トップアスリートから学ぶ勝者のメンタリティ

第2回 カズのように一日単位で完全燃焼させよ

2016年5月17日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2015年10月10日号

 「キング・カズ」こと、三浦知良選手は2015年の2月26日に48歳になった。そして、相変わらず現役最年長プロサッカー選手としてチャレンジし続けている。カズがいまだにチームに貢献するためにピッチで頑張れるのは、自分はまだまだ進化しているという手応えがあるからだ。

 知能は2種類に分類できる。流動性知能と、結晶性知能である。記憶力や計算力は典型的な流動性知能であり、身体で覚えた技で代表される能力が結晶性知能である。加齢により急速に衰えていく流動性知能と違い、長い年月をかけて身体で覚えた結晶性知能はいくら歳をとっても衰えることはない。つまり、その気になれば、私たちは流動性知能をいくつになっても進化させていくことができる。ほとんど欲しいものすべてを手に入れたはずのカズを本気にさせているのは、自己実現の欲求で間違いない。
 半世紀以上前に心理学者アブラハム・マズローは「五段階欲求説」を唱えた。私たちの欲求は階層を形成しており、一番下位の位置するのが生命の欲求、その上に安全の欲求が存在する。それらが満たされると三番目に親和・帰属の欲求、そしてその上に存在する自尊心の欲求を私たちは追い求める。そしてそれらの欲求がすべて満たされれば、残るは最上位に位置する自己実現の欲求だけとなる。
 「もっと上手くなりたい」、「最高のプレーをしたい」、「ファンを感動させるゴールを実現したい」など、これら自己実現の欲求がカズに高いレベルのモチベーションを与えている。
 カズは今日という一日に人生を懸けている。昨日の自分よりも今日の自分、今日の自分よりも明日の自分のほうがほんのわずかであるが進化している。その手応えが彼を一流のプロサッカー選手に仕立て上げたと、私は考えている。
 考えてみれば、私たちの人生は今日しかない。昨日はすでに終わってしまったもの。そして明日はまだ来ていない。だから、「一日一生」という切実感を持って目の前の仕事に全力投球することが私たちには求められる。しかし、ともすれば、私たちは明日があると思って、その日やるべきことを手抜きして後回しにしてしまう。結果的に妥協が私たちから進化することを遠ざけてしまっている。
 いまだにカズほど運動量の多い40歳台のアスリートはどこを見渡しても、あまり見当たらない。一端ピッチに立ったら、カズはピッチを去るまでチームで一番動き回る。「その日持てる力を出し切る!」―これこそカズの自己実現そのものなのだ。たとえどんな結果に終わろうとも、その日やるべきことに全力投球して努力を積み重ねる。この姿勢を私たちはカズから学ばなければならない。
 一日単位で完全燃焼。これこそカズに凄い仕事をさせている原動力である。この世の中は、そういう生き方をしている人間だけが成功できるようになっている。私の大好きなカズの言葉がここにある-「人生頑張っていればいいことがあるさ。言葉にしちゃうと単純でも、これ以上の言葉もないよ」(『とまらない』三浦知良著 新潮新書刊より)。
 とにかくカズのように、目の前の一日を完全燃焼させよう。人生にペース配分なんて要らない。人生とは、100mダッシュの連続なのだ。毎朝心のタンクを満タンにして出社し、昼間持てるエネルギーを完全消費してガス欠状態でヘトヘトになってその日の夜ようやくベッドにたどり着き、数分以内に深い眠りに入る。これを一日単位で繰り返すことこそ、人生を成功に導く行動パターンなのである。


執筆者
児玉 光雄

1947年兵庫県生まれ。追手門学院大学客員教授。京都大学工学部卒。スポーツ心理学者。アスリートのコメント心理分析のエキスパートとして企業を中心に年間70回のペースで講演活動をしている。著書は『Kのロジック 錦織圭と本田圭佑 世界で勝てる人の共通思考』(PHP研究所)をはじめ180冊以上。

掲載:東商新聞 2015年10月10日号

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