アジアビジネスの視点

第3回 “ASEANメーカー”を探せ

2016年11月8日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年7月20日号

21世紀に入って、日本企業は「成長するアジア」に希望を見いだし、活路を求めてきたが、中国経済の急減速、タイやマレーシアの政治混乱、アジア全体を覆う人件費の高騰など今、アジアは転機を迎えています。そこで見落とせないビジネスの視点を紹介します。(全5回)

 アジアを回っていると、企業の盛衰、生産拠点のシフトなど変化を映し出す現場に出くわすことがある。うっかりすると見落としかねない些細な事がほとんどだが、小さなファクトにこそビジネス拡大のヒントが隠れている。


ファクトに見るメーカーの盛衰


 昨年9月初め、バンコクのスワンナプーム空港で、ハノイに向かう便を搭乗ゲート近くの椅子に座って待っていた。近くに置かれたテレビに目を向けて画面の外に付けられたブランドを見て思わず「あっ!」と声を出しかけた「POLYTRON」と記されていたからだ。記憶をたどれば、3カ月前にはその場所には中国の「Hisense」ブランドのテレビが置かれていたはずだった。
 POLYTRONはインドネシアの家電ブランドで日本ではもちろんほとんど知られていない。Hisenseは中国メーカーで、日本の家電量販店でも今や当たり前に見かけるブランド。同じ中国の大手メーカー「TCL」などと並んで今や世界シェアで上位に食い込んでいる。そんな昇り龍の中国メーカーの座をインドネシアの新興メーカーが浸食するという現場だった。実はその場所には数年前には韓国のLGエレクトロニクスの液晶テレビが置かれていたが、中国メーカーにその場を奪われた。その昔、スワンナプーム空港が出来る前のバンコクの玄関口、ドンムアン空港には日本メーカーのテレビばかりだった。メーカーの盛衰、一国の産業の栄光と転落はまことにめまぐるしい。
 今年の1月、ラオスのタイ国境沿いの街、サバナケットを訪れた。インドシナ半島の産業動脈となりつつある東西経済回廊(ベトナム中部からミャンマー南部まで4カ国を通過する道路)沿線のサバナケットには新たな産業集積が生まれつつあるからだ。そこに進出した日本の大手ウイッグメーカー、アデランスの工場を取材で訪れた。生産状況を取材しながら、工場を回って気になったことがあった。屋内各所に置かれた大型エアコンのブランドだ。
 「TASAKI」というブランドが貼り付けられている。日本人なら「田崎」という漢字を思い浮かべるが、日本ではエアコンメーカーで耳にしたことがない。気になって、エアコンの側面の下につけられた銘板をのぞき込むと、どうやらタイメーカーだった。タイには「SAIJO」という著名な地場のエアコンメーカーがある。両ブランドとも日本メーカーと誤認されることを巧みに利用している印象があるが、重要なのは現地の日本企業が工場やオフィスに採用するほどの品質、機能の商品を生産していることだ。


“ASEANメーカー”の台頭へ


 エアコンや液晶テレビはすでに技術的に成熟し、部材、基幹部品も容易に調達できるようになっている。ともに成長するアジアの途上国では需要が伸びる商品であり、新規参入するメーカーは今後も増え続ける。今まで地場メーカーがなかった国にもメーカーが勃興するだろう。そこに昨年末に発足した「ASEAN経済共同体(AEC)」のような市場統合の動きが加われば、一国に閉じこもることなく、ASEAN全体を市場にするメーカーが台頭する可能性が高い。「ASEANメーカー」の誕生であり、数年前までアジアの途上国を席巻する勢いだった韓国、中国の勢いが衰えるなかで現実性は十分ある。
 ASEANメーカーにとって成長の追い風となるのは、日本、中国、韓国などの素材、部品供給だろう。実績のある部材を使い、設計や生産工程のノウハウも利用できれば、生産を軌道に載せる時間を短縮できる。日本の中小企業にとってみると、生まれたてのASEANメーカーと付き合い始め、そのメーカーの成長を部品供給だけでなく、ノウハウ面からも支援していけば、自社のビジネスの拡大にもつながる。中国でもASEANでも新興メーカーが次々に現れる。それを映す小さなファクトを見落とさないことだ。



執筆者:後藤康浩
亜細亜大学都市創造学部教授。日本経済新聞社アジア部長、編集委員を経て、2016年4月より現職。著書「ネクスト・アジア」など多数

掲載:東商新聞 2016年7月20日号

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