経営戦略としてのワークライフバランス

第4回 従業員の介護責任の増大にどう対応するか

2015年7月7日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2014年9月10日号

ワーク ライフ バランスを推進しようとすると、働き方やマネジメントなど既存の仕組みを大きく変えなくてはならない状況にぶつかる。経営戦略から落とし込んだ人材戦略について紹介します。(全6回)

従業員の介護責任の高まり
 人口の高齢化を背景に、従業員が親族の介護を担うケースが増えています。筆者らの調査では、40~50歳代で働く人の1割前後がすでに介護責任に直面しています。また、現在していなくても、今後介護の可能性があると思っている人は多数を占め、また、そのほとんどが介護に不安を感じています(左図)。今後増大する従業員の介護責任に企業としてどう向き合うのかが人事管理の重要なテーマとなってきました。
 同じ家族的責任でも、介護への対応は、育児の場合と異なる点が多いことに留意が必要です。育児に比べると年齢の高い層が介護責任を担うため、役職者など企業の基幹的な仕事に就く従業員が直面するケースが多くなります。また、男性の場合も多いなど、他者で業務代替することが難しく、介護を理由に離職することがあれば、組織が受けるダメージは大きなものがあります。
 介護は、育児のように前もって時期を予定することが難しいために緊急の対応に迫られ、また、いつまで続くのか、状況がどのように変化するのか予測がつかないという不透明さが、人事管理面での対応をさらに難しくします。

企業は介護問題にどう向き合うか
 仕事と介護の両立支援策としては、3カ月間の介護休業の取得が法律で保障されており、それに加えて、勤務時間の短縮などの措置が事業主に義務付けられています。各企業において、法律に基づく対応が進んできていますが、法定の3カ月の休業では短いのではないかと、期間の長期化を検討する企業も少なくないようです。
 しかし、職場でいつ復帰するかわからない従業員のために長期間ポストを空けて待つことは難しく、今後は介護責任を担う従業員が職場内で複数出てくる可能性を念頭に置いて、支援のあり方を考えることが必要です。
 人事管理として対応する際には、仕事と介護の「両立」を支援する、つまり仕事を続けながら介護することをいかに支援するか、という視点が重要になります。親族がある日突然要介護の状態になった時には、一定の休業期間が必要です。しかし、従業員本人が介護することを前提にして、職場で何ができるのかを考えても限界があります。本人がすべての介護を引き受けるのではなく、外部の介護サービスの資源などを活用しながら仕事に復帰して、仕事の責任を果たしつつ、一定の介護責任を担えるような支援策のあり方を検討することが企業としての現実的な対応といえるでしょう。
 そのためには、職場の中で従業員の介護負担の状況を正確に把握することが出発点となります。何よりも職場で相談できる体制・雰囲気を作ることが不可欠です。その上で、介護負担の状況を職場で共有して、職場の体制を整え、業務運営を工夫することになります。介護の状態は多様なため、週のうち何日かを短時間勤務にする、週の労働日を減らす、あるいは部分在宅勤務で対応できるようにする、といった支援策が有効なことが多いようです。
 もう一つ重要な施策のターゲットは、「いつ介護責任が発生するかわからない」と不安を感じている従業員です。組織としては、そうした従業員の不安に向き合うことも求められます。従業員に介護に関する基礎的な情報を提供する、企業の制度を周知するなど、機会をとらえて介護と仕事の両立支援に関する組織のスタンスを伝えていくことも重要な取り組みといえます。

WLB推進・研究プロジェクトによる調査

WLB推進・研究プロジェクトによる調査


執筆者
武石 恵美子(たけいし えみこ)

法政大学キャリアデザイン学部教授博士(社会科学)
筑波大学卒業後、労働省(現厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所等を経て、2007年4月より現職。

掲載:東商新聞 2014年9月10日号

以上