再考 インフレ論

第6回 今後の物価の見方につき検討すべきテーマを整理する

2015年6月9日
東京商工会議所
掲載:東商新聞 2015年2月10日号

物価上昇とは何を意味するのか、景気や企業経営、為替、金利等の経済要因とどのように関係するのか、さらにはインフレは経済にとって歓迎すべきものなのか等々、物価を多面的に紹介します。(全6回)

 前回までに物価あるいは物価指数につき多方面から検討してきました。おそらく多くの方は「現在の物価指数データというものはそれほど盤石なものではないのだな」、「まだまだ改良の余地があるんだな」という印象をお持ちになったと思います。
 連載最終回の今回は、以上の問題意識を踏まえたうえで、今後の物価を見ていくうえで注目しておきたい点を3つ取り上げておきます。

 1つ目。消費者物価指数としてオーソライズされている「生鮮食品を除く消費者物価指数」は必ずしも生活実感には合わないことはすでに述べました。すなわち、調査対象商品の入れ替えは5年ごとであり、その間により廉価な、あるいは高品質な商品が登場して消費者の購入商品がそれにシフトした場合でも、「購入商品は不変」という原則で指数が算出されることです。これを多少でも実感に近いデータに近づけるためには、もっときめ細かく指数算出の対象商品の入れ替えを行なっていく必要があると考えられます。

 2つ目には、多くの人が漠然と思い込んでおられたほどには、商品を巡る国内の需給バランスが価格形成には影響を与えていません。つまり、円相場と海外商品相場が国内物価に与える影響がきわめて大きいのです。奇しくも日銀が10月末に行った追加緩和は「原油価格の下落」による物価指数の下落に歯止めをかけるという性格のものでした。この事実は、わが国の消費者物価が国内の需給バランス以上に、原油など海外のドル建て商品市況の影響下にあることを多くの人に印象付けました。
 この点に関しては、「生鮮食品を除く消費者物価指数」ではなく、「食料並びにエネルギーを除く消費者物価指数」を重視することも一考に値します。現在こうした考え方が徐々に優勢になりつつあります。

 3つ目。2013年4月から明確な形で始まった日銀によるインフレターゲット政策がきわめて微妙、かつ本質的な問題をはらみ始めたことです。元来「2年後に2%のインフレを目標に」という具体的な政策目標は、企業、家計部門にインフレ期待を抱かせることを通じて設備投資、消費を促進することが狙いでした。インフレ期待醸成→デフレ懸念からの脱却→投資・消費の促進→成長率の底上げ、という景気回復へのプロセスが有効だと信じられていたのです。
 しかし、一方では昨年後半から顕著になった原油価格などの下落は、国内生産コストを低下させるとともに、物価沈静に伴う実質購買力を増大させています。これは間違いなく国内経済にとってはプラスであることが誰の目にも明らかになってきています。
 つまり、インフレ予想を掻き立てて消費、投資を促進するのと、原油価格下落、円安の一服などでインフレ率が適度に下がることにより実質所得並びに、実質購買力が上がることで消費、投資が活発化することとどちらの経済的メリットを重視すべきか、という問題を真正面から突き付けられた格好なのです。

 このテーマは今後の企業経営のみならず家計消費の先行きを読むうえで、とても本質的なテーマです。読者の方々は如何お考えでしょうか?
 しばらくの間でしたが本欄をご愛読いただきありがとうございました。


執筆者
株式会社金融データシステム 代表取締役 角川 総一

掲載:東商新聞 2015年2月10日号

以上