ヒットは必ず生める

第2回 宝物は得てして足許にある

2017年4月11日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年10月25日号

「ヒットを必ず生める、と信じて動いた企業だけが答えを出せる。」ヒットを生んだ企業がどう動いたかを事例で解説します。(全6回)

 ヒット商品を生み出すための素材はどこにあるのか、と、しばしば尋ねられます。私の返事はただひとつです。「企業の足許にあるはず」という答えです。
 私が最も忌み嫌うのは「急ごしらえ、厚化粧、必然性なし」の商品開発です。
 その企業が作る意味の弱い商品、よそから慌てて持ってきた技術……それでは、売れる商品は作り出せないと思うのです。迷ったら足許を見る。それが大事なのではないでしょうか。


「気まぐれ」すぎる


 実際、足許を見直して成功に結びつけた商品は多いのです。例えば、北陸地方の老舗和菓子屋。時流に乗りそうな和洋折衷の菓子を何度こしらえてもヒットしなかった。それはそうです。そんな商品はいくらでもあります。
 最後は、その店に江戸時代から受け継がれる技術をフルに使って、「21世紀にふさわしい干菓子」を開発しました。するとたちまち大ヒット。観光庁のアワードも受賞しました。要は、自分の得意分野に戻ったわけです。
 今回の本題はここからです。「足許の宝物」どころか「ゴミ箱行きの素材」から、優れた商品を作り上げた事例を紹介します。
 静岡県の掛川市では、高級コットン生地の生産が盛んです。その名を「掛川コットン」といいます。
 日本国内ではさほど有名ではないのですが、欧州ではハイブランドがこぞって仕入れるほど、海外でその実力を認められています。国内でも、高級シャツやストールが一部のファンに評価されています。超極細の綿糸を織り上げていて、絹のように肌触りが滑らかで、かつ、とても軽いのが魅力。
 福田織物という企業は、この掛川コットンの製造に携わる1社です。
 同社のウェブサイトのさほど目立たない位置に、直販のページにつながるリンクがあります。そこで扱う商品のひとつが「気まぐれ手ぬぐい」。
 何が気まぐれか……。まず、いつ発売になるか分からない。すごく気まぐれな話です。売り出されても、いつもわずか数日間で品切れになります。
 そして、たとえタイミング良く購入できたとしても、どのようなサイズのどのような柄の手ぬぐいが届くのか、封を開けないと分からない、ときています。気まぐれにもほどがある、と言っていい。
 想像がついた読者の方が、もういらっしゃるかもしれません。
 この「気まぐれ手ぬぐい」というのは、シャツやストールを生産して残った端切れを用いた商品なのです。


もったいない


 欧州ブランドのプロたちから、すこぶる高い人気を集めるコットンです。それに何と言っても、希少な極細の糸を丁寧に織った生地でもあります。
 端切れだからといって、そのままゴミ箱に捨ててしまっていいのか、という経営者の疑問から、この「気まぐれ手ぬぐい」が生まれました。そうと知ると、がぜん興味が沸いてきませんか。
 価格は税込みで2160円と安くはありません。でも、買う側にとっては、超高級コットンの美点を体感できます。しかも購入するたびに、どんな生地が届くのかと楽しみが募ります。福田織物にすれば、端切れを生かすと同時に掛川コットンの粋を消費者に伝えられるわけで、その効果は多大なはず。
 とても痛快な商品だと感じますね。

  

  


執筆者:商品ジャーナリスト 北村 森

掲載:東商新聞 2016年10月25日号

以上