BCP 中小企業の 事業継続マネジメント

第5回  「標準化」で事業継続力を高める

2015年11月17日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2015年3月20日号

事業継続力の向上の取り組みについてのポイントを紹介します。(全5回)

 前回お伝えした事業継続マネジメント(BCM)の要諦のうち、今回は特に、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が使えなくなった場合の代替策について、具体的に考えていきます。典型的な例として、工場や設備が使用できなくなった時に備えて、別の工場などで代替生産できるようにしておく、という方法が考えられます。しかし、こうした多額の投資を伴う選択肢を検討する前に、もっと安価に、現有の経営資源の中でうまく工夫し、事業継続力を高める方法がないかどうか、検討することをお勧めしたいと思います。ここで考えられる方法の一つが、標準化(または共通化)です。一般的には、標準化は品質管理やコストダウンのために行われることが多いのですが、BCMにもメリットがあります。

■業務手順や設備等の標準化

 作業手順の標準化により特定の人に依存する業務を減らし、ある人が仕事を休んだ場合でも他の人が代わりにできるようになれば、その分だけ事業を継続できる可能性が高くなります(製造業を中心に取り組まれている多能工化によっても同様の効果が期待できます)。ここで、手順の標準化が事業継続に役立った事例を紹介します。
 米国の大手運送会社であるUPS社は、ケンタッキー州のルイビル国際空港に大規模な貨物ターミナルを持っています。ここでは数千人の従業員が働いていましたが、1994年1月に発生した大雪のために空港周辺の交通がまひし、州が緊急事態宣言を出して外出を禁止したため、従業員が出勤できなくなりました。空港は1日で再開されたものの、外出禁止は5日間続いたため、UPS社は他の拠点の従業員を飛行機でルイビル国際空港に送り込み、貨物ターミナルの操業を再開させました。このような代替策が可能だったのは、UPS社における作業手順が徹底的に標準化されていたからです。貨物の仕分け設備等にも互換性があったため、他の拠点から送り込まれた従業員でも、普段通りに作業することができました。

■部品や原材料の標準化

 製造業であれば、部品や原材料の標準化を図ることによっても、事業継続力を高められる可能性があります。製品の生産に特殊な部品や原材料を用いると、それらの仕入れを特定のサプライヤーに依存することになるため、そのサプライヤーが災害や事故によって生産停止に陥ると、自社の生産活動も止まってしまいます。逆に、部品や原材料が特定のサプライヤーに依存しない汎用品であれば、平常時に仕入れているサプライヤーからの供給が止まった場合でも、他のサプライヤーから調達できる可能性が高くなります。

■経営戦略と合わせて考えるBCM

 多くの方は「BCMには余分なコストがかかる」というイメージをお持ちだと思いますが、ここで述べてきたように、標準化によって事業継続力の向上を実現できれば、BCMとコスト削減を両立できる可能性があります。
 もちろん、何をどこまで標準化するかはBCMの観点だけで決められるものではなく、特殊な部品や原材料、製造工程の採用による商品価値の向上や顧客ニーズへの対応、コストなど、さまざまな観点から検討されるべきものです。したがって、標準化による事業継続力の向上は、単にBCMの範囲にとどまらず、経営戦略の一環として社内で議論される必要があります。中小企業であれば比較的このような議論もやりやすいと思いますので、ぜひ経営レベルの議論にBCMの観点も含めていただき、会社全体として合理的なBCMを目指してください。

標準化による事業継続力の向上

標準化による事業継続力の向上


執筆者
田代 邦幸(たしろ・くにゆき)

自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年にインターリスク総研に入社し、現在に至る。一貫して事業継続マネジメント(BCM)や、災害対策に関するコンサルティングを担当。国際危機管理学会日本支部理事

掲載:東商新聞 2015年3月20日号

以上