ヒットは必ず生める

第3回 そこまでやるか、で勝負を

2017年4月18日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年11月10日号

「ヒットを必ず生める、と信じて動いた企業だけが答えを出せる。」ヒットを生んだ企業がどう動いたかを事例で解説します。(全6回)

 大手メーカーに比べて、人的にも資金面でも厳しい中堅中小企業は、商品開発力で見劣りするのか。とりわけ、新しい技術の発見においては……。
 いや、そうともいえないケースがあるのです。たとえば、四国・徳島の衛生検査会社が、地元の漁師と一緒に取り組んだ話。獲れたばかりの海苔というのはべらぼうに美味しいのですが、半日もすれば変質するので、そのままでは流通できません。それを可能にしようと、国内の大手メーカーは40年近くも研究を続けたといいますが、果たせなかった。この衛生検査会社は社員数20人ほどなのですが、それを、わずか1年半でやってのけました。冷凍状態から戻しても“生きている”ような海苔になる技術を見出したのです。


全ての組み合わせを


 なぜそれができたのか。聞けば、「冷凍温度、冷凍時間、水分含有率」で考えられる全ての組み合わせを、愚直なまでに試し続けたそうです。つまり、愚直さが勝負の鍵になる局面がある、ということなのです。
 これとまったく同じ事例があります。名古屋市の町工場、愛知ドビーが開発した「バーミキュラ」。2010年発売の鋳物ホーロー鍋です。2万円台半ばという高価格、しかも無名の会社の製品であるにもかかわらず、発売以来、クチコミで人気が高まり、いっときは実に15カ月待ちにもなり、累計販売数では20万個を突破しています。
 鋳物にホーロー掛けする技術というのは、先ほどの海苔と同様に、大手メーカーが長年研究を続けていたのですが、物にできなかったそうです。従業員50人足らずだった愛知ドビーは2年で実現してしまいました。やはり、全ての組み合わせを、ただただ真面目に試した結果だった、とのこと。
 そうであれば、大手企業も愚直に実験すれば良いのに、と思うところですが、おそらく、「後がない」という切実感が中堅中小企業と違うのではないでしょうか。気の遠くなるような実験でも、それに立ち向かうしかない、答えを出すしかない、という必死さの違いともいえます。ちなみに、生きている海苔を物にした衛生検査会社も、この愛知ドビーも、もともと有していた専門領域とは異なる分野での成功、というところも本当に驚きに値します。


大手どころに挑む


 この愛知ドビー、今年12月に新商品を投入します。「バーミキュラ ライスポット」という高級炊飯鍋です=写真。炊飯器ではなく、炊飯“鍋”なのです。
 バーミキュラの周りをIHの熱源でぐるりと包んだ構造の商品で、ご飯を炊く機能がメインですが、鍋だけに、食材の煮炊きやローストにも向きます。
 値段はというと、税別7万9800円。私はこの価格設定に唸りました。
 なぜか。これは大手家電メーカーの高級炊飯器と、どんぴしゃりでぶつかる価格です。8万~10万円の高級炊飯器は、2006年に三菱電機が商品を投入して以来、景気の波にさほど左右されず、人気を形成してきた市場です。
 愛知ドビーは、大手がひしめく市場に、真っ向から乗り込んだ格好です。さあ、その結果はどうなるか。
 現時点で言えるのは、バーミキュラ ライスポットで炊いたご飯は、既存の高級炊飯器で炊いたものを凌駕するほどの出来栄えである、ということです。

  

  


執筆者:商品ジャーナリスト 北村 森

掲載:東商新聞 2016年11月10日号

以上