BCP 中小企業の 事業継続マネジメント

第4回  事例に学ぶ事業継続マネジメントの要諦

2015年11月10日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2015年3月10日号

事業継続力の向上の取り組みについてのポイントを紹介します。(全5回)

 今回は、BCPによって大規模災害から早期の事業再開を果たした企業の事例をもとに、事業継続マネジメント(BCM)に取り組む上での要諦を学びます。

■東日本大震災で有効だったBCP

 宮城県名取市のオイルプラントナトリは、従業員数が約40人(被災当時)の廃棄物リサイクル事業者で、産業廃棄物や廃油、油水などのリサイクルや中間処理、バイオディーゼル燃料(BDF)の製造・販売など様々な事業を展開しています。同社では、あるセミナーがきっかけで、大企業を中心にBCPへの導入が始まっていることを知り、将来これが自社にも要求されることになると考えて、取り組み始めました。試行錯誤の末、2011年1月に同社のBCPが出来上がりますが、その直後の3月に東日本大震災が発生しました。
 同社の事業所は津波の直撃を受け、リサイクル処理に必要な設備の大半を失いました。大企業と違って代替工場も無く、設備の復旧には数カ月かかるという、非常に困難な状況に陥りましたが、被災から6日後には再生重油事業を、11日後には油水加工事業(水溶性廃棄物の中間処理)を再開させました。設備に致命的な損害が発生したにもかかわらず、これだけ短期間で事業を再開できたのは、他県の同業者の協力が得られたからです。再生重油に関しては、同社が顧客から回収した廃油の加工処理を他県の同業者に依頼し、加工済みの製品を自社の車両で顧客に納入するという形で、暫定的に事業再開を果たしました。なお、油水加工については、残存施設で工夫して加工処理を行いました。
 しかしながら、全ての事業をこのように短期間で再開できた訳ではありません。同社が「中核事業」として位置づけている、再生重油事業と油水加工事業の再開・継続に経営資源を集中させるため、BDFなど他の事業の再開は当面見合わせるという判断をしました。もしここで全ての事業の再開を目指そうとしたら、中核事業の再開が遅れた可能性があります。大胆な取捨選択によって中核事業の早期再開を実現し、早い段階から売上収入が得られるようになったことが、同社の復旧に大きく寄与しました。

■BCPが有効だった理由は何か?

 同社が事業の早期再開に成功した主な要因が3つあります。1つ目は、災害発生後に優先的に再開させる事業を、BCPの中で「中核事業」として決めてあったことです。このおかげで、災害発生後に迷わず迅速に取捨選択ができました。
 2つ目は、中核事業に必須の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が使えなくなった場合の代替策を決めてあったことです。同社の場合は、加工設備が使えなくなった場合に他県の同業者に加工処理を依頼することが決めてありました。このように、優先的に再開させる事業や、その事業に必須の経営資源を確保する現実的な代替手段を決めておくのは、全ての企業のBCPで押さえるべきポイントです。
 実は同社のBCPでは津波が想定されていませんでしたが、ページ数も多くないシンプルなBCPの中に、前述のような最も大事な要素が含まれていたため、BCPを臨機応変に活用して想定外の災害に対応することができました。
 3つ目は、平常時から他県の同業者との間で協力関係を築いていたことです。契約や協定は締結していませんでしたが、災害が発生した時の相互協力について事前に申し合わせ、平常時から業務の一部を委託して取引関係を作っておくなど、緊急時の業務委託をスムースに進められる環境を整えていました。
 今後起こり得る大規模災害を考えると、企業が独力で生き残るのは非常に困難と言わざるを得ません。そのため、普段は市場で競合する相手であっても、災害対応に関して協力関係を築いていくのは、特に中小企業にとって有効なアプローチと言えます。


執筆者
田代 邦幸(たしろ・くにゆき)

自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年にインターリスク総研に入社し、現在に至る。一貫して事業継続マネジメント(BCM)や、災害対策に関するコンサルティングを担当。国際危機管理学会日本支部理事

掲載:東商新聞 2015年3月10日号

以上