ヒットは必ず生める

第4回 過剰品質で攻める中小企業

2017年4月25日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年11月20日号

「ヒットを必ず生める、と信じて動いた企業だけが答えを出せる。」ヒットを生んだ企業がどう動いたかを事例で解説します。(全6回)

 4年ほど前のことだったと記憶しています。とある経営者の先輩が携えていた書籍が面白そうで、ちょっと借りて、パラパラとめくっていました。それは中小企業の社長のインタビュー集。
 あるページにつづられていたのは…。
 「日本のものづくりの定義は過剰品質です」「過剰品質は目に見えない部分にも気が配られている」。そして「過剰品質を裏付けているのは、過剰な愛情」。
 この言葉に、膝を打ちました。


大手のターゲットは


 過剰品質という言葉は、この20年間、とかくマイナスの意味で用いられてきた印象があります。グローバリゼーションが進む中で、日本型の過剰品質追求は競争において不利、と。
 しかし、考えてみれば、全ての商品が世界規模で戦うわけではありません。グローバリゼーションと無縁の製品やサービスも、多数存在します。「そこまでやるか」と消費者やライバル企業を感嘆させる過剰品質は、むしろ少なからぬ商品領域で武器になるはず、と思い直しました。
 少なくとも、大手企業と真正面からぶつかる商品カテゴリーで中小企業が対抗するには、価格訴求は難しい。ならば、過剰品質の追求こそが大事なのではないかという話です。
 例えば、大手コンビニエンスストアが展開する数々のスイーツ。あるコンビニのスイーツ開発担当者によると「想定するライバルは、街の和洋菓子店です」とのこと。驚きました。攻め入る相手は競合するコンビニでも有名パティシエの店でもなく、商店街の個人店こそがターゲットだというのです。
 このような動きに、街の小さなお菓子屋さんがあらがうには、もう過剰品質しかない、と私には思えます。
 話を戻しましょう。冒頭で紹介した言葉を発したのは、東京・墨田区で純国産のTシャツを製造・販売し続ける、久米繊維工業の経営者です。そのTシャツは根強い人気を誇っていますから、ご存知の方も多いでしょう。


1着が1万1000円


 同社には「色丸首」というフラッグシップ的な商品があります。これは1950年代に初めて製品化された国産Tシャツを現代に復刻させたモデル。ただ復刻させたのではなく、その素材選び、染色から縫製まで全てを見直し、まさに過剰品質を貫いたところが売りで、値段は税別1万1000円。
 この1着、久米繊維工業の持つ技術やセンスを全て投入したTシャツと感じさせます。着心地は最高。
 ただ、その「粋」は、同社の標準的な2000円台のTシャツにも見て取ることができます。藍鉄や山吹といった“和の色”の採用もそうですし、側部に縫い代のない丸胴の仕様であるところもそうです。こちらも過剰品質。
 Tシャツというのは、考えてみれば、衣類の中でも最も身体に触れる面積の多い商品です。だからこそ、過剰品質は文字通り、身をもって体感できます。大手の安いTシャツとの違いは、おそらくファッションアイテムに聡い人でなくとも、すぐに分かるはず。だから同社のTシャツは、海外生産でコストを落とした大手の商品に対抗できているのだと思います。
 思い出しました、あの一冊の書名を。「経営者の挑戦が未来を拓く」。ほかならぬ東京商工会議所編の書籍でした。

  

  


執筆者:商品ジャーナリスト 北村 森

掲載:東商新聞 2016年11月20日号

以上