経営戦略としてのワークライフバランス

第3回 女性の活躍推進とWLB支援 女性の勤続長期化への対応

2015年6月30日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2014年8月20日号

ワーク ライフ バランスを推進しようとすると、働き方やマネジメントなど既存の仕組みを大きく変えなくてはならない状況にぶつかる。経営戦略から落とし込んだ人材戦略について紹介します。(全6回)

 政府の成長戦略において、女性活躍推進のための政策が重視されています。女性役員の登用や女性管理職比率の引上げなど、数値目標を掲げる企業も増えてきましたが、安易な数値設定に走らず、明確な方針で着実に取り組むことが求められます。今回は、女性の活躍推進について、WLB支援との関連でとらえます。

 近年、WLB支援策の充実に伴い、女性の勤続年数が伸びてきました。妊娠や出産を契機に離職する女性は、特に正社員では減少傾向にあります。女性の企業定着の向上により、長期勤続を前提にした能力発揮策が、改めて重要になってきました。
 これまで、女性が男性と同様の処遇を受けられない理由として、女性の勤続年数の短さが指摘されてきました。長期雇用を前提に人材育成計画を立てている企業にとって、勤続年数が男性に比べて平均的に短い現状では、女性の育成に及び腰になってもやむを得ないと考えられてきたのです。これが、男女の処遇面での格差を説明する有力な理論である「統計的差別理論」です。男女の勤続の実態を踏まえると、女性への育成投資を控える企業の行動は合理的であるともいわれてきました。
 しかし、一つの企業に定着する女性が増え、男女を区別する合理性が崩れてきている中、その女性の能力発揮を進めなければ効果的な人材活用はできません。ここで重要なのは、女性の意欲、能力を高めるために、現場のマネジャーを巻き込んだ育成のあり方を検討することです。
 女性が定着しているのに、職域が広がらない、管理職に登用されない、という状況があるとすれば、女性の活躍につながる「パイプライン」が詰まっていることが考えられます。配置や昇進において男女に差がみられるのが一般的ですが、その背景には、配置方針や評価制度などの人事制度、長時間労働が恒常化しているなどの働き方の問題、業務配分や育成方針などの職場マネジメントの問題など、男女間の格差につながる社内の構造があるはずです。こうした現状について分析をし、阻害要因を取り除くことが必要になります。

子育て期こそキャリア形成を
 妊娠・出産を経て継続就業する女性の増加は、特に、子育て期のキャリアの積み方に留意が必要です。子育ての時期は職場の配慮が必要であるからと、責任の軽い仕事や外部との折衝が少ない仕事に変えるなど、子育てへの「一方的な配慮」がなされることがままあります。しかし、これによって女性の仕事への意欲が低下し、その後のキャリアに影響が出てしまうケースがあることに注意しなくてはなりません。
 意欲が低下すると、子育てを優先する意識になり、休業制度や時短勤務などの両立支援制度を必要以上に利用することにつながりかねません。子育てをしているからといって一律的に対応をしていると、こうした問題が生じます。高い能力を持つ人材には、それに見合った仕事を任せる、そのために何か工夫できることはないかということから出発することが重要です。個々人の状況を丁寧に把握し、仕事の質を低下させずに能力を発揮するために職場でできること、女性本人に期待することなどについて、職場の中で上司が丁寧にコミュニケーションをとることが重要です。
 子育て期にキャリアが積みにくいもうひとつの要因として、周囲の働き方の問題も指摘できます。つまり、育児休業などから復帰する際に、同僚がハードな働き方をしていると、女性は時短勤務や残業免除などの制度を利用しないと働けない状況になります。そのため、子育て期の人だけが極めて特殊な働き方となってしまい、キャリアを積むことが困難になるという構造になります。
 WLB支援策は、施策利用者となる社員の「活躍」という側面に留意しないと、施策が意図した結果とは異なる方向に向かってしまうことがあります。これは次回取り上げる介護の問題でも同様です。


執筆者
武石 恵美子(たけいし えみこ)

法政大学キャリアデザイン学部教授博士(社会科学)
筑波大学卒業後、労働省(現厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所等を経て、2007年4月より現職。

掲載:東商新聞 2014年8月20日号

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