経営戦略としてのワークライフバランス

第6回 職場マネジメントが鍵に

2015年7月21日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2014年10月10日号

ワーク ライフ バランスを推進しようとすると、働き方やマネジメントなど既存の仕組みを大きく変えなくてはならない状況にぶつかる。経営戦略から落とし込んだ人材戦略について紹介します。(全6回)

管理職は「ゲートキーパー」
 ワーク・ライフ・バランス(WLB)が、企業の制度整備だけでは実現しないことを、本連載では繰り返し述べてきました。ダイバーシティ(多様性)推進の観点から柔軟な働き方への転換を重視する欧米企業では、フォーマルな制度整備以上に、職場でのインフォーマルな運用が重要と考えられ、職場のマネジャーはWLB推進の「ゲートキーパー=門番」という表現が使われることもあります。
 いつ・どこで・どのように働くかということは、職場の状況に応じて柔軟に対応するのが最も効果的です。管理職が仕事の配分を工夫し適切な業務管理を行うことで、従業員の柔軟な働き方が実現し、職場の生産性も上昇すると考えられています。このため欧米では、管理職に対して、柔軟な働き方を進めるための職場管理についての研修やワークショップなどを展開し、働き方改革を着実に推進させようとする企業が増えています。海外では、上司のタイプによって、部下の働き方、WLBへの満足度、さらには睡眠時間や健康状態にも影響が出るという研究蓄積も行われてきています。

求められる管理職像の変化
 日本でも、最近は「イクボス(部下の育児参加に理解ある上司)」が注目されています。とはいえ、その内容は育児にとどまらず、部下のWLBに配慮し、自身のWLBについての意識も高い管理職としてとらえられているようです。
 育児や介護責任を担うなどさまざまな制約がありながら、仕事でも責任を果たしたいと考える従業員が増加している状況下で、管理職に求められる能力・資質も変化してきています。従来のように、仕事ができてリーダーシップがあるということにとどまらず、部下とコミュニケーションをとって個々の状況を的確に把握し、個別事情に配慮しながら適切に職場管理ができる能力が重要になってきました。
 WLB推進で有名なイギリスの通信会社を訪問した際に、人事部のマネジャーが、「部下が目の前にいないと仕事をしていない、評価できないと考える管理職はWLB推進の妨げであり、こうした管理職の意識を変えることが非常に重要だ」と話していたのが印象的でした。WLB支援への理解が低い管理職は、管理者としての資質が問われる時代になってきているのです。
 私がメンバーとして参加している東京大学社会科学研究所のWLB推進・研究プロジェクトでは、管理職に対する研究結果を踏まえ、2010年に「職場のWLB実現に向けた提言」として以下の4点を指摘しました。

〈提言1〉部下のWLBと職場生産性向上の両者の実現には、管理職が部下の業務遂行状況を把握し支援する能力を高めることが重要
〈提言2〉部下のWLBと職場生産性向上の両者の実現には、管理職自身がメリハリをつけた働き方を実践するとともに、所定内労働時間で仕事を終えることを推奨する意識を持つことが重要
〈提言3〉労働時間・休憩・休日に関する労働基準法上の規定の適用から除外されている管理職に対しても労働時間や働き方をモニタリングし、管理職が長時間労働になることを抑止して「適正な部下管理」を実行できる時間を確保することが重要
〈提言4〉会社によるWLB支援への取組や労働時間管理の改善に向けた取組は「管理職のマネジメント」力を高めることから、企業は組織的にこれらに取り組むことが重要

 WLBを推進しようとすると、働き方やマネジメントなど既存の仕組みを大きく変えなくてはならない状況にぶつかります。したがって、なぜそれを進めるのか、という点について、経営戦略から落とし込んだ人材戦略を明確にして施策を推進することが何よりも重要です。経営者のリーダーシップによって各社の状況に合わせたWLB支援に取り組むことが、企業組織の活性化、持続可能な発展につながるということを、最後に強調したいと思います。


執筆者
武石 恵美子(たけいし えみこ)

法政大学キャリアデザイン学部教授博士(社会科学)
筑波大学卒業後、労働省(現厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所等を経て、2007年4月より現職。

掲載:東商新聞 2014年10月10日号

以上