企業と従業員を守るメンタルヘルス

最終回 メンタルヘルスの予防策

2016年9月6日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2016年3月10日号

職場のストレス問題が深刻化するなか、労働安全衛生法の一部を改正する法律が成立しました。2015年12月から、従業員50人以上の全ての事業所に対し「ストレスチェック」が義務化されたのに伴い、中小企業ではどのようなメンタルヘルス対策を構築すべきかについて、その実務を解説していきます。(全6回)

従業員への意識付け


 メンタルヘルス対策の実務は、第2回で示したように、「まず社内ルールをガッチリ固めてから、従業員向け予防策を充実させる」のが基本だ。最終回は、「従業員向け予防策」について解説する。
 健康は、他人が代わって維持できるものではなく、一人一人の心がけの問題である。従って、企業側は、従業員の健康維持、向上をサポートするべく、正しい知識の普及等を行っていく。例えば、研修の実施、ポスターの掲示、小冊子の配布、社内報での呼びかけなどがこれにあたる。予算とタイミングを考えて実施していくと良い。また、従業員側には「自己保健義務」があることも周知する必要がある。心身を健康に保ち、労働契約にある労務を提供できるようにするのは働く側の務めだということである。労使が協力し、一人一人の健康を保持するプロモーション活動が大切である。
 意識付けでは、役員、管理職、一般従業員などの階層別に習得すべき内容がある。役員は経営課題やコンプライアンスとしての健康管理を意識し、管理職には現場の責任者として、不調者対応方法やルールを理解させる。そして一般従業員には自己保健義務を中心に学んでもらう。


相談窓口の設置


 変調・不調を感じたり、健康に関して不明の点があったりする従業員が、気軽に利用できる相談窓口の設置が必要である。これは、前述の意識付けが浸透する前に設置するのが大切で、早期発見・早期相談が大切である、という意識付けを行っているにもかかわらず、その相談先が整備されていないと、初期対応がうまくいかず、重症化を招く可能性があるからである。相談窓口としては、会社の保健室(健康管理室)であったり、専門業者が運営する外部のものであったり様々だが、いずれにせよ大切なのは、導入後の社内への告知、利用促進を怠らないことである。何のための窓口で、どういったことを相談できるのか、また相談を受ける担当者はどういう人で、プライバシーはどのように守られるのか、など十分に説明できるようにしておきたい。


職場環境の整備


 意識付けを行い、相談窓口を設置しても、肝心の職場環境が乱れていては予防にならない。メンタルヘルスに悪影響を及ぼす代表選手としては、過重労働とハラスメントが挙げられる。この2つは、労災認定の重要なポイントでもあることは、読者もお気づきのことと思う。まず、過重労働そのものを削減するのも大切であるが、過重労働した者に対するケアを法令通り、もしくは法令を上回るレベルで実施できるよう努力することが重要だ。
 ハラスメント対策のコツは、①ルール作り、②相談受付体制と事案解決フローの明確化、③周知啓発活動を①から順序よく行う事である。①では、社内における禁止事項をしっかり決め、②では相談から解決までのフローチャートを作成、そして①と②が整ったらそれを全社員に周知し、同時にハラスメントの基礎知識も与えておく。
 ここまでしておけば、万が一のハラスメント事案による紛争時も、会社の安全配慮義務を果たしていたと言う事ができ、企業防衛を意識した労務管理が実現可能となる。
 これまで解説した、中小企業でのメンタルヘルス対策構築の実務を元に、全ての企業がリスクマネジメント思考を持って従業員の健康管理を実施されることを希望したい。


執筆者:根岸 勢津子
プラネット社長。企業防衛の視点に立ったメンタルヘルス対策の専門家として上場企業70社を含む指導先は100社を超える。

掲載:東商新聞 2016年3月10日号

以上