ヒットは必ず生める

第5回 プロダクトアウトでいこう

2017年5月2日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年12月10日号

「ヒットを必ず生める、と信じて動いた企業だけが答えを出せる。」ヒットを生んだ企業がどう動いたかを事例で解説します。(全6回)

 三重県の紀北町、熊野古道への入口にある小さなトマト農園が製造販売しているジュースの話をしましょう。
 「デアルケ200%トマトジュース」という名で、価格は500mlで3480円=写真。高級トマトジュースといえば1000mlで1000円がいいところですから、その高価格ぶりは際立ちます。しかし、登場以来、人気は急上昇。今も注文から1・4カ月待ちという状況です。


200%って何?


 このトマトジュースが成功したのには2つの理由があると思います。
 まず、ジュースの製法を独自のものにしたこと。この農園の主人は「世の中にある従来のトマトジュースに満足できなかった」といいます。では、どんなトマトジュースが理想?「糖度が極めて高い、つまり、びっくりするほど甘いトマトジュースを作りたかった」。それを果たすために、搾った果汁を7時間以上、半量になるまでコトコトと煮詰めていくという製法を採用したのだそうです。煮詰めた後は、何度も何度も濾します。その結果、口に含むとトマトの甘みが爆ぜ、その後で喉をすうっと落ちる、極みのジュースが完成しました。他のジュースでは体験しえない陶酔感を誘う出来栄えです。
 理由の2つめ。それはジュースのネーミングでしょう。農園の主人は、ここでかなり頭を悩ませたらしい。「濃密とか濃厚とか、平板な名称ではアピールできない」と考えたからです。最後に頭に浮かんだのが「200%トマトジュース」。屁理屈といえばそうなのですが、半量になるまで水分を飛ばしている、という製法にかなった呼称ですし、何より、「どういう意味なの」と、消費者の興味をそそります。
 ここは、とても重要なポイントです。ネーミングやキャッチコピーにおいて「他の商品に置き換えても違和感のない表現」では消費者に刺さりません。「この商品でしかあり得ないネーミング(=200%)」は、やはり強い。“伝わる力”“注目される力”を生むには、この点を忘れてはならないと思います。


旗を掲げること


 この2つの事柄をさらにまとめる形で表現するなら、次のようになります。
「作り手が『その商品はどうあるべきか』という旗を掲げることが大事」。
 どのような商品ジャンルでもそうです。腕時計はどうあるべきか、調理器具とはどうあるべきか、そしてジュースとはどうあるべきか……。その旗が正解かどうかは、極端な話、おいていい。まずは作り手の考えが商品に宿っているか否かが重要です。デアルケの場合、「トマトジュースとは、すなわち糖度だ」という旗。消費者は、その旗に反応したわけです。
 こうした開発手法を、マーケティングの世界では「プロダクトアウト」といいます。消費者の意向を探るよりも、まずは何をもっても、作り手側の考えを優先して商品づくりするというもの。
 普通に考えれば、プロダクトアウト型商品というのは、作り手の独り善がりになると思われがちです。しかし、実際には、大ヒット商品はプロダクトアウトから生まれることが多い。それはそうです。この手法からは、素人には到底考えられないような商品が登場する可能性が高いわけですから。
 つまり、作り手は、自らの着想にもっと自信を持って良い、という話です。

  

  


執筆者:商品ジャーナリスト 北村 森

掲載:東商新聞 2016年12月10日号

以上