トップアスリートから学ぶ勝者のメンタリティ

第4回 山本昌のように些細なことを持続しよう

2016年5月31日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2015年11月10日号

 中日ドラゴンズの山本昌投手は2015年シーズン限りで引退することを決意した。9月30日の引退記者会見で、「やり残したこともあるし、やり切った感じもある。引退に悔いはあるが、決断に後悔はない。いろんな人に支えられ、本当に幸せな野球人生だった」と語った。

 そして、10月8日の対広島カープ最終戦に一人限定で先発登板。カープの先頭打者丸選手を2塁ゴロにうち取りプロ生活を締めくくった。50歳での登板はもちろん日本プロ野球史上最年長記録である。実働29年のプロ生活を通して、山本は史上24人目の200勝だけでなく、2000奪三振も成し遂げた。この両方の記録をクリアしている投手はたった13人しかいない。ある時、山本はこう語っている。
 「突出した才能があるわけでもなかった僕が、200勝する投手になれたのはなぜだろう。人に誇れる能力があるとするならば、僕は『継続力』にあると思っている」
 山本がプロに入ってから一日も欠かさず持続している習慣がある。それは2キロのダンベルを使って手首を鍛える運動である。高校一年生のときに自宅近くのスポーツ店でこのダンベルを自分の小遣いで購入する。利き腕の左手で200回、右手で100回この動作を繰り返す。
 高校時代から現在まで、彼はよほどのことがない限りこの日課を欠かしたことがない。才能ではなく、持続という習慣が山本の偉業を達成させ、彼を一流の投手に仕立てたのだ。
 同じ事を3週間やり続けると脳は習慣としてそのプログラムを日々実行してくれるという。もちろん、好ましい習慣だけでなく、悪習慣も3週間止めれば葬り去ることができるようになる。持続できる習慣を自ら設定して、それを日々淡々とやり遂げる山本の姿勢は私たちに継続することの大切さをわかりやすく教えてくれる。
 もう一つ山本を一流の投手に仕立てた要素がある。それは、ある数字を鮮明に頭の中に刻み込んで日々ベストを尽くしてきたこと。山本は、「全力で投げて133キロ出なければ即引退する」と周囲の人たちに宣言している。この133という数字は、彼が経験から割り出したものなのだ。
 どうして130キロでも、135キロでもない133キロという中途半端な数字なのか。これは山本自らが経験則から決めた、バッターとストレート勝負できる最低の球速なのである。
 数値化は、私たちに高いレベルのモチベーションを与えてくれる。つまり、本番における実現したい具体的な数字を入れた目標を宣言して頑張れば、私たちは驚くほど凄いパワーを発揮できることを山本は知っているのだ。
 三振には二種類存在する。「見逃し」と「空振り」である。山本に言わせれば、打者が見逃して三振するほうが、空振りするよりも快感だという。そのことについて彼はこう語っている。
 「僕は断然『見逃し派』。打者はバットを振ることすらできなかったという点で、空振り以上に気持ちがいい」
 山本のように、長期間にわたり、日々持続できる作業を日課に組み入れよう。それだけでなく、自分の仕事上のこだわりを一行で表してその中に必ず数字を入れてベストを尽くそう。それだけで、自然にモチベーションを上げて全力投球できる自分を発見できるようになる。


執筆者
児玉 光雄

1947年兵庫県生まれ。追手門学院大学客員教授。京都大学工学部卒。スポーツ心理学者。アスリートのコメント心理分析のエキスパートとして企業を中心に年間70回のペースで講演活動をしている。著書は『Kのロジック 錦織圭と本田圭佑 世界で勝てる人の共通思考』(PHP研究所)をはじめ180冊以上。

掲載:東商新聞 2015年11月10日号

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