築物などに木を使う方針をとっています。この政策に貢献するとなると主に大勢人が集まる都市部で使われるため、燃えない木でないと許可されないのです。そこで不燃木材に取り組もうと、2017年に生産設備を設置して製造を開始しました。
 それから、今後、環境問題が非常に重要な課題になると睨み、サステナブルな植林木から出た木材で機能が高い商品をつくれるものをずっと探していました。そんななか、ニュージーランドのラジアタパインを化学処理したアセチル化木材といって、腐ったり、くるったりしにくく、耐用年数は地上で50年、地中や淡水中で25年という商品を見つけたのです。
 通称アコヤというのですが、アコヤを使って木材を社会の役に立てようと、2016年から取り扱いを始めました。

東京上野動物園休憩所の軒下天井に細田木材工業の不燃木材が使われている。

他社や外部機関と協力する

――イノベーションに取り組む上で心がけたこと、また必要なことはありますか?

細田社長 この業界で長く利益につながるものはないと思っています。したがって、イノベーションに限ったことではありませんが、時代の流れをしっかりとつかみ、そのニーズに対応していくことは欠かせません。そのため、価値のある情報を常に探し、次のビジネスを考えています。
 現在のニーズは、脱炭素をはじめとした地球環境に配慮した商品ですね。細田木材工業も環境に貢献できないかと、多摩地区に広大な森があると聞いて視察に行きました。しかし、小径木ばかり。太い良質な木を育てるには、森に日差しを入れるための間伐が必要ですが、採算が合わないという理由であまり行われていなかったのです。
 小径木のため、これまで当社がつくってきた商品には使えないけれど、林地残材は10~15センチ角に加工すれば何かできるのでは、と社員から提案があり「SQUARE WOODS TAMA」をつくったのです。木タイルの取り外しができるため、色や形をカスタマイズできて、写真も貼れるので、会社や学校の歴史を記したパネルに使ってもらっています。
 もう一つ、多摩産の木を使ったのが「きえすぎくん」です。中小企業は技術を持っているけどデザイン力がない、一方デザイナーはアイデアがあってもそれを形にする技術や手段がないという話を聞いて、「東京ビジネスデザインアワード」というメーカーとデザイン事務所をマッチングする企画に参加しました。そこで「木材の加工や塗装ができます。アイデアをなんでも提案してください」と募集すると、すぐに3社くらいからアイデアが出てきました。そのなかに「木でホワイトボードができませんか?」というものがあったのです。木は普通に考えればマーカーで書けたとしても滲んでしまい、また消せませんよね。ところが、当社は木材の塗装に長年携っているので技術と経験を持っているわけです。どうせなら多摩産の木材を使おうと決め、デザイナーと試行錯誤を重ねて木のホワイトボード「きえすぎくん」ができました。
 これがグッドデザイン賞を受賞したほか、Forest Good2018 間伐・間伐材利用コンクールの製品づくり・利用部門にて間伐推進中央協議会会長賞を受賞。
 小径木や残材を使ったのは、当社にとって大きなイノベーションでした。

――商品を開発するのに、人材の教育が欠かせなかったのでは?

細田社長 そうですね。新たな商品の開発に、人材育成は必須です。当社ではウッドスペシャリストプラグラムという独自の人材育成プログラムがあって、入社してから3年間は木材の基礎を学び、その後さらに高度な勉強をします。
 また、塗装の技術コンサルタントに来てもらい、一から塗装技術を学ぶこともします。中小企業ですから、外部の支援、協力が不可欠です。
 一生懸命社会貢献に取り組むことで、「この会社なら協力するか」と思ってもらえるような会社でいることが大切だと思っています。

SQUARE WOODS TAMA



きえすぎくん

情報共有で、「面白い、売ろうじゃないか」をつくる

――不燃木材、アコヤ、SQUARE WOODS TAMA、きえすぎくん、とイノベーションを起こすときに、どのような壁がありましたか?

細田社長 最も大きな壁は、イノベーションで生み出した商品を、社員にモチベーション高く売ってもらうことでした。みんな新しい商品には抵抗感を持っていて、最初は積極的に売ってくれない。

――どのようにして壁を乗り越えたのでしょうか?

細田社長 こうすれば売れる、この商品はお客さまの役に立つぞ、と社内で浸透させることです。
 そのために有効だったのは、担当者が商品に関するさまざまな情報を共有することでした。毎週月曜に行っている経営幹部の朝礼で新商品をどのような計画で売ったのか、その結果どうだったか、誰が新規顧客になったのかといったことを共有しています。良いことばかりではなく、問題点も共有することで、不思議と「面白い、売ろうじゃないか」と社員が一丸となり、自発的に売ってくれるようになったのです。

社員一丸となって、社会の役に立つ木材を生み出している。左から、染谷龍一部長、奥村永徳副社長、細田社長、小川晃取締役部長。

■本社: 〒136-0082 東京都江東区新木場2-5-3

■設立: 1931年11月

■資本金: 9,500万円

■従業員数: 34名

■事業内容 高機能化木材(不燃木材・アセチル化木材アコヤ)・ウッドデッキ材(イペ材)・フローリング材・木製インテリア・各種木材製品の製造、販売・木材製品の加工、塗装・床工事(フローリング、置床)・ウッドデッキ工事・内装木工事

■企業HP: https://www.woody-art-hosoda.co.jp/

提言内容の解説

Ⅰ-1 未来の社会構造、自社のありたい姿を見据えた「未来志向」の重要性
 中小企業・小規模事業者が経営戦略を検討する際、成果をあげている既存事業における業務効率化や利益最大化を目指す「深化」の取り組みとあわせて、未来の社会構造やニーズを意識し、自社の強みや経営資源が適合可能なマーケットを探索する「未来志向」の考え方が重要となる。
 細田木材工業では、海外加工メーカーとの競争激化や和室の減少による需要低迷など、さまざまな環境変化に直面し、「現状のビジネスモデルでは自社の未来はない」という強い危機感を持った。そこで「木材付加価値創造会社」の理念に立ち返り、他社が追随できない高機能化木材開発に着手し、事業転換に取り組んだ。

Ⅰ-5 経営理念・ビジョン・中長期の明確な目標の浸透による社員の前向きな意識醸成、組織づくりの重要性
 環境変化が加速化する中で、継続してイノベーションを創出できる「再現性・持続可能性」のある組織づくりが事業の継続、成長のためのポイントとなる。
 細田木材工業では、「木材の高機能化」に向けた具体的な取り組みとして、「ウッドスペシャリストプログラム」を立ち上げ、知識・技術を網羅的に身に着ける人材育成制度を構築した。その他、イノベーションを継続的に創出できる組織作りに向け、ドラッカーの勉強会を長年続けているほか、毎週経営幹部会議を開催し、商品やニーズに関する情報を共有している。

イノベーション創出に向けたポイントをまとめた『中小企業のイノベーション促進に向けた提言』は こちら