小さな会社を強くするマーケティング

第2回 シンボルをつくろう

2017年1月24日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年7月20日号

 前回述べたとおり、消費者が中小企業に期待する“強み”として、圧倒的に多いのは、「個性」である。ところが、現実の小さな企業をみると、この点に課題を抱えるケースが多い。中小企業に対する消費者の声をみても、「個性」に関連する不満が多くみられる。いくつかピックアップしてみてみよう。
 「個性ある商品が少ない」「品ぞろえが画一的な感じで、面白みがない」「ここにしか置いていないと言うこだわりの品を置いてほしい」
 このように、小さな企業の強みであるはずの「個性」を生かせていない。それどころか、消費者の不満要因になっている。小さな企業が顧客を生み出すためには、特色ある個性が欠かせない。では、どのように「個性」を形にし、伝達していけばよいのだろうか。

シンボルはあるか


 突然だが、あなたは、次の文章の空欄に、どのような言葉を入れるだろうか?
・シンガポールといえば、「   」。
・マレーシアといえば、「   」。
 全国の消費者1000人に空欄に自由に言葉を入れてもらったところ、シンガポールについては、驚くべきことに1000人中なんと503人もの回答者が「マーライオン」と記入している。一方、マレーシアは「とくにない」という回答が圧倒的に多い。隣国ながら対照的な結果だ。


イメージが浮かばないと選ばれない


 シンガポールは、とても「小さな国」である。面積は、私の住む静岡市のわずか半分。資源も少ない。にもかかわらず、存在感があり、観光客の人気も高い。マーライオンの写真を一目見れば、国のイメージも浮かんでくる。たった一つのシンボルが、国のイメージを集約し、個性を伝え、魅力を発信してくれるのである。
 一方、マレーシアはどうか。面積はシンガポールの500倍。この国には世界遺産も複数あり、美しいビーチリゾートも、さわやかな高原リゾートもある。観光は、マレーシアの主要産業のひとつであり、国をあげて観光客の誘致に取り組んでいる。だが、シンボルがない。
 「観光に行くとすると、どちらの国に行きたいか」を聞いてみると、圧倒的多くが、超小国の「シンガポール」を選ぶ。まさに、「マーライオン効果」だ。


自社の“マーライオン”は何か


 「小さな企業」も同様だ。個性を発信し、消費者に選ばれるためには、「シンボル」が欠かせない。たとえば、洋菓子店をみてみよう。流行っている店をみると、「この店のロールケーキは絶品」だとか、「この店はフルーツタルトで有名」など、シンボルを持つ店が多い。一方、「すべてのケーキが平均的に美味しい洋菓子店」は流行っていない。
 「マーライオン効果」はデータからも検証される。表は、消費者データを用いて、「核となる商品の有無」と「顧客満足度」の関係をみたものである。
 核となる商品がある企業に関しては、消費者の63%が「満足」している。一方、核となる商品がない企業に関しては、「満足」している消費者の割合は、わずか14%。核となる商品がある企業の5分の1しかない。シンボルのある企業は、顧客満足度が高いのである。
 さて、あなたにとっての「マーライオン」は何だろうか。


  

  


執筆者:岩崎邦彦
静岡県立大学教授・学長補佐・地域経営研究センター長。専攻はマーケティング。著書に「小が大を超えるマーケティングの法則」「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」「小さな会社を強くするブランドづくりの教科書」(いずれも日本経済新聞出版社)などがある。

掲載:東商新聞 2016年7月20日号

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