信用調査のツボ―プロは企業のココを見る

第3回  モノの動きを捉える

2015年8月11日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2014年11月20日号

信用調査の基礎を学び、取引先の見分け方のスキルアップのポイントを紹介します。(全5回)

企業の3大経営資源は「ヒト・モノ・カネ」と言われています。そこで今回は「モノ」にスポットをあててみます。

 まずは最初に「モノ」の流れを把握します。取引先はどこから商品を仕入れて、どこに販売しているのか。これを「商流」と言いますが、意外と知られていないのが、買い先の買い先、売り先の売り先です。つまり2次取引先は誰かと言うことです。実は東日本大震災のあと、国内の自動車メーカーが一時操業停止に追い込まれましたが、これは部品の供給がストップしたことが原因でした。ところがいったいどこの部品メーカーが被災の影響を受けているのかが、最終購入先である自動車メーカーでは分からず、再開に際して大きな問題となったこともあります。このようにBCP(事業継続計画)の観点からも、商流把握は重要と考えられています。また、取引先の倒産時における、先取特権、先取特権物上代理による債権回収においても、普段からの2次取引先の情報収集が重要となってきます。 

不自然な流れにも注意
 また「モノ」の流れる方向も注目すべきポイントです。たとえば本来、「メーカー→問屋→小売」であるところが、「小売→問屋→メーカー」といった逆の流れのケースです。受け取った手形の振出人と、受取人、裏書人との関係で、こういった通常の流れとは逆のものが見受けられることもあります。これは商取引を伴わない資金繰りを目的とした融通手形の疑いなどが考えられます。また、「A→B→C→A」といった、複数の企業を介して商品がもとの企業に戻る「循環取引」なども、支払いを巡るトラブルとなる可能性が高いと言えます。大手企業の名が取引の中にあったためにすっかり信用してしまい、詳しく調べることなくこの取引に巻き込まれ、多大な損失を被ることになった企業も少なくありません。最近では健康食品、飼料、LED照明機器などの取引が使われました。いずれも現物は動かず、伝票だけのやり取りが特徴です。

一点集中の持つリスク
 「モノ」を、どこから調達して、どこに販売しているのか。その場合売り買い双方とも、あまりに1社に集中しすぎている場合も要注意です。売り先の販売額が偏っていると、その売り先がもしもの時は売上の大半を失うことになります。また仕入れ先も集中していると、何らかの原因で商品の調達が出来なくなれば、信用力に乏しい中小企業が、すぐに他社へシフトすることは難しいといえます。

在庫が示すシグナル
 財務分析の観点では「モノ」の量を測る目安として「棚卸資産回転期間」が一般的です。棚卸資産(在庫、仕掛品、原料など)÷月商で表され、業種によって差がありますが、帝国データバンクの財務諸表分析統計によると全産業総平均は約0.94カ月となります。数値は少ないほうが健全とされ、在庫削減などが企業経営に求められます。また一方で、売上高と在庫水準との関係を見れば決算内容の問題点も見つかります。
 上図のA社のケースでは、売上高が減少して利益が出ない決算期は、在庫を水増しして黒字を装う「粉飾決算」に手を染めていました。そのため、棚卸資産回転期間が最大4カ月と不自然な推移を示しました。
 このように「モノ」の指標である棚卸資産データは、あぶない会社を見分けるツールともなりうるわけです。


執筆者
藤森 徹(ふじもり とおる)

帝国データバンク 東京支社 情報部部長
企業倒産を専門に扱う「情報部」に22年在籍し、数千社の事例を取材した財務内容のほか、「ヒト、モノ、カネ」を切り口に、外部、内部の両面から企業の将来を分析する。週刊エコノミスト、日経新聞電子版「信用調査マンの目」など執筆。

掲載:東商新聞 2014年11月20日号

以上