アジアビジネスの視点

第4回 都市から見る中国

2016年11月15日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年8月10日号

21世紀に入って、日本企業は「成長するアジア」に希望を見いだし、活路を求めてきたが、中国経済の急減速、タイやマレーシアの政治混乱、アジア全体を覆う人件費の高騰など今、アジアは転機を迎えています。そこで見落とせないビジネスの視点を紹介します。(全5回)

 中国でビジネスを考える人がまず拠点として思い浮かべる都市トップ3といえば、上海、北京、広州だろう。製造業においても、小売業においても不動のトップ3である。その次に大連や蘇州、最近の内陸志向を考えれば武漢や西安、重慶を考える人もいるかもしれない。日用雑貨、小物の仕入れなら義烏(浙江省)もよく知られた街だ。
 だが、中国経済が成熟化する中で、伸びる街は大きく入れ替わりつつある。今、注目すべきは「SZH」だろう。Sは深圳(Shenzhen)、Zは北京市内北西部の中関村(Zhongguancun)、Hは杭州(Hangzhou)である。3都市の頭文字を並べればSZHとなる。

<イノベーションの街「深圳」>

 深圳はもちろん上海、北京と並ぶ一級都市であり、最初から思い浮かべる人もいるだろう。ただ、そのイメージは電機・電子分野を中心にした大量生産のモノづくりの街というものであり、今の中国経済の動向では先行きが不透明と考える人も多いはずだ。だが、今、深圳は世界でも頭抜けた「イノベーションの街」となった。世界知的所有権機関(WIPO)が集計する企業別の国際特許出願件数で、2014、15年と2年連続でトップに立ったのはスマホや基地局設備で世界トップを争う華為技術(ファーウェイ)である。2015年では2位の米クアルコムを挟んで、3位に通信機器メーカーのZTE。世界の1、3位が深・企業なのだ。
 中国国内の特許出願件数を出願企業が本拠を置く都市別にみると、驚きだ。出願全体の46.9%が深・で、2位の北京の15.8%の3倍、3位の上海の3.7%に大きく水を開けている。深・には華為、ZTEだけでなく、SNSの微信で知られる騰訊(テンセント)や液晶パネルメーカーの華星光電技術など開発力で台頭した企業が多い。中でも今、世界が注目しているのはDJIである。イベント会場の監視、モノの配送、テレビの空撮など用途が急激に広がる商用ドローンの世界シェアが70%というトップメーカーで、売り上げは既に1200億円(2015年)に達している。2006年にまだ学生だった汪滔氏が創業した企業で、この3年間で驚異の成長を遂げた。深圳には「創業板」と呼ばれるスタートアップ企業が上場する株式市場もあり、多様な研究開発型企業が誕生し、世界市場を目指してる。

<ネット分野ベンチャー「中関村」>

 2番目は北京だが、大手国有企業の立地する朝陽区など中心ではなく、中関村を挙げた。多数の大学が周辺に立地する中関村には20年前から多くのベンチャー企業が台頭していたが、今はそれがさらにグローバルレベルになった。液晶パネルの京東方科技、スマホメーカーとして彗星のように表れた小米科技、中国で圧倒的なシェアを持つネット検索エンジンの百度、ネットポータルの新浪網、ネット小売りの京東城などIT、ネット分野に有名企業が並ぶ。

<ネット小売りの首都「杭州」>

 西湖のある杭州は中国人も行ってみたい街の上位にあげる観光地だが、この街を世界に知られるようにしたのはネット小売りの世界トップを争うアリババである。アリババは中国のネット小売りで70%のシェアを持つとされるが、それ以外にも網盛生意宝など大手が本社を連ね、「ネット小売りの首都」になっている。
 一つの街に何かのビジネスが集中する理由は定かではないが、自由な空気、才能ある人たちにとっての住みやすさ、そして切磋琢磨を促す刺激、交通の便の良さなどがあるからだろう。中でも、改革開放が始まるまでは寂れた漁村に過ぎなかった深・が労働集約型の繊維、玩具に始まり、電子機器までモノづくりを進化させ、今や中国の「イノベーションの都」になったことには驚かされる。中小企業こそ伸びる街に注目しなければならない。


執筆者:後藤康浩
亜細亜大学都市創造学部教授。日本経済新聞社アジア部長、編集委員を経て、2016年4月より現職。著書「ネクスト・アジア」など多数

掲載:東商新聞 2016年8月10日号

以上