トップアスリートから学ぶ勝者のメンタリティ

第5回 錦織のように、自己イメージを変えて成果を上げよう

2016年6月7日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2015年11月20日号

 11月15日から開催されるツアーファイナルズに錦織は2年連続で出場することが決まった。彼を偉大なテニスプレーヤーに仕立てたのは、2013年12月にコーチに就任したマイケル・チャンコーチであることは論を俟たない。
 錦織とチャンコーチの出会いは2011年に行われた東日本大震災のチャリティマッチにさかのぼる。現役を退いてもなお衰えないチャンコーチの勝負に対する意欲に錦織は敬意を抱いたという。実はそのとき、同年に行われたスイスの大会決勝でロジャー・フェデラーに完敗したことに触れてチャンコーチは錦織に向かってこう語ったという。

 「あなたは一つの大きなミスを犯しました。決勝前のインタビューであなたはこう言いましたね。『フェデラー選手と対戦するなんてワクワクします。彼は偉大な選手で昔から憧れの選手なんです』と。しかし、コートに入ったら『お前はじゃまな存在なんだ』と言い切る覚悟が必要なんです」
 初対面の自分に対して強い言葉をかけてくれたチャンに錦織は強烈な印象を刻み込まれ、彼をコーチとして迎え入れることを決断した。それ以降チャンコーチが錦織に厳しい練習を課して自己イメージを変えたことが彼の躍進の大きな要素であると考えている。
 世界ナンバー1のノバク・ジョコビッチを準決勝で破って見事に準優勝を果たした2014年全米オープンの大会中のインタビューでも、「もう勝てない相手もいないと思うので、できるだけ上を向いてやりたい」と語っていることが、その事実を物語っている。自己イメージとは、「自分自身に対して抱いているイメージ」のことをいう。残念ながらほとんどの人間が過小評価した自己イメージを抱いている。
 そのことをわかりやすく教えてくれるスポーツ界で有名な出来事が半世紀以上前に起こっている。実は、半世紀前までは「1マイル4分以内に走ることは生理学的に破れない壁」という神話がまかり通っていた。しかし、1954年、イギリスのロジャー・バニスターが4分の壁を破ると不思議な現象が起こる。他の選手が次々に4分の壁を破り、なんと1年以内に23人の選手が4分の壁を破ったのだ。これは選手の自己イメージが変わったこと以外に説明がつかない。
 努力が「蛇口から注がれる水の量」だとしたら、自己イメージはそれを入れる「容器の大きさ」である。そして「容器の中に溜まった水の量」がパフォーマンスである。いくら努力を積み重ねても、肝心の自己イメージという容器が小さければ、努力は簡単に溢れ出してしまう。もちろん、成績も出ない。
 それでは自己イメージを変えるにはどうすればいいのだろう。好ましいセルフトークを自分に語りかけることにより、簡単に自己イメージを変えることができる。「自分はもっと素晴らしい成果を上げることができる!」、「目の前の仕事において自分は断然ナンバー1の人間である!」。このような言葉を口癖にして目の前の仕事を最高のものに仕上げる努力を積み重ねよう。
 そうすることにより、自己イメージが変わり、結果的にあなたの思考・行動パターンに変化をもたらし、仕事の成果を大きく改善してくれる。努力を積み重ねる前に率先して自己イメージを描き直そう。それこそあなたを錦織のような一流の人間に仕立ててくれる切札なのである。


執筆者
児玉 光雄

1947年兵庫県生まれ。追手門学院大学客員教授。京都大学工学部卒。スポーツ心理学者。アスリートのコメント心理分析のエキスパートとして企業を中心に年間70回のペースで講演活動をしている。著書は『Kのロジック 錦織圭と本田圭佑 世界で勝てる人の共通思考』(PHP研究所)をはじめ180冊以上。

掲載:東商新聞 2015年11月20日号

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