アジアビジネスの視点

最終回 日本の過去にアジアの将来

2016年11月22日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年8月20日号

21世紀に入って、日本企業は「成長するアジア」に希望を見いだし、活路を求めてきたが、中国経済の急減速、タイやマレーシアの政治混乱、アジア全体を覆う人件費の高騰など今、アジアは転機を迎えています。そこで見落とせないビジネスの視点を紹介します。(全5回)

これからのアジア経済は過去10~15年に経験した突き抜けるような伸びではなく、停滞、混乱の予感も漂っている。南シナ海問題はアジアを政治的に分断するだけでなく、いずれ経済面にも影を落とすだろう。為替の変動、資源価格の先行き、人件費上昇など経営を揺さぶる要因も相変わらず多様だ。アジアへの進出にはリスクばかりが目立ち、踏み出す足が止まってしまいかねない。
 そんな時は高度成長期とそれに続く時代の日本を思い出して、次の一手を考えるのはどうだろうか。その時代の日本も一本調子ではなく、石油危機、貿易摩擦、円高など様々な混乱、困難を経験しながら先進国に駆け上って行った。アジアの人々はまだ「坂の上に雲を見ている」はずだ。


白物家電、車が生むチャンス


 アジア全体を見ると、耐久消費財では白物家電やテレビのような基礎的なものの需要が成熟化する国が増えてくるが、耐久消費財が作り出す二次的、三次的な商品に次のチャンスが巡ってくる。単純な例で言えば、テレビ台や冷蔵庫内の消臭剤などだ。冷蔵庫が売れれば、当然、冷蔵・冷凍食品の販売が伸びる。エアコンの効いた部屋では家具やホームウエアもそれ以前とは変わってくる。
 その先にはモータリゼーションが控えている。車は個人が買う商品としては自宅に次いで高額であり、周辺ビジネスも巨大だ。アジアの大都市は道路渋滞と共に駐車場不足が深刻化しており、立体駐車場のシステムや路上駐車での盗難防止機器の需要が立ち上がっている。道路整備が進めば建設関係だけでなく、道路標識や信号、街路灯などの需要が生まれる。車が増えれば、反作用のように渋滞緩和のための地下鉄、鉄道整備も本格化する。新幹線のような巨大プロジェクトが進めば、工事や車両など本筋だけでなく、駅構内の広告から駅弁、さらに多彩な店を集めた駅ナカビジネスが生まれる。
 振り返れば、1960年代の日本の駅は簡単な売店と靴磨きくらいしかサービス産業はなかったが、今や日本の鉄道駅はビジネスチャンスであふれている。そうした成熟化の中で、新ビジネスを創出し、磨いていくのは日本の得意技であり、アジアの大半の国に応用できるはずだ。「もうこれ以上伸びない」と思った時には昔の日本に立ち戻ればアイデアは生まれる。

日本企業の商品力


 単純で、単価の安い商品分野では日本企業はもはやアジアでは戦えないと思われがちだが、そうではない。日本のお菓子はアジアの大都市であればスーパー、コンビニで必ず見かける。製法や味に加え、商品の洗練度が高いからだ。それ以上に興味深いのは文房具だ。ボールペン、子供の学習用ノート、筆箱など日本メーカーの商品は圧倒的な競争力をアジアで発揮している。子供の嗜好に合い、高品質だが単価の安い文房具を作れるメーカーを持つ国は世界でもわずかしかない。それも日本が戦後ベビーブームと所得の向上の中で、急膨張した子供市場を獲得しようとメーカーが過剰ともいえる競争で商品力を鍛えた結果だ。
 1980年代以降の日本商品のアジアへの浸透は現地富裕層への高付加価値商品から始まり、次第にボリュームの大きい階層に向かった。いわゆる中間層向けのビジネスだ。そして6、7年前に盛んに言われたのが「BOP(Bottom of Pyramid)」つまり所得階層の最下層だが規模の大きな低所得層へのアプローチだった。ただ、BOPは笛吹けど踊らず、言葉も消え去った。結果的にみれば最下層の所得上昇スピードが日本企業のBOP対応の速度より早かったということだろう。
 中小企業にとっても中国内陸、ASEAN、インドなど幅広い地域で日本の高度成長期以降の経験を活かせる時期が来ている。



執筆者:後藤康浩
亜細亜大学都市創造学部教授。日本経済新聞社アジア部長、編集委員を経て、2016年4月より現職。著書「ネクスト・アジア」など多数

掲載:東商新聞 2016年8月20日号

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